マネックスグループ会長兼CEOの松本大氏は11日、フィンテックを幅広く議論するオンラインイベントに参加し、日本が競争力を強めるための一政策として、次世代のウェブ3.0に備えたデジタル化、サイバー化を官民両輪でさらに加速させる必要があると述べた。
松本氏は、「ウェブ3.0の世界では新たなサイバーネーションが創造されていく。メタバース、ブロックチェーン、信頼性の高いインターネット上では、国家間のこれまでの競争とは異なる世界へと変化し、企業でさえも巨大なサイバーネーションを作り上げることが可能になる」と発言した。
11日に開催された「World Fin-Tech Festival Japan(ワールド・フィンテック・フェスティバル・ジャパン」で、松本氏は、日本の資本市場の課題を議論するセッションに参加。大和証券グループ・副社長の田代桂子氏と、三菱UFJフィナンシャルグループ子会社のJapan Digital DesignでCEOを務める河合祐子氏もパネリストとして加わった。
Web 3.0とは、ブロックチェーンを活用することで、Web 2.0の問題点が解決される次世代ウェブとして、世界的に注目されている。ブロックチェーンを使うことで非中央集権型となり、個人情報が特定の巨大企業に集中することを回避でき、個人データはブロックチェーンに参加したユーザーによって分散管理されることが可能になると言われている。
松本氏は、「日本は日本版CBDC(中央銀行デジタル通貨)を開発し、物理的(リアル)な日本とは別のサイバーネーションを作り上げるべき。日本人はデジタル技術に慣れ親しんだ国民で、すでに多くの先端テクノロジーが使いこなしている。また、数多くのデジタル通貨(暗号資産などのデジタル資産)を利用する社会になってきている」とコメントした。
30年で変化したこと、しなかったこと
河合氏は、日本の労働人口と生産性、潜在的成長率が1990年から継続的に下落してきた、いわゆる「失われた30年」の問題を指摘。一方、日本企業による資金調達総額は、90年から2010年までの20年間停滞を続けた後、2010年から増加に転じた点に触れた。
企業の資金調達方法は2001年から2020年の間で大きく変化した。2001年には、銀行借り入れと社債発行による調達が全体の6割を占めていたが、2020年には株式による調達額が6割を超えた。米国では、企業の資金調達は2020年時点で、8割以上が株式(equity financing)によるものだ。
また、日本の家計資産は過去30年間、増加を続け、2000兆円に迫る勢いだ。河合氏が示したグラフによると、2001年から2020年までの20年間、現金・預貯金が家計資産に占める割合に変化はなく、50%を超える水準を維持している。
同期間、企業は株式による資金調達を増やしてきたが、家計の資産を抱える多くの個人は依然として、預貯金を膨らませてきたことになる。株式が家計資産に占める割合は過去20年間である程度増加したものの、現実は政府が掲げた「貯蓄から投資へ」のスローガンのようにはならなかった。
債券は個人にとってはつまらない商品
大和証券の田代氏は、インターネットの普及に加えて、コーポレートガバナンスや企業の開示ルールなどが整備され、日本の企業経営を取り巻く環境は大きく変化し、より透明性が強化されてきたと述べた。
日本企業の今後の一課題として、田代氏は、企業が投資家と積極的なコミュニケーションを図る取り組みが必要だと強調。また、企業が発行する株式の市場成長とは対照的に、債券(社債)市場の成長の鈍化を問題視した。
「円ベースの債券は、個人投資家にとっては魅力的な商品になっていない。例えば、インベストメントグレード(機関投資家などが投資の対象とすることのできる格付けを取得した債券)の商品のみが現在の市場を形成しており、機関投資家の同市場へのアクセスさえも限定的なものにしている」(田代氏)
また、田代氏は、日本銀行とGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)による株式とETF(上場投資信託)購入は、日本の資本市場を歪(いびつ)なものにし、一部の投資家が日本市場を回避する要因になっているとコメント。
GPIFは国民の年金資産を安定的に増やすため、国内外の株式や債券などの資産クラスを保有、運用している。日銀の株式・ETF購入は、金融緩和政策の一環で行われている。
|テキスト・編集・構成:佐藤茂
|トップ画像:World Fin-Tech Festival Japanのセッション動画より