開発者たちが長年待ち望んだ、プライバシーとスケーラビリティを改善させるビットコインのアップグレード「タップルート」が先週末、ついに起動した。しかし、さらなるアップグレードが控えており、開発者たちによる舞台裏での作業が続いている。
タップルートは、ビットコインにとってはとりわけ大型のアップグレードであり、「ソフトフォーク」とも呼ばれる滅多にない規模のものであった。タップルートの前に最後に行われたソフトフォークは「セグウィット(SegWit)」で、4年前のことだった。
ソフトフォークは珍しいものだ。それでも、ビットコイン上に築かれる多くのプロジェクトに影響を持つ大切なアップグレードであり、オープンソースデジタル通貨であるビットコイン(BTC)の機能を繰り返し改善させるものだ。
タップルートの次には何が待ち受けているのだろうか?実は開発者たちは長年にわたり、その他多くの重要なソフトフォークによるビットコインの変更に目をつけている。
その前に1点付け加えておくと、タップルートは起動されたが、タップルートのための作業は完了とは程遠い。タップルート取引を利用するためには、それに対応するために、ビットコインウォレット、取引所、その他のサービスがアップグレードする必要がある。
さらに、開発者たちが注目していたタップルートを必要とする変更の多くは、まだ実行されていない。しかし、一部の取引所やウォレットがタップルートにまだ対応していないのに対し、ビットゴー(BitGo)やブロックストリーム(BlockStream Green)など対応が迅速なところもあり、ビットコインをサポートするノードの半分以上はすでに、アップグレードされたソフトウェアを実行している。
それでも、この先長期的にビットコインに何が起ころうとしているかを理解するために、準備されているソフトフォークのいくつかを見ていこう。
SIGHASH_ANYPREVOUT
ビットコイン改善提案(Bitcoin Improvement Proposal:BIP)118に詳細に記されたSIGHASH_ANYPREVOUTは、デタラメのメッセージのように見えるかもしれないが、これによってもたらされる変更は字面ほど難解なものではない。
簡単に言ってしまうと、取引に署名するときの新しいタイプの署名オプションを実現するもので、特定のアウトプット(送信したいコイン)を少なくともすぐに追加することなく、ユーザーが取引に署名できるようになる。
このコード変更は、取引のスケーラビリティとスピードを高め、コストを下げるビットコインのオーバーレイネットワーク「ライトニング・ネットワーク」が直面する問題を含め、様々な技術的問題の解決に役立つものだ。
ライトニング・ネットワークが抱える問題の1つは、最新のデータを保管する必要がある点だ。ビットコインの秘密鍵を紛失するのと同様、ユーザーが最新のデータを無くしてしまった場合、自らの資産を取り戻すことができなくなるかもしれない。
ライトニング・ネットワークに対して提案されている改善案「Eltoo」はストレージの必要性を減らすのに役立つかもしれないが、適切に機能するにはSIGHASH_ANYPREVOUTが必要だ。
「要するに、現在使っているペナルティベースの仕組みを排除し、チャネルステートがすべての参加者にとって均衡の取れたものになるので、チャネルステート維持のための多くのオーバーヘッドを削減することになる」と、ライトニング・ネットワークのリサーチャー、レネ・ピックハート(Rene Pickhardt)氏は説明している。
ライトニング・ネットワークは現状でも機能する。しかし、SIGHASH_ANYPREVOUTは、ライトニングの使いやすさを高める可能性のあるEltooへの道を開くのだ。
Covenant
Covenantは、ユーザーが資産を送る先を制限できる、ビットコインコードの変更案である。例えば、Covenantによってビットコインの送り先を制限し、少数のホワイトリストに登録されたアドレスにのみ送られるようにすることができる。
なぜユーザーが、自らの資産の有用性を制限したがるのだろうか?その理由は数多く存在する。1つはセキュリティ。Covenantによって、資産を盗もうとする人が現れても、資産を取り戻すことができる「金庫(vault)」を導入するのが簡単になる。
しかし、それは1つの用途に過ぎない。Covenantはさらに、混雑の管理や、ライトニング・ネットワークのスケーラビリティをさらに高めるための提案「チャネルファクトリー(channel factory)」にも役立つ。
Covenantをめぐっては、それぞれ異なる技術的アプローチをとるOP_CHECKTEMPLATEVERIFY(BIP 119に記載)とOP_TAPLEAF_UPDARE_VERIFYを含め、少なくともいくつかの提案が浮上している。
ドライブチェーン
「サイドチェーン」は、ビットコインに追加する機能として長年提案されている。これはビットコインに「ペグされた」追加のブロックチェーンである。
サイドチェーンには、ビットコインにはまだない新しく実験的なテクノロジーを持たせることができる。例えば、ユーザーに対してビットコインよりもはるかに高いプライバシー性能をもたらす、ジーキャッシュ(Zcash)に似たzk-SNAEK機能を追加するといったことが考えられる。
サイドチェーンはこれまで、「アルトコインキラー」とも呼ばれてきた。サイドチェーンによって、ビットコインに新しく実験的なテクノロジーを追加する方法がもたらされるため、新しいアイディアを試すために新しいコインを立ち上げる必要が減るからだ。
「ドライブチェーン(Drivechain)」はこのアイディアを展開させたもので、リサーチャーのポール・ストーク(Paul Sztorc)氏の発案だ。BIP 300と301で変更を提案するのに加えて、ストーク氏をはじめとする開発者たちは、このアイディアの実用版を提示した。
しかし、ドライブチェーンは論争を呼ぶような提案でもある。マイナーに対してより大きな力を渡す可能性があると、一部の開発者たちが懸念しているのだ。そのために、ドライブチェーンはより実現可能性の低いアップグレードであると、ビットコイン開発者たちは考えている。
クロスインプット署名集約
タップルートが実行された今、クロスインプット署名集約(cross-input signature aggregation:CISA)をその上に追加することができる。
デジタル署名は、ビットコインの極めて重要な要素である。ユーザーがビットコインを送りたい場合には、秘密鍵を使ってコインに「署名」し、そのビットコインを自分が保有すると証明することで、別の誰かに送ることができるようになる。タップルートによってシュノア署名が導入され、複数の署名が1つにまとめられるようになり、取引のコストが少し下がり、スケーラビリティが高まった。
それに加えて、CISAによって、単独取引の署名を集約することが提案されている。CISAがもたらすエキサイティングなメリットの1つは、コインジョイン(CoinJoin)をより安価にできる点だ。
コインジョインとは、WasabiやSamouraiといったウォレットを使って、ユーザーの多くのコインを1つの取引にまとめて、「混ぜる」ことによって、それぞれのコインの由来を知ることを困難とし、ユーザーのプライバシーを高める方法である。
コインジョインは現状では面倒で、通常の取引よりもコストがかかる。しかし、CISAが実現すれば、ずっと安くなる可能性がある。取引内の署名はすべて1つにまとめられ、コインジョイン取引のコストが下がるのだ。
「プライバシー向上というメリットのためにより多くのお金を支払うのではなく、プライバシーを向上させつつ、お金も節約できるようになる。特に、多くの取引が行われる取引所では顕著だ。取引所では、利益確定する取引を他の多くの取引と組み合わせたがるだろう。副産物として、その取引に関わる他の人たちにもより高いプライバシーがもたらされるのだ」と、ビットコイン開発者のジミー・ソン(Jimmy Song)氏は説明する。
これらの提案がビットコインで実行されるかは、時間がたたないと分からない。より具体的な提案が提示されれば、実行に値するかどうかを決定するのは、ビットコインコミュニティーだ。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock.com
|原文:After Taproot, What’s Next for Bitcoin’s Future?