ヒューストンの消防士年金基金「Houston Firefighters’ Relief and Retirement Fund(HFRRF)」は先日、ビットコイン(BTC)とイーサ(ETH)に2500万ドルを投資してニュースになった。アメリカの年金基金がバランスシートで直接暗号資産を保有したのは、初めてのこととされている。
もちろん、同基金が保有する55億ドルの総資産からすれば、2500万ドルはわずかなものだ。正確には、ポートフォリオのわずか0.5%に過ぎない。
しかし、伝統的に保守的とされる年金基金としては、注目すべき最初の一歩であった。他の年金基金も後に続けば、合わせれば数兆ドルの資産を管理するこれら基金からの暗号資産への投資の道が、大いに開かれることになる。
HFRRFは、より広範な意味で暗号資産に投資した初めてのアメリカの年金基金ではなかった。その「米国初」というタイトルは、2018年にモーガン・クリーク・デジタル(Morgan Creek Digital)が運用する信託に投資を開始し、最終的に合わせて7300万ドルを投資することになったフェアファックス郡警察官年金システムとフェアファックス郡従業員年金システムが獲得した。
しかし、モーガン・クリークの信託はビットコインよりもブロックチェーン寄りのもので、フェアファックスの年金基金は、その投資をベンチャーキャピタル投資と考えていた。
今年9月、72億ドルの資産を運用するこれら2つの年金基金が、デジタルトークンや暗号資産デリバティブを買うパラタクシス・キャピタル・マネジメント(Parataxis Capital Management)の信託に5000万ドルの投資を計画中というニュースが報じられた。この投資はその後、年金基金の理事会に承認されている。
さらなる暗号投資を検討しているか、直接投資も考えているかを聞かれると、警察官年金基金の最高投資責任者キャサリン・モルナー(Katherine Molnar)氏は「暗号資産・デジタル資産分野でのさらなる投資を検討している」と答えた。
「どのような形態の投資にするか、最終決断はしていない。この分野の成長見込みについては、前向きなままである」と、モルナー氏は語った。
広がる投資トレンド?
バンク・オブ・アメリカは先週、デジタル資産にフォーカスしたレポートの中で、暗号資産への年金投資に触れた。
「私たちの分析では、多くの年金基金はいまだに、検討段階にある。アメリカにおける州の年金基金は、会計年度2019年末時点で未積立債務が最大1兆2500億ドルと、大いに資金不足となっており、年金資産と債務の差異を投資で埋め合わせようとする多くの試みが見られる。
年金基金は2020年末時点で、世界的な運用資産が35兆ドルとなっており、より多くの年金基金が投資を始めた場合には、デジタル資産にとっての追い風の可能性は大きく潜んでいる」と、アナリストのアルケシュ・シャー(Alkesh Shah)氏とアンドリュー・モス(Andrew Moss)氏は指摘する。
バンク・オブ・アメリカのレポートは、HFRRFとフェアファックスの年金基金の投資にも言及し、オーストラリアで5番目に大きな年金基金のクイーンズランド・インベストメント・コーポレーション(Queensland Investment Corporation)が暗号資産投資に興味を示したことも指摘した。
一方で、南アフリカの年金基金は、先週発表された規則変更提案の元では、暗号資産への投資を禁じられるかもしれない。他の国々の年金基金も、暗号資産への投資に関して、似たような制限に直面する可能性がある。
例えばイギリスにおいては、年金基金は専門の投資マネージャーを雇って投資を代わりにしてもらい、基金の理事らは日々の運営に参加することはできないと、イギリスにある年金運営会社カルダノ・インベストメント(Cardano Investment)のCEO、ケリン・ローゼンバーグ(Kerrin Rosenberg)氏は説明した。
「資産クラスとしての暗号資産に対して、戦略的な投資分配を実際に検討しているイギリスの年金基金についての情報は把握していない。コンサルタントが使う資産分配モデルの大半は暗号資産を対象としておらず、もし聞かれたら、コンサルタントはおそらく異議を唱えるだろう」と、ローゼンバーグ氏は述べる。
「しかし、より広範な負託の一環として、投資マネージャーがより限定的に暗号資産投資を行う可能性はある」と、ローゼンバーグ氏は付け加えた。
ロンドンにあるデジタル資産取引インフラ開発企業エルウッド・テクノロジーズ(Elwood Technologies)のCEO、ジェームズ・スティックランド(James Stickland)氏も、アメリカの年金投資トレンドがイギリスで広がることには懐疑的だ。
「イギリスでは、銀行、ヘッジファンド、民間企業、さらにはファミリーオフィスからの需要が高まっている。それでも、年金基金がポートフォリオのほんの少しでも、ビットコインのようなリスク資産に分配すれば、それは前例のない事態だ。アメリカの年金基金の後に続くようなことは、すぐにはないと思うが、インフレ懸念が続けば、可能性はある」と、スティックランド氏は指摘した。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
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|原文:Pension Funds Wade Gingerly Into Crypto Investments