SBIが狙うブロックチェーンベンチャー、投資ターゲットの5領域

暗号資産(仮想通貨)の取引サービス、NFTマーケットプレイス、デジタル証券(セキュリティトークン)事業……。ブロックチェーンを基盤技術にする事業を全方位的に運営するSBIホールディングスは2022年、傘下のSBIインベストメントを通じて同領域におけるベンチャー企業への投資をさらに拡大させる。

SBIインベストメントで海外投資を統括する仁位朋之氏は、ブロックチェーン領域における5つのエリアに注目しながら、ベンチャー企業への投資を行っていくと、coindesk JAPANの取材で明らかにした。

その5つのエリアとは、1)NFT、2)気候変動に関連するサービスとブロックチェーンの応用、3)メタバース(仮想空間)、4)DeFi(分散型金融)、5)銀行向けのプラットフォームだ。

北米と欧州を中心に機関投資家や既存の金融機関が暗号資産市場への参入を開始し、NFTは世界的なブームを巻き起こすなか、ブロックチェーンに関連するベンチャー企業は2021年、ベンチャーキャピタルやプライベートエクイティなどから記録的な額の資金を調達してきた。

NFTはSlushでも注目の的

(画像:フィンランドの首都、ヘルシンキ/Shutterstock.com)

12月、フィンランドのヘルシンキで開かれたスタートアップイベント「Slush」には、ベンチャー企業の代表と投資家が世界中から集まった。Slushに参加した仁位氏は現地で、30を超えるスタートアップの創業者や、ベンチャーキャピタルの関係者との協議を行った。ブロックチェーン関連のベンチャー企業も多く出席した。

NFTはSlushでも注目された大きなテーマだったと、仁位氏は話す。「インターネット上のコンテンツの所有証明として機能するNFTには今後、さらに大規模な資金が集まる。また、NFTを活用した新たなテクノロジーやサービスを開発するスタートアップは2022年以降も、積極的なファンディングを進めるだろう」と仁位氏。

LINE、GMOインターネットグループ、プロ野球のパリーグ、テレビ朝日、メルカリ、サイバーエージェント、「鉄腕アトム」の手塚プロダクション……。日本でも2021年、ビッグテック企業がNFTの販売・取引を行うマーケットプレイスを開設し、アニメや画像コンテンツなどを所有するIPホルダーは、NFT事業に続々と参入した。

SBIは9月、アート作品を中心とするNFTのマーケットプレイス「nanakusa(ナナクサ)」を運営するスマートアプリ社を買収するかたちで、NFT事業に参入。SBIはグループ傘下で、NFTマーケットプレイスとの親和性が高い暗号資産取引サービスの「SBI VC トレード」と、美術品オークションサービスの「SBIアートオークション」の運営を行っている。

気候変動+デジタルトークン

(COP26会場近くで行われたデモ行進/Shutterstock.com)

地球温暖化や世界各地で起こっている異常気象などの気候危機(Climate Crisis)が、人間の活動によるものであるという認識は広まっている。11月にグラスゴーで開かれたCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)は、世界中が注目した2021年の国際会議の一つとなった。

北欧では、政府が温室効果ガスの排出量を2035年までにゼロにする目標を掲げ、再生可能エネルギー(クリーンエネルギー)とブロックチェーンを組み合わせた事業を開発するスタートアップが生まれ、新たな産業のエコシステムが確立されようとしていると、仁位氏は話す。

例えば、二酸化炭素(CO2)を吸収する森林の所有者が、樹木の伐採量を削減する代わりに、CO2の吸収量に相当する森林の価値をトークン化して、ブロックチェーン上で取引できる仕組みや技術は、すでに開発が進められている。

「エストニアを含むさまざまな国で、気候変動とブロックチェーン、デジタルトークンをかけ合わせた取り組みを進めるスタートアップが生まれいる。日本や欧州諸国でも今後、同様の企業が増えていくだろう」(仁位氏)

メタバースが1兆ドル市場に

(画像:SBIインベストメントで海外投資を統括する仁位朋之氏)

グレイスケール(Grayscale)は、米国で暗号資産の投資ファンドを運営する最大手企業だが、同社は11月に、メタバース(仮想空間)は年間収益が1兆ドル(約115兆円)を超えるモンスター市場になると予想するレポートをまとめた。

グレイスケールによると、メタバースが生み出す収益は2025年までに、2020年の1800億ドルから4000億ドルに拡大する可能性があるという。その額の大部分はゲーム内での課金が占めると、同報告書は述べている。

仁位氏は、「サイバー空間ではすでに、土地などのコンテンツが時に高額で売買されている。サイバースペースに生まれるモノやサービスが、ブロックチェーン上でデジタルトークンとして取引されていく。投資家は、そんな未来経済の一部を創ろうとするスタートアップに対して注目せざるを得ないだろう」と話す。

DeFiの高い成長ポテンシャル

(画像:ニューヨークのウォール街/Shutterstock.com)

北米の暗号資産市場が2021年に拡大した背景に、DeFi(分散型金融)サービスの急成長がその一因にあげられる。DeFiは、ブロックチェーン上にスマートコントラクトを搭載して、銀行や証券会社などの金融機関がこれまで提供してきた融資などの一部の金融サービスを自動化するというものだ。

DeFiを巡っては、各国の規制当局による今後の規制整備によって、その市場成長が大きく変化する可能性はある。例えば、DeFiで発行されるトークンの目的や役割は、各国の金融商品取引法や証券法などの法律が大きく関係し、現状はある意味「グレー」な領域とも言えると、仁位氏は話す。

しかし、「金融機関がDeFiで利用されている一部の革新的技術や仕組みを活用して、既存の金融システムに導入しようとする動きは、広がっていく可能性がある」と仁位氏は言う。

SBIは2021年、シリコンバレーに拠点を置くアブラ(Abra)が行った調達ラウンド(シリーズC)に参画した。アブラが開発したアプリを使えば、暗号資産の取引の他に、暗号資産を貸し出して利息を稼ぐサービスや、暗号資産を担保にして法定通貨を借り入れることが可能だ。

アブラの創業者はビル・バーハイト(Bill Barhydt)氏で、ゴールドマン・サックスとネットスケープ、CIA(米中央情報局)で働いた後、2014年にアブラを設立。同社は過去1年で、収益を10倍に拡大させたと、米ブルームバーグが報じている。

銀行が使える技術とサービス

2021年は、欧米を中心とする既存の金融機関が暗号資産市場に参入した1年でもあった。ゴールドマン・サックスやJPモルガン・チェースなどの米銀大手や、欧州のドイツ銀行やクレディ・スイスなどは、暗号資産のニュースメディアが掲載する記事に多く取り上げられた。

スイスやドイツ、フランス、シンガポールなどの金融機関が、ブロックチェーンやそれに関連する技術や仕組みを活用する動きを強める中、銀行が利用できる安全なプラットフォームやサービスを提供するスタートアップの役割は今後、さらに強まっていくと、仁位氏は話す。

「個人と法人の多くにとって、安全面や法律面から見れば、銀行はやはり頼りになる存在であることは間違いない。トークンを利用した新しい金融サービスに対する需要がさらに高まれば、金融機関は銀行グレードのプラットフォームやサービスを開発するスタートアップをより必要とするだろう」(仁位氏)

英エリプティック(Elliptic)は、暗号資産取引所や金融機関を対象にサービスを開発する注目企業の一つだ。同社は、暗号資産の取引データを分析し、金融機関がマネーロンダリングやテロ資金供与に関与する取引を未然に防ぐためのサービスを開発している。

SBIは2019年、エリプティックが実施したシリーズBラウンド(1000万ドル)で、リードインベスターとして参画。2021年に行われたシリーズCにおいても追加出資し、ソフトバンク・ビジョンファンドも同ラウンドに加わった。

北尾社長も出席するSBIの暗号資産会議

(画像:SBIホールディングスの北尾吉孝社長/2020年12月撮影)

2022年、「海外投資担当として注目する国・地域は?」の質問に対して、仁位氏は、「アフリカは地球唯一の人口ボーナスを抱える大陸だ。中国ではクリプト(暗号資産)業界における投資のブレーキがかかった。インドは、一週間に1社のペースでユニコーンが生まれるような大国だ」とコメントした。

SBIグループでは、月に一度、本社の会議室に20名ほどの幹部が集まり、「暗号資産月例会議」という名の会議が行われる。仁位氏は少なくとも2年間、この会議に参加してきた。当然、SBIホールディングスの北尾吉孝社長も出席する。

ピリピリとした緊張感が漂う会議で、幹部は一人5分程でそれぞれの事業会社の報告を行う。暗号資産のグローバル市場は激変しながら拡大を続け、ブロックチェーンを基盤技術にする破壊的テクノロジーやサービスが多く生まれた過去2年、SBIの月例会議の議論はさらに高まっていったという。

|インタビュー・編集:佐藤茂
|取材協力:菊池友信
|フォトグラファー:多田圭佑