クラウドファンディングプラットフォームの「キックスターター(Kickstarter)」が分散化するというニュースは、Web3.0にとっては喜ばしいものだ。Web3.0とは、暗号資産(仮想通貨)やその他の分散型ツールによって、現状のインターネットに大変革がもたらされるという考えである。
キックスターターは8日、中核事業において、技術面で野心的な抜本的見直しを行うと発表。詳細は明らかになっていないが、ブロックチェーン「セロ(Celo)」を使ったクラウドファンディングプラットフォームを開発するために、別会社を設立する。
Web3:Web3.0とも呼ばれ、ブロックチェーンなどのピアツーピア技術に基づく新しいインターネット構想で、Web2.0におけるデータの独占や改ざんの問題を解決する可能性があるとして注目されている。
準備が整い次第、キックスターターは分散型プラットフォームに移行し、開発されたプロトコルを他者が活用できるよう、オープンソースにする予定だ。
Web2.0時代の大手
これは一大事だ。人々の記憶からは忘れ去られつつあるが、キックスターターはかつて、「クリエーターエコノミー」の主要な要素であった。クリエーターエコノミーとは、パワフルなウェブツールを使って新しいビジネスモデルを作り上げるために、個人が自ら立ち上がる金融革命のようなものだ。
ウェブサイトにもたらされた一連の変化によって、ソーシャルメディアやその他の共同での取り組みが集結していったWeb2.0時代における、金の卵を産むガチョウのような存在が、キックスターターであった。
ブルームバーグが、キックスターターの今回の計画をこう報じている。
(ペリー・)チェン(Perry Chen)氏は2009年、アート好きの友人2人と共にキックスターターを立ち上げた。無一文の野心家の間でたちまち大人気となり、その後徐々に、消費者の需要を試そうとする有名人や大手企業へと広まった。人気エクササイズバイクのペロトン(約30万ドルを調達)も、オキュラスのVRヘッドセット(240万ドルを調達)も、キックスターターのキャンペーンからスタートした。
アマンダ・パーマー(120万ドル)やポップグループのTLC(43万ドル)の新しいアルバム制作や、コメディシリーズ『Mystery Science Theater 3000』(580万ドル)やミステリーシリーズ『ヴェロニカ・マーズ』などの人気テレビ番組復活も、キックスターターが資金面で支えた。
クラウドファンディングは長年、暗号資産(仮想通貨)のユースケースとしての可能性を秘めてきた。CoinDeskでも先日報じた通り、オンライングループが集まり、DAO(自律型分散組織)を作り、オンラインで様々なものを購入する新しいトレンドが生まれつつある。
その典型がConstitutionDAOだ。アメリカ合衆国憲法の原本落札のために、4000万ドル以上の寄付を集めたのだ。キックスターターなど、既存のツールでも、このような取り組みは実現しただろう。しかもキックスターターなら、イーサリアムでの取引手数料(ガス代)を節約することができ、落札に失敗した後に寄付金を返金することも簡単であろう。
しかし暗号資産の世界では、無料で提供されるソフトウェアが、基本的に制限なく誰にでも使えるように作られていること、そしてさらに重要なことに、耐検閲性を持つことから、根本的に新しい要素が加わる。
キックスターターでは、どんなに無害なプロジェクトであったとしても、北朝鮮のスタートアップに寄付することは許されない。イーサリアムやビットコインの場合には、手数料を払う気さえあれば(そして経済制裁を無視することが気にならないのならば)完全にあなたの自由なのだ。
今後の展開は?
キックスターターが、新しく作るブロックチェーンをある程度コントロールするのかどうか、まだ分からない。そもそも、うまくいくかどうかも。
Web3.0が約束するものは、中身の伴わない単なる誇大広告のような感じがすると指摘する人もいる。機能的なプロジェクトを見てみたいだけの、好奇心旺盛な傍観者たちもたくさんいる。
(ConstitutionDAOをとってみても、好ましい進展とも、過剰な盛り上がりの一例と見ることもできるだろう。しかし、業界に関心を引きつけたのは間違いない)
かつての「ディスラプター(創造的破壊者)」であるキックスターターなど、旧来の企業が、Web3.0という新しいインターネットにどのように適応するかも、まだ分からない。
NFTをいくつか作ることは簡単だが、事業を変革するのは難しい。しかしキックスターターが、騒がしい盛り上がりの中から見えてくる確かなサインだとしたら、この先には、はるかに多くのWeb3.0の展開が期待できるかもしれない。
NFT(ノン・ファンジブル・トークン=非代替性トークン):ブロックチェーン上で発行される代替不可能なデジタルトークンで、アートやイラスト、写真、アニメ、ゲーム、動画などのコンテンツの固有性を証明することができる。NFTを利用した事業は世界的に拡大している。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Gil C / Shutterstock.com
|原文:What Kickstarter Going Decentralized Means for Web 3