高い安全性・効率性を持つブロックチェーンを利用したデジタル証券「セキュリティートークン=ST」。国境を超えた24時間取引、コスト削減、小口投資が可能といった観点から、個人投資家への浸透が期待されている。
12月14日に開催された「デジタル証券フォーラム〜資金調達の新手法 セキュリティトークンの登場〜」(主催:日本経済新聞社、共催:N.Avenue)のパネルディスカッションには、業界のキープレイヤーである野村ホールディングス執行役員の沼田薫氏、三菱UFJ信託銀行プロダクトマネージャーの齊藤達哉氏、三井物産デジタル・アセットマネジメントの上野貴司社長が登壇。
今年誕生した公募型不動産セキュリティトークンの国内第1号・2号案件に携わった経験を踏まえて、現状と展望を話し合った。
不動産STには、どんな特徴がある?
セキュリティトークンをめぐる動きは、国内でも大きく加速している。トークン発行のブロックチェーン・プラットフォームとして、野村グループのBOOSTRYが「ibet(アイベット)」、三菱UFJ信託銀行が「Progmat(プログマ)」を打ち出した。それぞれが参加者を募り、コンソーシアム型で取り組みを進めている。
国内第1号の公募型不動産ST事例は、ケネディクスが発行体となり、渋谷・神南の都市型マンションをprogmat上でセキュリティートークン化。三菱UFJ信託銀行が受託し、野村証券とSBI証券が販売する形となった。また三井物産デジタル・アセットマネジメントは2号案件で、神戸六甲アイランドにある物流施設を裏付けにSTを発行した。
三菱UFJ信託銀行の齊藤氏は、不動産STについて「クラウドファンディングと、REITのいいところ取りのような商品」と説明する。その特徴として、長期の資産形成向けだが「いざというときに売れる流動性」があること、資本市場のノイズを受けにくいこと、わかりやすい単一不動産が対象という点などを挙げた。
販売を手掛けた野村証券の沼田氏によると、同社では「1号案件でケチはつけられない」と商品説明のための専用動画を作成。営業パートナーや顧客側に見せて、商品特性をきちんと理解してもらったうえでの販売を心がけたという。「お客様にも負荷をかけることになったが、ここはしっかりと力を入れた」と沼田氏は話す。
投資家からよく出た質問の一つは「REITとの違いは?」というもの。わかりやすい相違点は、一般的なREITが多数の物件を束にしたポートフォリオを持っているのに対し、今回の不動産STは対象アセットがマンション一棟という点。
「手触り感」があるため何に投資しているかが理解しやすく、個人投資家の中には「渋谷のこの場所にあるマンションなら買いたい」という人もいたそうだ。
STの対象となるのは不動産とは限らない。「資産運用会社」「証券会社」という2つの機能を持つ三井物産デジタル・アセットマネジメントの上野氏は「今後は不動産だけでなく、三井物産としての強みが活かせるインフラで、利回り期待できるものにフォーカスした商品組成をやっていきたい」と話す。
「GAFAや通信会社など巨大企業との長期リース契約獲得により、安定したキャッシュフロー創出が期待できる」として、国内通信基地局や、国内データセンター、大陸間をつなぐ海底通信ケーブルなどの通信インフラ分野にも着目しているという。
今後の課題・展望は?
国内のセキュリティトークンをめぐる課題としては、まずセカンダリー市場の充実がある。最大の注目ポイントは、SBIグループと三井住友グループを中心に野村HD、大和証券が参加する、デジタル証券PTS(私設取引システム)「大阪デジタルエクスチェンジ」構想だ。
齊藤氏は「PTSが必要だという方向性は間違いない」と指摘。1号案件、2号案件は証券会社の店頭市場でのやり取りだったが、今後のセカンダリー取引はPTSが中心になっていきそうだと語った。
また、未来の話として「暗号資産の分散型取引所(DEX)のように、セキュリティトークンがP2Pで取引がされる未来もあり得るのではないか」「LINEやPayPayなど、日常的に使っているチャネルでデジタル証券をやりとりできるのが、究極のP2Pの世界だろう」と予測していた。
国内のセキュリティトークン事業は始まったばかりだが、すでに大きく加速し、期待感も高まっている。
上野氏は「今年は『やってみた』だったが、来年からは仕事のツールとして使っていく。我々は特色ある商品を打ち出せるポジションにいる。みなさんに驚いてもらえるようなものを、ぜひご提供していきたい」と述べた。
沼田氏も「頑張って1つ出してみて、良いところ・悪いところがわかった」と振り返り、「証券会社としては、もともと得意な社債などの分野も手掛けている。今後はセキュリティトークンの世界が広がるようなものを出していきたい」と展望を語っていた。
|取材・テキスト:渡邉一樹
|編集:佐藤茂
|フォトグラファー:多田圭佑