シカゴの大学を卒業した後に金融機関やグーグルなどで働いてきた豊崎亜里紗氏が、DeFi(分散型金融)サービスのスタートアップを共同設立した。430万ドル(約5億円)のシードラウンドを完了させ、いよいよ事業拡大に挑む。
DeFiで暗号資産(仮想通貨)を用いた仕組債を開発するCega Financeは9日、ドラゴンフライ・キャピタル、パンテラキャピタル、コインベース・ベンチャーズ、ソラナ・ベンチャーズ、アラメダ・リサーチなどから資金を調達したことを発表した。
Cegaは、「イーサリアムキラー」とも呼ばれるソラナ(Solana)ブロックチェーン上の、DeFiアプリケーションとして、仕組債などのスマートコントラクトや、個人投資家向けのステーキングサービスを展開している。今回調達した資金を、さらなる商品開発に充てる。
発表文によると、Cegaには、金融工学に詳しい人材と開発者に加えて、専門家で構成されるコミュニティが参画しており、ダウンサイドプロテクションを有した高い利回りを生み出す仕組債の開発を可能にしているという。Cegaは、DeFiにおけるこの技術を開発するために、新たなプラットフォームの構築を進めていく。
仕組債とは:一般的な債券とは異なり、特別な仕組みを持つ債券で、オプションやスワップなどのデリバティブ(金融派生商品)が組み込まれた債券のこと。満期や利子(クーポン)、償還金などを、投資家や発行者の条件に応じて比較的に自由に設定することができる。
ダウンサイドプロテクションとは:原資産の下落方向のリスクを、オプション取引などで軽減すること。
金融デリバリティブ、Google、DeFi
日本で生まれ育ち、10歳になる頃から上海などで幼少期を過ごした豊崎氏は、シカゴにあるノースウェスタン大学でコンピューターサイエンスと経済学を学んだ。自らスモールビジネスを起業した大学生活を経て、卒業後はスイス金融大手UBSの香港オフィスで、デリバティブトレーダーとして勤務した。
その後、グーグルに転職し、日本オフィスで約3年働いた。大学時代に学んだ行動経済学を生かして、マーケティングの専門性を高めた。暗号資産に投資を始める金融界の友人が増え始めた2016年頃、豊崎氏もビットコインを始めとするクリプトの世界の研究を本格化させたと、同氏は11月にcoindesk JAPANのインタビューで答えている。
豊崎氏は、「DeFiのオプション取引は2021年に爆発的に成長したが、市場は依然として初期段階にある。DeFiは過去2年間で300%以上のCAGR(年平均成長率)を記録し、400万人のユーザーを抱えている」とした上で、「暗号資産市場が大きく拡大する不安定な時期に、高い利回りと安全性を備えた仕組債をリリースすることは、市場の成長に必須である」とコメントする。
DeFi Pulseのデータによると、DeFiに預けられた暗号資産の価値(TVL=Total Value Locked)は昨年に急拡大し、10月下旬には1000億ドル(約11.5兆円)を超えた。以降、米国のインフレ懸念が強まり、暗号資産を含むリスクアセットの価格が下落し、TVLは現在約750億ドル。
ドラゴンフライ・キャピタルのゼネラル・パートナー、トム・シュミッド(Tom Schmidt)氏は、「Cega は DeFiの次なる変革者となるだろう。 DeFi で今起こっていることは、イノベーティブな仕組みが登場し、それが波及した全く新しいカテゴリの商品が次々に生まれ、その相互作用で市場全体がさらに成長していくという大きなダイナミズムだ。CegaはDeFi において新たな仕組債を用いて同じく劇的な成長を遂げるだろう。彼らを支援することで、市場全体の大きな変化に立ち会えることを光栄に思う」と発表文の中で述べている。
|テキスト:佐藤茂
|フォトグラファー:多田圭佑