ビッグブランドへの忠告:暗号資産は奇妙なお金ではない【オピニオン】

人気NFTプロジェクト「Bored Ape Yacht Club(BAYC)」は先週末、ピンクのサングラスと緑のジャージを着た、影がかかった3DのApeのミステリアスな画像をツイートした。細かく言うと、BYACのロゴが左胸に入ったアディダスのジャージだ。

そして、別の人気NFTコレクション「PunksComic」も、キャラクターの1人の似たような画像をツイートした。PunksComicはコミックシリーズNFTで、NFTをステーキングして受け取れる「$PUNKS」トークンは、PunksComicのキャラクターのもととなっている16体のクリプトパンクス(CryptoPunks)の部分的所有権を表している。同シリーズ第1版のNFTは、2万7000ドル(当記事執筆現在)を超える価格で取引されている。

人気NFTコレクター・クリエーターのGMoneyも、アディダスの三つ葉のロゴの隣に暗号資産ウォレットのアドレスがプリントされたパーカーを着た、特徴的なシルエットの画像をツイート。これら3つすべてのツイートには、短く「/// 👀」と記されていた。

これらのツイートは、アディダスにとって慌ただしい数週間の後に投稿された。メタバースプロジェクト「ザ・サンドボックス(The Sandbox)」とのパートナーシップと土地購入。ウェブ3・暗号資産界では有名な、重要なことを意味するスラング「おそらく、何でもない」を使ったコインベースとのコラボ発表と、ウェブ3への完全進出を示す大きな動きが相次いでいたのだ。

コミュニティーを軽視するブランドの動き

暗号資産分野に進出する各ブランドは、ウェブ3が単に経済的なエコシステムではなく、コミュニティーベースのものであり、ウォレットではなく、コミュニティーやインフルエンサーに直接話しかけるべきということを理解できていないようだ。

映画館チェーンAMCシアターズが、チケット販売や売店で一部の暗号資産による支払いへの対応を開始すると発表し、次に対応を開始する予定の暗号資産はドージコイン(DOGE)であると述べた時、大きく報道され、支持するコメントが寄せられた。

しかし、AMCシアターズは暗号資産対応のためのツールセット開発にほとんど取り組んでおらず、より広範な暗号資産の議論に積極的に参加している訳でもないようだ。つまり、単に注目を集めるための動きだったのだ。

AMCシアターズだけではない。ファストフードチェーンのバーガーキングは、20ビットコイン(BTC)のうちの1枚、200イーサ(ETH)のうちの1枚、または200万ドージコインのうちの1枚を獲得できる報酬プログラムを開始したが、受け取りには投資アプリ「ロビンフッド(Robinhood)」のアカウントが必要であり、あまり分散化されていなかった。

クレジットカードブランドのVISAが8月にクリプトパンク7610を15万ドルで購入した時も、ブログの記事を投稿し、PR用のツイッターアカウントのプロフィール写真を1日だけパンクのアバターに変更した以外には、ほとんど何もしなかった。

しかしクリプトパンクが現在、最低でも38万3000ドル以上で取引されていることを考えれば、マーケティングのための資産購入が、その後に価値を上げた数少ない戦略の1つとなったのかもしれない。

AMC、ビザ、バーガーキングをはじめとする多くのブランドが見過ごしているのは、暗号資産、とりわけウェブ3の真の価値は、奇妙なお金を購入することにある訳ではなないという点だ。コミュニティーそのものが大切なのだ。

つながりを求めるユーザーたち

暗号資産に熱心な人たちは常々、他の人たちをエコシステムに引き込みたいと望んできた。私は2015年、クリスマスプレゼントとして、娘と甥に50ドル相当のBTCが入ったペーパーウォレットを与えた。現金と交換して欲しかった訳ではなく、通貨をめぐる基本的な理論が変化しており、自分たちもそのムーブメントの一部になれるということを分かって欲しかったからだ。

ブランドも、人々に自らのブランドに参加し、積極的に関わって欲しいと願うのと同じくらいに、暗号資産コミュニティーに参加しようとするべきだ。

Bored Apeの保有者であろうと、DeFi流動性プールに関わっていようと、アメリカ合衆国憲法の原本落札のために組織された自律分散型組織(DAO)「ConstitutionDAO」に寄付した人であろうと、人々が他の人にもプロジェクトに参加して欲しいのは、それが自らの保有資産の価値を高めることにつながるからだけではなく、同じような志向のコレクターや投資家のより大きな集団と時間を共にし、「仲間」に会うことができるからでもある。

メッセージアプリ「ディスコード(Discord)」のチャンネルを覗いてみれば、ユーザーたちはプロジェクトの詳細について語り合っている。しかし、旅行先や読んでおくべき本、要チェックの車に、今見ている番組などについても語り合っているのだ。

ビットコイン、イーサ、カルダノ(Cardano)のADAを数年間保有してきた人たちと同じように、同じ世界の人を見つけると、暗号資産についての話で盛り上がる。しかし同時に、それ以外の暮らしについてや、暗号資産ムーブメントが個人や集団としての私たちをどのように変化させているかについても、語り合うのだ。

才能あふれるコミュニティーを取り込む

未来のクリエイター、インフルエンサー、起業家たちが、ディスコードやテレグラム(Telegram)、ツイッター、その他の新興ウェブ3プラットフォームのコミュニティーで交流しているということも、メインストリームの多くのブランドは理解できていない。ブランドが今のうちにこのような人たちを引き込むことができれば、彼らのことを知り、将来的なブランド戦略において協働することがより簡単になる。

正しいアプローチをかけている企業も、いくつかあるようだ。

雑誌『タイム』は、ウェブ3構想に真に情熱を注いでいるようだ。8000人が登録したアクティブなディスコードチャンネルを抱え、新人から定評のあるアーティストまで、幅広いアーティストと共同でアートのリリースを行い、ツイッターでのやり取りも活発だ。さらには、NFTアーティストのコレクションをもとにした子供向けのアニメシリーズも準備している。

手始めとしては優れているが、始まりに過ぎない。これらのコミュニティーには、賢く、やる気があって、寛容な人たちがあふれており、ブランドは今、彼らと真につながっておかなければ、後々大きなツケを払うことになるだろう。

私がクリエイティブ広告代理店を所有していた2016年、裕福で多様、世界をまたにかけた多くの人たちからなるインターネットで密につながった集団があって、ブランドに彼らを紹介すると声をかけたら、どうなっていただろう?

彼らは何よりも、それぞれが持つ自らの精神やライフスタイル、歩む道のりをサポートするブランドと手を組むことを望んでいる。少しの金銭的投資と、的を絞ったコミュニティーとの関わり合いだけで、彼らと協力し合うことができると言って紹介したら、あらゆるブランドが飛びついてきただろう。

そんな人たちが実際に登場してきているのだ。ブランドは、思い切って飛びついてくるだろうか?

サム・イーウェン(Sam Ewen)は、CoinDesk Studiosのトップを務める。20年以上にわたって世界の多くのトップブランドと仕事をし、テクノロジー、イノベーション、クリエイティブマーケティングの業界での経験を持つ。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:ザ・サンドボックスのメタバース
|原文:Note to Brands: Crypto Isn’t Funny Money. It’s Community