フェイスブックが主導する仮想通貨「リブラ(Libra)」構想は、一見すると道理にかなったものではない。
分散型で非投機的なトークンは、フェイスブックが単独でソーシャルメディアプラットフォーム事業で利益をあげてきたような収益を稼ぐことは難しいだろう。
しかし、暗号化という領域において、新たなプロトコルを開発する者には常に可能性がある。前進する多くの開発プロジェクトには高い可能性は存在する。
リブラのプロトコルに関する多くの課題はすでに指摘されているが、この記事ではリブラの可能性のみを探っていく。
リブラのユーザー
リブラ構想では2種類の仮想通貨が生まれることを理解することは重要だ。1つはすでにその名を世界に知らしめたリブラ。もう1つは、フェイスブックとその事業パートナーのみに有効なトークン(リブラ・インベストメント・トークン)である。
前者は、その発行に応じて法定通貨と現金同等物のバスケットに裏付けされる。1ドル相当のリブラには、(理論上は)1ドル相当の実在する資産が存在し、それは一定の状況の下でトークンと交換されるだろう。
通常のユーザーは、100ドルを費やして100ドル相当のリブラを手に入れる。獲得したリブラは、(理論上は)さまざまなプラットフォームで利用され、承認する友人に送信することができる。
スイスに設立される非営利組織のリブラ協会(Libra Association)は、その100ドルを米短期国債(T-bill)などのさまざまな低リスクで短期的な投資に充てられる。7月1日現在、1カ月のT-billの利回りは年率2.125%。リブラ協会は100ドル相当のリブラを発行することで2ドルを稼ぐことになる。
得た利益をどうするのか?
リブラの投資家
その資産はリブラ協会が管理する。リブラのホワイトペーパーによると、資産は第一にネットワークの運営に利用され、残りはリブラ・インベストメント・トークン保有者にそれぞれの保有割合に従って分配される仕組みだ。
リブラ協会は、最低1000万ドルを投資するリブラ・インベストメント・トークン保有者で構成される。また、トークン保有者に加えて、構成メンバーには、トークンを購入する必要はないが、議決権を有する「スペシャル・インパクト・グループ」と呼ばれる者が存在する。
リブラ協会のメンバーに名を連ねる初期投資家は主に大手テクノロジー企業やベンチャーキャピタルで、1000万ドルという額はさほど大きな投資ではない。リブラ構想が具体化していけば、投資家たちにとってはその投資はやがて莫大なリターンを生む可能性が見えてくる。
全体の規模
リブラの潜在市場の規模を図る上で、まずは米国のマネーサプライを見ることにする。
約3億2900万人の人口を有する米国で、現金通貨と当座預金通貨などを含むM1マネーサプライは2019年1月現在、3兆7000億ドル(約401兆円)。M1に預金や定期預金証書、マネーマーケットファンドを加えたM2マネーサプライは14兆ドルを超える。
リブラが数年後にM1の10%に相当する規模まで採用されると仮定し、それまでに10億ドル相当のインベストメント・トークンを販売し、ネットワーク運営と資産運用に同じく10億ドルのコストがかかるとする。T-billの利回りはそれまで一定の水準を維持すると仮定すれば、リブラは年間およそ70億ドルの利息を生むことになる。この場合、年間の投資利益率(ROI=return on investment)は688.51%。
この膨大なリターンを得る者は、通貨「リブラ」の保有者ではなく、インベストメント・トークンを保有する者である。
すなわち、仮に500ドルの投資を行なった場合、リターンは10年間で34425.35ドルになる計算だ。インベストメント・トークンの最低投資額は1000万ドルであるので、そのリターンは6億8800万ドルに及ぶ。しかし、これは控えめなシナリオだ。
より穏当なシナリオでは、我々はリブラの採用がM2マネーサプライの15%に相当すると仮定するが、その場合のリターンの額は驚くべき数字になる。年間ROIは4478%に跳ね上がる。500ドルの投資に対するリターンは10年で22万3924ドルとなり、1000万ドルの最低投資は同じく10年で44億ドルに膨れることになる。
世界No.1の座
「部分的なグローバル採用シナリオ」と名づけたシナリオでは、我々は世界のM2マネーサプライの10%〜15%の代わりに米国のM2マネーサプライの25%を使った。その場合、年間ROIは7530%で、リターンは750億ドル。同じく、500ドルを投資したと仮定すると、そのリターンは10年で37万6540ドル。1000万ドルに対しては、75億3000万ドルのリターンを生む。
最近の報告書では、3兆4700億ドルの資産を持つ中国工商銀行(Industrial and Commercial Bank of China =ICBC)は世界最大の銀行だと言われる。世界の銀行界では今まで、既存の巨大銀行を脅かす存在は皆無に等しく、寡占が続いている。
仮にリブラが米国のM2マネーサプライの25%に相当するマーケットシェアを獲得すると、あっという間に世界最大の銀行になってしまうだろう。中国工商銀行が35年の歳月をかけて獲得した世界No.1の座を、リブラは驚くべき短い時間でその座を奪ってしまう。
デリバティブの発展
これまで述べてきたことはもちろん、リブラという貨幣の潜在的な可能性だ。仮想通貨の長期的な聖杯とも言うべきものは、管理者が存在しないトークン化・担保化された資産とデリバティブ市場の創造である。
リブラの成功シナリオでは、我々はリブラの担保化資産は早期の段階でその姿を表すと考えている。これを実現するすることで、前述の飛躍的で驚異的な潜在的リターンを超えるほどの機会は、次のフェーズの扉を開けることになる。
デリバティブ市場の誕生により、莫大な追加資本がリブラのシステムを組み込まれていくだろう。
国家を超えたデジタル通貨
リブラは非常に現実的な方法で設計されており、他と異なる。ビットコインの長期ユーザーや支持者にすれば、それは美しくもあり、恐るべきものである。
仮想通貨はマネーの中での競争を生んだ。政府は長期にわたり、貨幣の発行と運営において独占してきた。その現実はもともと、国家が管理する貨幣以外に優れた、広範囲に受け入られる代替貨幣は存在しないという考えに基づくものだ。
リブラにはこの現実を変える可能性があるだろう。
およそ77億人が存在する地球で、20億人を超えるユーザーを抱えるフェイスブックは、ソーシャルメディアにおいて巨大なプレイヤーである。このスケールにおいて、フェイスブックは信じられないほどのパワーと、それに対する監視が伴う。その力が今後数年、または数十年でさらに優位な立場を得ることができるかは、わからない。
しかし、フェイスブックが獲得した今日のソーシャルメディアにおける支配をフルに活用することで、リブラは国家を超えたデジタル通貨のグローバルネットワーク効果を始動させたように見える。
フェイスブックのユーザーのほんの一握りがリブラにシフトすれば、世界最大で最も収益性の高い(分散型ではあるが)金融機関になるための道を歩むことになるだろう。
この記事は2人の著者、カーク・フィリップス(Kirk Phillips)氏とアダム・レヴァイン氏(Adam B. Levine)氏によって作成された。フィリップス氏は起業家、公認会計士であり「The Ultimate Bitcoin Business Guide: For Entrepreneurs & Business Advisors」の著者である。レヴァイン氏は、ポッドキャスト「Let’s Talk Bitcoin」の創設者であり、Tokenly Incの創業者である。
翻訳:CoinDesk Japan
編集:佐藤茂
写真:Libra image via Shutterstock
原文:Billion-Dollar Returns: The Upside of Facebook’s Libra Cryptocurrency