フェイスブックは先週、気がかりな発表を行なった。その大きなポイントは、同社が「メタバース」に全力で取り組むつもりという点だ。
メタバースとは、バーチャル・リアリティ(VR)や拡張現実(AR)テクノロジーを通じてアクセスできる、実世界の上に築かれた持続的なデジタルレイヤーのことである。
言葉の起源を辿ると…
メタバースというコンセプト自体は、新しいものではない。SF作家たちは、数十年にわたって、このような未来を予言してきた。ヘッドセットを装着すれば、没入型のデジタルで、ファンタジーな世界にたどり着ける。
whenever some tech person says “the metaverse” please remember that the term was coined by Neal Stephenson in 1992 to describe an exploitative, corporatized, hierarchical space that ultimately kinda sucks https://t.co/9OMTC0F1Wa pic.twitter.com/RTSLbNGvR7
— Kyle Chayka (@chaykak) 2021年8月6日
「テック関係の人から『メタバース』という言葉を聞く時には、この言葉は1992年、ニール・スティーヴンスンが、搾取的で企業の傘下に置かれた階級的な、突き詰めれば最悪な世界を表現するために作り上げたものということを思い出そう。
(以下雑誌『ニューヨーカー』からの抜粋)フィクション作家ウィリアム・ギブソンが生んだ『サイバースペース』という言葉同様、『メタバース』という言葉も文学の世界に起源を持つ。1992年のニール・スティーヴンスンの小説『スノウ・クラッシュ』の中で、主人公のヒロはディストピア的なロサンゼルスの街で、プログラミングやピザ配達の仕事を時折しながら、『コンピューターがゴーグルとイヤフォンに届ける世界』メタバースに熱中している。
メタバースは、この小説の架空の世界の中では定着したものであり、実世界と仮想世界をスムーズに行き来する登場人物たちの暮らしにはお馴染みの要素である。黒い地面に黒い空。ラスベガスの永久に続く夜のような、スティーヴンスンのメタバースは、建物や標識が『大手企業によって作られたソフトウェアの様々な部分』を象徴する、無秩序に広がる通り『ストリート』から構成される。
企業はグローバル・マルチメディア・プロトコル・グループと呼ばれる組織に対価を支払って、デジタル不動産を手にしている。ユーザーもアクセス料を支払う。より安価なパブリック端末の料金しか支払えないユーザーは、画質の粗い白黒で表示される」
フェイスブックのメタバースへの取り組みと、「メタ」への社名変更が非常に不思議な部分は、それが空想のフィクションのように感じられる点だ。CEOのマーク・ザッカーバーグ氏は、ログオンが一種の逃避である映画『レディ・プレイヤー1』のそのままの世界を思い描いているのだ。
技術的功績の新しい時代の幕開けに対する喝采を意図していたが、ザッカーバーグ氏のプレゼンはおおむね、聴衆を遠ざけるようなものだった。背景は完全に合成で、話し手は銃でも突き付けられているかのように不自然。80分が経過しても、このテクノロジーの有用性はよく分からないままだ。
消費者はメタバースを望んでいるのか?
CoinDeskのデビッド・モリス(David Morris)が指摘した通り、ブロックチェーン業界はすでに、メタバーステクノロジーで色々と試している。
Decentralandなどのバーチャル・リアリティプログラムは、財産権の形態としてノン・ファンジブル・トークン(NFT)を使っており、3Dの土地につながれたトークンを流通市場で売買可能だ。インゲーム通貨としての暗号資産であり、投資をゲーム化したものだ。
これすらも、少し「攻め過ぎ」な感じがする。私たちはオンラインで多くの時間を過ごすが、完全に実世界から切り離されている訳ではない。
DecentralandのネイティブトークンMANAは先日、フェイスブックの発表が後押しした投機熱のおかげで価値が急増したが、現時点で、顔が見えるズームでの会話よりもDecentralandでのバーチャルチャットを好む人がどれほどいるだろうか?
— 🎄Christmas Rachel🎄 (@tolstoybb) 2021年10月28日
現実には、このテクノロジーの一部は既に存在しており、しかもそれは、私たちが今暮らしを営んでいる方法により沿った形だ。いま存在するメタバースには、(フェイスブック傘下の)Oculusのヘッドセットは必要なく、私たちのデバイスがそのことを反映している。アップルは2020年、iPhoneの一部にLiDARスキャナの搭載を開始したが、これは実世界でレーザーを利用した測量を可能にするものだ。
インスタグラムやスナップチャット上のフィルタを使えば、ビデオ通話でも納得のいくデジタルメイクを施せる。(ティックトックは独自ツールセットに取り組み中だ)一部ファッション小売業者は、オンラインで買った洋服向けの、拡張現実のサポートを受けた「バーチャル試着」に賭けている。
フェイスブックが構想するメタバースは、これらのコンセプトの包括版のようなものだ。私たちを取り囲む世界が悪化する中で、私たちをより没頭させ、よりオンラインで過ごさせたがっているのだ。
いま存在するメタバースに関しては、すでに使っているシステムを補完する試みだ。私たちがオンラインで互いにやり取りする形を、完全に再構築するように求めたりはしない。
作家のハンソン・オヘイヴァー(Hanson O’Haver)はウェブメディア「Gawker」に掲載された『The Metaverse Is for Babies(メタバースは赤ちゃんのためのもの)』と題された文章の中で、「(シリコンバレー企業を運営していない)大人が(この)テクノロジーにワクワクするとは、ほぼ想像不可能だ」と語った。
雑誌「アトランティック」も先日、『(Metaverse Is Bad(メタバースはダメだ)』という同様に率直なタイトルの記事の中で、メタバーステクノロジーを「消費のブラックホール」になぞらえた。(SF映画『ゼイリブ』のプロパガンダ的広告のようだ)
VRにおける過剰に野心的なアイディアに対しては、消費者が抵抗してきた歴史がある。(Google Glassを思い出して欲しい)メタが成功するか失敗するかは、メタバースの世界に飛び込みたいと思う人が本当にいるかどうかにかかっている。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像: rafapress / Shutterstock.com
|原文:The Metaverse We Didn’t Ask For