作家のニール・スティーヴンスンは1992年、3作目となる小説『スノウ・クラッシュ』を発表した。登場人物たちは完全にデジタルな世界で交流し、そこでは見た目を気まぐれに変えることができ、デジタル不動産は実世界の不動産と同じくらいの価値を持っていた。
スティーヴンスンはこのデジタル世界をメタバースと名付けた。
それから20年、メタ(旧フェイスブック)をはじめとする上場企業や、ディセントラランド・ファウンデーション(Decentraland Foundation)などの自律分散型組織(DAO)がメタバースを収益性のある現実にしようと取り組んでいる。
個人投資家、ゲーム愛好家、デジタルコレクター、開発者たちにとっては、まったく新しい収入獲得のチャンスが開けたのだ。
しかし、メタバースはまだ初期段階にあり、その価値提案が証明されてはいないことに留意が必要だ。メタバースへのいかなる投資も、投機的であり、リスクが高いと考えるべきだ。
メタバースの関連株
メタバースへの投資を検討する個人投資家にとって、最もボラティリティの低いオプションは、ビジネスモデルや収益性がメタバースと関連した上場企業に投資することだ。下記のような企業がある。
メタ・プラットフォームズ(Meta Platforms Inc、NASDAQ:FB)──マーク・ザッカーバーグ氏は昨年10月、フェイスブックが大規模なリブランディングを行い、メタ・プラットフォームズに社名変更すると発表。その発表以降、メタ社はバーチャルリアリティ(VR)メタバースプラットフォーム「Horizon Worlds」をリリースした。メタのVRヘッドセット「Oculus Quest 2」は、クリスマスプレゼントとして大人気となった。しかし、ヘッドセット売り上げの増加が、Horizon Worldsのユーザー数の増加につながるかは、まだ分からない。
ロブロックス(Roblox、NYSE:RBLX)──ロブロックスはゲーマーがバーチャル世界を生み出し、他のユーザーとそれをシェアできるようにするオンラインメタバースプラットフォーム。ロブロックスは2006年の創業以来、急成長し、独立開発者は950万人、独自デジタルエクスペリエンスは2400万、1日のアクティブユーザー数は前年比35%増の4940万人となっている。しかし、このような数字にも関わらず、まだ黒字を出せてはいない。
ボーイング(Boeing、NYSE:BA)──ボーイングは生産能力を拡大するためにメタバースを活用している。同社チーフエンジニアのグレッグ・ヒスロップ(Greg Hyslop)氏は、ロイターとのインタビューの中で、同社の人間、コンピューター、ロボット従業員が、世界中でシームレスに交流、協働できるような独自デジタル環境を作り出す計画だと語った。
マイクロソフト(Microsoft、NASDAQ:MSFT)──マイクロソフトは仕事の場でメタバースの活かしどころを見つけようとしている。2022年には、「Mesh for Microsoft Teams」をリリース予定。これは人気ビデオ会議プラットフォームへのアドオンであり、個々人が自分だけのアバターを作り出し、地理的な境界を超えるホログラフィーの3D環境で協働できる。Meshの鍵となる特徴は、ホロポーテーション(Holoportation)と呼ばれる、ユーザーがデジタル環境にVRヘッドセットでアクセスできるようにする機能である。ユーザーは実物のようなデジタル映像で投影され、実際に対面でやり取りしているかのように、他のチームメンバーとやり取りができる。
メタバース不動産
メタバースは生まれたばかりだが、ザ・サンドボックス(The Sandbox)やディセントラランドなどのプラットフォームがすでに、NFT(ノン・ファンジブル・トークン)という形でデジタル不動産の販売を始めている。
メタバース不動産を個人が購入すると、メタバースプラットフォームを支えるブロックチェーンネットワークがその販売を検証し、所有権を移動させる。
バーチャル不動産の購入が完了すると、メタバース不動産NFTの保有者は、その不動産を貸借、販売したり、土地の上に建物を建てることができる。
日本のゲームメーカー、アタリは先日、ディセントラランドで土地を購入し、暗号資産(仮想通貨)カジノを作り上げた。ERC-20をベースとした自社のネイティブトークン「アタリ(ATRI)」を利用して、非課税の暗号資産で賭けを行い、賞金を受け取ることができる。アタリはさらに、独自バーチャルホテルを2022年にオープンする計画も発表している。
メタバースで土地やデジタルアイテムを購入する方法
複数のメタバースプラットフォームが、ユーザーがデジタルの土地やその他のコレクション品をNFTの形で売買できるマーケットプレースを展開している。取引の流れは以下の通りだ。
1. メタバースの土地購入を希望するユーザーは、どのプラットフォームで土地を購入するかを見極める必要がある。いくつかのオプションがあるが、人気があるのはディセントラランドとザ・サンドボックスだ。メタバースでの土地売買の前には、自分でしっかりとリサーチしよう。
2. ユーザーは、ブロックチェーンネットワークに接続して暗号資産を保管する一種のコンピューターソフトウェアであり、メタバースプラットフォームを支える系列ブロックチェーンに対応する暗号資産ウォレットを作る必要がある。.
3. ユーザーは選んだメタバースプラットフォームのマーケットプレイスにアクセスし、自分のデジタルウォレットを接続する。マーケットプレイスは通常、メタバースプラットフォームのウェブサイトで見つかる。
4. この段階では、デジタル不動産の購入は実世界での不動産購入と似ている。買い手は価格、立地、将来的な価値を検討する必要がある。
5. 購入する土地を選んだら、ユーザーは購入に使うトークンやコインを獲得し、デジタルウォレットに保管する必要がある。取引実行に必要なトークンやコインの種類はメタバースプラットフォームによって異なる。例えば、ディセントラランドでの土地購入には、マナ(MANA)トークンを購入する必要がある。ザ・サンドボックスでの土地購入の場合には、サンド(SAND)トークンが必要だ。
6. デジタルウォレットをメタバースマーケットプレイスに接続し、資金を入れたら、土地に入札をかけるか、すぐに購入するだけである。土地のコストがウォレットから差し引かれ、土地を表すNFTがウォレットへと送られる。
7. アバターのための洋服やアクセサリーなど、他のメタバースNFTアイテム購入も、同様のプロセスで行われる。
メタバース暗号資産
ブロックチェーンネットワーク上のメタバースプロジェクトは、分割可能で相互に交換可能なトークン、ファンジブル・トークンが支えている。これらのトークンは、バーチャル不動産やアバターの洋服などのデジタル資産購入に使われる。他の暗号資産や法定通貨と交換することもできる。
メタバース暗号資産の一部は、どこに資金を投資するべきか、どの新機能を最初にリリースするべきかなど、メタバースプラットフォーム内の決断事項に投票する権利も与えてくれる。
理論的には、デジタル資産の価値が上がるに伴って、関連トークンの価値も上がる。さらに、ディセントラランドなど一部のメタバースプラットフォームでは、デジタル資産購入に使われたトークンをすべて焼却し、永久に流通から除外することで、残りのトークンの価値を高めている。
以下に、時価総額の高い順にメタバーストークンを紹介する。これらのトークンはリスクの高さを内在しており、投機的投資と考えられるべきである。一般的なルールとして、失っても構わない額以上を投資しないことが賢明だ。
ディセントラランド(MANA)──当記事執筆時点での時価総額は約60億ドル。MANAトークンはディセントラランドメタバースを支え、同プラットフォームのマーケットプレイスで交換手段として使われている。
アクシー・インフィニティ(AXS)──デジタルのモノやサービスを購入するのに使われるディセントラランドのMANAとは異なり、アクシー・インフィニティ(Axie Infinity)のAXSトークンはガバナンストークンだ。AXSを保有する人は、コミュニティー資金をどのように使うかなど、アクシー・インフィニティのエコシステムに影響を与える提案に投票することができる。アクシー・インフィニティ上でモノやサービスの購入に使えるように、AXSトークンを変更する計画もある。
ザ・サンドボックス(SAND)──ザ・サンドボックスは、ロボロックス同様、ユーザーが生み出したコンテンツのメタバースに力を入れている。SANDトークンはザ・サンドボックスのアルファユーザーテストに参加した人に見返りとして配られる。デジタル取引所で購入することも可能だ。SANDはユーティリティ、ガバナンス、ステーキングトークンである。つまり、SAND保有者はデジタルのモノやサービスの購入、ザ・サンドボックス内の決定事項への投票、さらなる報酬獲得のためのステーキングにSANDを利用できる。
エンジン・コイン(ENJ)──エンジン(Enjin)はブロックチェーンゲーム企業である。単独のメタバースプロダクトのみを提供するザ・サンドボックスやアクシー・インフィニティとは異なり、エンジンはユーザーに対して、相互につながった多くの「プレーして稼ぐタイプ(Play to Earn)」のゲームを提供する。エンジンが独特なのは、そのネイティブトークンENJがエコシステム内で作られたあらゆるNFTに注入されており、デジタル資産に実世界での価値を与えている点だ。
メタバースの未来は?
メタバースに力を入れた企業は、メタバースの夜明けが迫っていると消費者を説得するために、何百万ドルもの資金を注ぎ込んでいる。しかし、大衆へと普及し、バリアフリーなデジタル交流の時代がやってくるのか、それともゲーム愛好家や先進的なテクノロジー愛好家のためだけのニッチなプロダクトになるのだろうか?それは、時間が経たなくては分からないことだ。
今のところは、メタバースに興味のある個人投資家は各プラットフォームを検討し、メタバースの将来的価値を自ら見極める必要があるだろう。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:How to Invest in the Metaverse