資本主義は再分配に失敗した:ウェブ3が救世主に【オピニオン】

アフリカの地図を見てほしい。国境の多くが真っ直ぐな直線であることは奇跡ではないし、それらの直線が、計り知れないほどの政治的複雑さを生んだことは偶然ではない。そういった意味では、アフリカの国々は通貨のようなものだ。少数の意思決定者たちによって、全地球に課せられたフィクションだ。

簡単に言ってしまえば、通貨は集団的フィクション、資源の再分配のために使われる文化テクノロジー、あらゆるものの周囲に境界線を引くための方法だ。

人間の歴史において、通貨は比較的新しいコンセプト(資本主義が登場してわずか数百年)だが、すでに古くさいパラダイムとなっている。人類に与えてくれた恩恵もあるが、今となっては、メリットよりもデメリットの方が大きい。

通貨はゆくゆくは、何か別のものに取って代わられるだろう。物議を醸しそうな響きだが、人間が発明するあらゆるものは、次なる発明に取って代わられるというのは、単純な事実である。

唯一問題となるのは、人類がどれほどすばやくより優れたソリューションへと移行できるか、もしくは、筆舌に尽くし難いほどの大惨事を回避するのに間に合うように移行できるかどうか、という点だ。

暗号資産(仮想通貨)業界は、より優れたソリューションがどんなものとなるかを、探っている。しかし、通貨の中毒的な性質によって、暗号資産業界で最も賢い人たちでさえもが、まだ可能なことのほんの序の口に過ぎないにも関わらず、革命的な変化を起こしていると信じてしまっている。

どこにも通じない道

今までのところ暗号資産業界は主に、通貨の最悪の側面を加速、増大させてきた。ボラティリティ、少数者への資本の集中、金融資本と生産資本の不均衡、電力の浪費だ。

暗号資産は法定通貨よりも優れた面もある。債務に基づいておらず、政府権力にもともと結びついてもいない。しかし、登場から10年以上経つにも関わらず、ブロックチェーンは、不平等やアカウンタビリティの問題への対処において、小さな進展をもたらしたに過ぎないと言って差し支えないだろう。最初の試みとしてはよくできたものだが、それ以上のものではない。

通貨は何かという遠回しな定義が、どこへも通じない道の序章に散らばっている。伝統的な経済学の考えとは対照的に、通貨は価値の保管手段でも、移動手段でもない。

ビリオネアの口座に保管された通貨は、経済に放出されることは決してないため、ステータス以外には何も保存していない。忌み嫌う仕事をさせるために、誰かに生活を維持できる水準以下の賃金を払うことは、価値の移動ではない。少なくとも、大半の人が持つ価値を移動させてはいない。

通貨を作り直す前に、婉曲表現はやめにして、通貨の主要な機能を特定しよう。

通貨は資源を再分配する

私たちは、大規模なアクティビティをまとめたり、基本的なニーズを充足するために通貨を利用する。さらに、功績を認めること、感謝、信頼、関係、社会的サポートなどの代わりにも使う。通貨の代替を作るという目的のためには、資源の再分配に注目しよう。

通貨の再分配のためのツールとして通貨を考えると、それはしばしば、非効果的で複雑なものであるように思える。キーボードのバックライトを考えてみよう。キーボードのバックライトに使われるあらゆる部品と、使われる電力。それはすべて、再分配された資本だ。世界中のキーボードバックライトのために再分配されるあらゆる資産を考えれば、それを正当化するのは難しい。

基本的な栄養や教育、衣服、消費財、お互いに世話をするための人材が欠如しない世界において、通貨が資源の再分配において果たす役割は満足のいかないものだ。きれいな空気、生活な水、命を支えるエコシステムが不足した世界においては、通貨が資源の再分配において果たす役割は壊滅的なものだ。

別の道

通貨が発明された時、製品を作るために投入されたすべてのものを正確に測定すること、さらにはその情報を製品と接触したすべての人に表示することは不可能であった。現在では、私たちのコンピューターが処理できるよりはるかに多くの情報を記録、追跡、報告することが技術的には可能だ。

間違いなく私たちには、資源の再分配(あるいは価値の交換や移動)を記録するという点で、通貨システムよりも上手い方法があるはずだ。

新しい形態の「通貨」を生み出す能力は、ブロックチェーン業界の出発点に過ぎない。通貨は何かを測るものだが、その「何か」を定義するのは困難で、だからこそ人々は「価値」という婉曲表現を使うのだ。

ここで大きな問題は、私たちは何を測るべきなのか?という点だ。通貨に代わるものが、どうしたらより正確に価値を表せるかを考えるための出発点として、測るものの例を1つ挙げてみよう。この例は、経済の目的が「食料」と呼ばれる資源の再分配の最適化であった場合には、有益だろう。

食料の再分配

通貨によって私たちは、貧困削減に使われる資産、個人あるいは家計ごとの収入、食料に使われる金額、家族を食べさせるためのコスト、無駄になる食料の金銭的価値を測ることができる。それらはどれも、飢えの指標ではない。

新しい「通貨」は、次のようなものを追跡できるかもしれない。

・地方、町、地域ごとに、1日に食事を食べられなかった人の数

・食料が移動した距離。その距離は、環境に与える影響、栄養価、地元生産者へのサポートを表す指標となる。

・ある地域における食品ロスの規模

・消費期限切れが近い食品の量と場所

・何らかの理由(市場の力、天候、労働力不足など)によって使用されない、収穫されない作物

・消費期限が迫った食品と、昨日食事ができなかった人との間を結ぶルートを移動する車の空きスペース

コミュニティーや国家は、このような指標を最適化して、飢餓を緩和できる。通勤ルートの途中に、慢性的に食料不足の家庭があり、あなたの会社の食堂は通常火曜日に、食事が余るということを突き止めるのが簡単だったと想像してみよう。あなたの住む町が、飢餓を減らし、フードロスを削減しようと、同じ地域の他の町と競い合っていたとしよう。

すでに全国民が十分な食料を手に入れている国が、国民と食料供給地の距離を縮めようとしていると想像してみよう。そのような取り組みがもたらす影響は、保たれる栄養価、環境、人と土地の関係において、非常に大きなものとなるだろう。

豊かさの指標

上に挙げた食料の例は、大いに単純化したものだが、誰でもが理解でき、どんな社会でも測定できるものだ。

社会哲学者ダニエル・シュマッテンバーガー(Daniel Schmachtenberger)氏は先日、人気ポッドキャスト『Joe Rogan Experience』に登場し、依存症患者の少なさが、国民の満足度や幸福度の大まかな指標になると指摘した。

依存症患者の数も、食事を満足に取れている人の数も、完璧な指標ではないが、GDPと比べれば、社会の健全性の指標としてはるかに優れている。理解や測定も簡単である。さらに、適切な是正措置を示唆するものとしても、GDPより優れている。

ウェブ3の活用

私たちは現在、多くの人がそのような複雑さを管理することについて政府を信頼していない世界に暮らしている。ありがたいことに、あなたがこれを読んでいるとしたら、あなたもウェブ3の世界に興味のある人だろう。

分散型台帳技術、自律型アイデンティティ、ゼロ知識証明、サプライチェーンの透明性を組み合わせることで、人々が経済に真に望んでいる成果を示唆するような、シンプルな一連の指標を生み出すことができるのは、想像に容易い。

ゼロ知識証明:暗号学において、個人がが他の人に、自分の持っている命題が真であることを伝える時、真であること以外の知識を伝えることなく証明できる手法のこと。例えば、特定のウェブサービスにログインする際、ユーザーはパスワードを入力する代わりに、パスワードを知っている事実の証明を送る。また、本人確認を行う際、ユーザーは第三者に母親の旧姓を伝達する代わりに、自分が本人である事実の証拠を送る。

社会が通貨から脱却する方法は自明ではないが、私たちが価値の測定方法と資源再分配のシステムを再調整する必要があるのは明らかだ。ブロックチェーンは私たちに、そのチャンスを提供している。私たちはそれを活用できるだろうか?

グレイス・ラックマニー(Grace Rachmany)は、DAO(自律分散型組織)関連のコンサルティング会社DAOリーダーシップ(DAOleadership)のコンサルタントである。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Capitalism Misallocates Resources. Web 3 Tech Can Help