作家で講演者のデイヴ・トロイ(Dave Troy)氏は10日、ビットコイン(BTC)を極右のアメリカ政治と明白に結びつけるツイートを投稿。ビットコインを擁護することを、「1月6日の米連邦議会襲撃の続き」と呼んだ。
I can’t stress this enough: the crypto attack on the dollar is not strictly a “pump and dump” or a “grift.” It’s an ideologically-driven attack on the legitimacy of fiat currency, the @federalreserve, and the incumbent financial system. It is the sequel to the January 6th attack.
— Dave Troy 🇺🇸 (@davetroy) 2021年11月9日
「いくら強調しても足りないくらいだが、ドルへの暗号資産の攻撃は厳密には『パンプ・アンド・ダンプ(価格を意図的につり上げたところで売り抜ける手法)』でも『詐欺』でもない。法定通貨の正当性、@federalreserve(FRB:米連邦準備制度理事会)、既存の金融システムへのイデオロギー的攻撃なのだ。1月6日の米連邦議会襲撃の続きだ」
当然ながら、トロイ氏には批判的な反応も寄せられた。少なくとも、トロイ氏の暗号資産(仮想通貨)批判は狭量なもので、政治的志向を越えて様々なプロジェクトに重要なツールとなり得る可能性を秘めたものとして、ビットコインや暗号資産をより幅広く捉えている思想家やアクティビストたちを度外視している。
トロイ氏の批判がどれほどとりこぼしているかを理解するために、ビットコインを積極的に受け入れている様々なグループや派閥の分類を以下に紹介する。この暫定的な内訳は、大まかに「左派」から「右派」へと流れるものだが、ビットコインの政治は時に、伝統的な政治志向を覆すものだ。
ここで私が目指したのは、様々な信条を持つ人たちの集まりを批評するのではなく、概ね実際的な概要を提供することであるが、読んで分かる通り、私の寛大さにも限りがある。
市場急進派
完璧な一覧にするためにここに含めているが、暗号資産の世界で最も従来的に「左派」の主要グループは、ビットコインではなくイーサリアムブロックチェーンと主に関連した平等主義的な技術主義者たちの一団である。
大まかに言えば彼らは、ブロックチェーンとスマートコントラクトを用いて透明性を持って行われる通貨と市場の改革が、より平等で公平な社会構築に役立つと信じている。
彼らの考えはしばしば、民主的社会主義の形態と趣を同じくするもので、彼らは時に、貢献せずに経済的なリターンを得ようとする行為に対抗する手段として、財産権を弱めることさえ主張する。
反権威主義者
ビットコインはしばしば、アメリカの実質的に中道右派の政治秩序に注目している人たちによって、本質的に右派的であると汚名を着せられているが、中道右派な政治秩序もすでに個人の自由にかなりの保護を提供している。
しかし、過去から現在に至る多くの政府は、甚だしく暴力的で非民主的であり、そのような文脈においてビットコインは、不正な法律に抵抗する大切な手段となる。
例えば、人権NPOヒューマン・ライツ・ファウンデーション(Human Rights Foundation)のアレックス・グラッドスタイン(Alex Gladstein)氏は、世界中の権威主義体制の最悪レベルの圧政から、個人が逃れることを助ける可能性がビットコインにあると主張している。
反帝国主義者
多くのビットコイン支持者は、既存の銀行システムは強力な先進国のツールであり、暗号資産がそれに対する対抗手段となる可能性を秘めているという、さらに広範な見解を持っている。
エルサルバドルのブケレ大統領によるビットコインの法定通貨化も、このように解釈できる。ブケレ大統領は、IMF(世界通貨基金)のような組織が使う「ショック・ドクトリン」をよく理解している。
ショック・ドクトリンという、IMFやその仲間たちによる高尚な財政的暴力は、第二次世界大戦以降多くの発展途上国に搾取的な市場新自由主義を押しつけるのに使われ、米ドルの中央集権的な影響力に大きく依存している(下記反戦自由主義者の項を参照)
進歩主義者
マット・ストーラー(Matt Stoller)氏やローハン・グレイ(Rohan Grey)氏など、アメリカの多くの著名な進歩主義者たちは、ビットコインに懐疑的か、自らの目標から注意を逸らすものと考えている。
このグループには、法定通貨の役割について急進的に拡張的なビジョン、とりわけ政府は支出を制限する必要はないという「現代貨幣理論」を支持する人たちも含まれる。
しかし、ビットコインを支持するような、はっきりと進歩主義的な立場が少なくとも1つある。アイデンティティをベースにした差別に対する、有用な防護手段だ、という考えだ。
既存の銀行システムは、アメリカにおいて黒人に対して強く人種差別的であり、中立的な代替オプションが彼らを解放するものとなり得るのだ。暗号資産業界における「非銀行利用者層に銀行サービスを」というレトリックの大半は、利己的で空虚なものだ。しかし、暗号資産が発展途上国の女性に力を与えるという、進歩主義者たちが歓迎すべき事態が起こっていることを裏付ける実世界での証拠も、しっかりと存在している。
「アルファ・ブロ」
ビットコイン保有者の圧倒的多数は、深い政治的立場をほとんど、あるいはまったく持っていない。機関投資家や、ウォール街から流入してきた人たちも含むこのグループの大半は、ドル建てでリターンをもたらすビットコインの実績に興味があるだけだ。
ブロックチェーンが国境を超えた決済の効率性を高める可能性に関心がある人など、純粋な技術主義者の多くもここに含めていいだろう。しかし、リサーチャーのデビッド・ゴランビア(David Golumbia)氏が指摘した通り、これらの「非政治的」グループは、より右派寄りのビットコインレトリックに惹かれる可能性もある。
真のリバタリアン
ここ数年間のアメリカ政治において、多くの推定上のリバタリアンたちが、権威主義の亜種に誘惑されてきた。しかし、ビットコインにおいては、すでにリッチな人たちの現状の特権を単に擁護することなく、信念を持って限定的な政府を支持する人たちがいる。
オープンソースの暗号資産プラットフォーム「Shapeshift.com」を立ち上げたエリック・ボーヒーズ(Erik Voorhees)氏のようなビットコインリバタリアンの最も説得力のある立場は、政府が無差別的に紙幣を増刷する能力にしばしば依存していると彼らが主張する、戦争を仕掛けることへの徹底的な反対である。ビットコインが戦争を止めることができるという考えは、吟味にたえないかもしれないが、その魅力は理解できるだろう。
いわゆるサイバーリバタリアンや暗号資産アナーキストもここに含めることができるかもしれない。実世界でのリバタリアン政治とは共通点がないかもしれないが、彼らはサイバースペースが多かれ少なかれ規制を受けないものであるべきと考えている。
ジョン・ペリー・バーロー(John Perry Barlow)氏の『Declaration of the Independence of Cyberspace(サイバースペース独立宣言)』で展開されたこのような考えは、ビットコイン開発を支えた多くの人たちに、大いなる影響を与えた。
財政保守主義者
法定通貨に完全に取って代わることはないにしても、ビットコインは中央銀行による最悪の行き過ぎへの抑止と考えることができる。このような考えはおおむね、個人的な言葉で語られ、ビットコインはインフレ率の高い環境において資産を守る「デジタルゴールド」とうたわれる。
しかし、マクロレベルでは、そのようなヘッジとしてビットコインが存在すること自体が、中央銀行に対して規律的効果を持つ可能性がある。インフレによって資産が失われる市民が、代替的な保管手段を持つことができるからだ。
このような立場を、大まかに「ビットコイン手段派」と呼ぶことができるかもしれない。一段と弱く短命な政府が通貨供給に過激に介入する可能性の高いような、アメリカ以外の国々の文脈でとりわけ説得力を持つ考えだ。
公的債務への何らかの制限を加えるという点は、世界的な債券やレバレッジの記録的に高い水準、そしてそれらがグローバル金融資本主義をますます特徴づけている景気循環のサイクルに果たす役割に懸念を持つ人たちにとって、魅力的かもしれない。
新封建主義者
ビットコイナーの中でも最も声高で、最も異端なグループである新封建主義者たちは、デイヴ・トロイ氏のツイッターの真のターゲットである。彼らのアイディアの多くは激しく個人主義的で反民主的、実質的には硬直した経済的・政治的ヒエラルキーに賛成するものだ。
新自由主義秩序に迫る崩壊に対する防衛策として、最も成功した資本家が民営化された国民国家の王になるという「城塞都市」のコンセプトと同じように、厳しいが必要不可欠なものという風に語られることもある。
このような考えはまた、いわゆるビットコイン・マキシマリズム、特に国家が裏付けとなる通貨、そしてそれに伴う社会的再分配すべてを排除したいという思いと、大いに重なっている。
このような世界観が展開される主要な例は、マキシマリストのバイブル(そして、マキシマリストのツイッターから推測するよりはるかに繊細なニュアンスを含み分かりやすい)サイファディーン・アモウズ(Saifedean Ammous)氏の『The Bitcoin Standard(ビットコイン・スタンダード)』だろう。
時代遅れとなりつつあり、トロイ氏のツイートと同じ盲点も含むが、デビッド・ゴランビア氏の『The Politics of Bitcoin(ビットコインの政治学)』は、マキシマリストの立場を批評する重要な著作となっている。
新封建主義は時に、あるいは明白に、様々な人種差別とも親和性を持つ。とりわけ不安を感じさせる一例は、奴隷制度を擁護したとされるカーティス・ヤービン(Curtis Yavin、ペンネーム:Mencius Moldbug)氏に起業家ピーター・ティール氏が資金提供をしたことだ。
白人至上主義
ビットコインにおける政治志向で最も「右派」なのが、資金調達に暗号資産を使ったネオナチウェブサイト「Daily Stormer」の運営者アンドリュー・アングリン(Andrew Anglin)氏を含む、卑劣な人間たちだ。ビットコインのイデオロギーの特定の信条は、とりわけユダヤの銀行陰謀論を含む、白人至上主義の主張と不快なほどに共鳴するものである。
だからと言って、トロイ氏が示唆しているように、法定通貨の増刷に対する懐疑論がすべて、反ユダヤ主義に根差しているわけではない。概して人種差別主義者は、ビットコインを重要というより便利と考える。ビットコイン政治の主体というよりは客体なのだ。
ネオナチがビザにサービス提供を拒否された後に資金調達のために使ったのと同じテクノロジーは、アフガニスタンの女性が資産を守ることを可能にもしている。
すべてのビットコインユーザーや支持者は、私たちの社会が生み出す最も卑屈で愚かな人々も含めて、誰もがビットコインシステムを使うことができるということを、じっくりと考えなければならない。
アメリカ人はすでに、言論の自由という面では、そのような考え方を快く受け入れている。(しかし、そこに感じる心地良さはほぼ間違いなく、崩れかかっている)アメリカ人がビットコインについても、誰でもが使えるという点を受け入れ、口先だけではなく行動で示すかどうかは、これから見えてくるだろう。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock.com
|原文:Bitcoin Politics From Left to Right and Off the Map