暗号資産界の10の派閥:調査

多くの人は、暗号資産(仮想通貨)界は無情なリバタリアンと、投機的トレーダーであふれていると考えている。しかし、暗号資産にしばらく携わった人なら誰でも、暗号資産コミュニティは政治的にも経済的にも非常に多様であることを知っている。

開発者にギグワーカー(単発で仕事を請け負う人)から、左派にミームの大物、おばあちゃんまで、ありとあらゆる人が存在しているのだ。当記事では、その多様性を数字で見ていく。

以下では、イーサリアム関連のカンファレンス「LisCon 2021」でお披露目した、暗号資産コミュニティの政治経済的傾向を調査するための18の質問からなるオンライン調査「Cryptopolitical Typology Quiz(クリプト政治分類クイズ)」から得られた考察を紹介する。

この調査では、10の派閥と4つの部類に分類し、クリプト政治NFT(ノン・ファンジブル・トークン)もリリースした。

派閥の紹介

この調査でまず目を引くのは、派閥分けかもしれない。

縦軸(クリプト左派、DAO主義者、真の中立主義者、クリプトリバタリアン、クリプト無政府資本主義者)は、暗号資産界における政治的信条を捉えている。これらの派閥は、ピュー研究所が長年実施している「Political Typology Quiz(政治分類クイズ)」をもとにした一連の質問から算出されている。

横軸(稼ぎ手、クリプトパンク、NPC、テック起業家、ディジェン)は、暗号資産への経済的関わりの主要な様式を表している。

そして、下の図には出ていない4つの「部類」(Szabian、Gavinist、Zamfirist、Walchian)は、ガバナンスや政府の規制についての信条を捉えている。

それぞれの部類名は、コンピューターサイエンティストのニック・サボ(Nick Szabo)氏、ポルカドット(Polkadot)共同創業者ギャビン・ウッド(Gavin Wood)氏、イーサリアム財団の研究者ブラッド・ザムフィール(Vlad Zamfir)氏、法学研究者のアンジェラ・ウォルシュ(Angela Walch)氏にちなんで名付けた。

幅広い分類の中から、このような派閥を選んだ。(最終的に選ばれなかったものには、クリプト無政府共産主義者、サイファーパンク、クリプト封建主義者などがある)

調査への回答に基づき、回答者にはそれぞれ政治的派閥、経済的派閥、ガバナンス部類が当てはめられた。

政治的派閥(縦軸)と経済的派閥(横軸)を割り当てられた回答者の割合
出典:Metagov/CoinDesk

考察1:暗号資産界にはリバタリアンが多くいるが、「保守派」は非常に少ない

暗号資産は一般的に、右派リバタリアン的政治と関連づけられることが多く、回答者の多くも確かに、リバタリアン、あるいはさらに急進的な無政府資本主義者に分類された。

しかし、暗号資産コミュニティ内には、驚くほどの政治的多様性があることを認識することも大切だ。開発者の中には資本主義賛成のリバタリアンもいれば、資本主義に反対する無政府主義者や社会主義者もいる。

クリプトリバタリアンとクリプト無政府資本主義者が優勢ではあるが、自らが保守あるいは右派であるとしたのは回答者のわずか5.9%。51.6%はリベラルあるいは左派、42.6%はどちらでもないと回答した。

この理由として考えられるのは、多くのリバタリアンは「保守」という言葉を社会的保守主義と関連づける一方、クリプトリバタリアンは、経済的リバタリアニズムの方に重点を置くからかもしれない。

この調査では将来的に、地理的に異なる場所での回答を比較したいと考えている。(例えばヨーロッパとアメリカなど)地域によって、「保守」と「リベラル」の意味は大きく異なっているからだ。

考察2:オンチェーンガバナンスはオフチェーンガバナンスよりも少し人気がある

ガバナンスは、ブロックチェーン内でも、ブロックチェーン間でも論争を引き起こす問題である。とりわけ、既存の規制、法律関連の当局が関わる場合には尚更だ。

回答者の意見は、オンチェーンガバナンスとオフチェーンガバナンスのどちらを好むかにおいて、2分された。回答者の半分以上は「オンチェーン」側を選んだが、約40%は「オフチェーン」側を好んだ。

一方、より極端な立場(オフチェーンでの政治を完全に避けるものや、政府による規制の必要性を確固として主張するもの)が、回答者の約3分の1を占めた。

驚くべき結果が1つあった。質問16番の回答において、ごくわずかな割合の人々のみ(3.2%)が、中核的開発者と技術スタッフにおおむね管理されるプロトコルという、サトシ・ナカモトの元々のビジョンに同意した。

(ちなみにビットコインとイーサリアムでは、現在でもいまだに、おおむねこのようなやり方で変更や改善が展開される)この数字は、伝統的政府がブロックチェーンを管理するべきと考えている人たちの割合(3.4%)よりも少ないのだ。

考察3:開発者たちが大きな割合を占め過ぎている

経済的派閥の面では、テック起業家(暗号資産の経済的活用法を開発したり、それに貢献することに関心のある人)が、回答者の3分の2以上を占めている。多くの開発者がいることは素晴らしいが、この調査は暗号資産コミュニティ全体を象徴する標本になってはいないことが浮き彫りとなっている。

ディジェン(暗号資産の値上がりだけを望む、「人生は一回きり」的な利益最重視の人)は回答者のわずか2%。

ディジェン的要素を検知するための質問で探ってみても、「暗号資産における私の目標は可能な限りたくさんの利益を出すこと(質問4番)」と答えたのはわずか7.2%。

「成長のために、暗号資産エコシステムは最大限の富の創出のための金融商品を提供するべき(質問9番)」と答えたのは3.5%。「エアドロップ(無償のトークン配布)を狙っている(質問17番)」と答えたのは8.5%であった。ディジェンと認定されるには、3つの質問のうち最低2つは上記のように回答する必要がある。

考察4:暗号資産界にはまだ、確立されたカテゴリーがない

上記一連の派閥は私たちが自ら設定したが、データから自然発生的に他の派閥や特徴が立ち上がってくるかどうか、興味津々だった。そこで、様々なクラスタリングの手法(affinity propagationや凝集型階層的クラスタリング )や、特徴選択の手法(PCAやfeature agglomeration)をデータに適用してみた。

すると、暗号資産についての意見を暗号資産界の人たちに聞くと、(およそ)nの独自の回答が得られることが分かった。少なくともn = 500である。だからと言って、意見のクラスターが形成できない訳ではないが、クラスタリングの結果が現状では決定的ではない理由が見えてくるかもしれない。

正直に言うと、この結果は私たちにとって衝撃的だった。暗号資産界においては、政治的意見の集約が本当に起こっていないのだろうか?

今のところは、より多くのデータを集めることによって、コミュニティ内の注目すべき流派を認識することができればと願っている。他のデータサイエンティストが、私たちのデータと、例えば他のデータセットを組み合わせることによって、別の結論を導き出せないかという点にも興味がある。

考察5:大半の人は暗号資産は政治的哲学などと考えている

以下に、調査から得られたその他の考察を紹介する。

暗号資産はあなたにとって何を意味する?回答者の過半数(56.6%)は、暗号資産は主に経済的テクノロジーではなく、政治的哲学/ライフスタイルであると考えている。(質問3番)これは特に、(ユーザーやアーティスト、ミームを作る人たちに対する)開発者の割合が多かったことを考慮すると、私たちには驚きであった。

ビットコイン vs イーサリアム:回答者には、様々なレイヤー1プロトコルに対する支持を表明する機会が与えられた。2大グループ、イーサリアムとビットコイン支持者の回答を比較すると、以下のことが分かった。(1)両者は大半のことで意見が同じであった。(2)最も意見が分かれたのは、ジェンダーに関するものであった。暗号資産界はジェンダーの問題を抱えていると考えるビットコイン支持者は、イーサリアム支持者より少なかった。(質問15番)ビットコイン支持者はまた、規制に懐疑的(質問7番)で、規制上の取り組みに協力することへの関心や、法的コンプライアンスへの懸念が低かった。(質問14番)

暗号資産界は経済的に公平か?暗号資産チームが得ている利益は公平で妥当なものか、それとも利益を上げ過ぎているかという質問(質問11番)において、回答は二極化した。暗号資産界における経済システムは全体として、参加者の大半に対して公平なものか、強力な利害関係者に不公平に有利なものかという質問(質問12番)への回答も同様だった。

暗号資産はどう進化するか?過半数は、暗号資産は成長すると考え、暗号資産はユーザーが抱える真の問題を解決する役に立つテクノロジーを築くべきと回答した。

今後の展開

私たちは多くのデータ、特にビットコインコミュニティからのデータを必要としている。

私たちは当初、暗号資産コミュニティに情報を与え、自らをよりよく理解してもらうためにこの調査を考案した。このデータはまた、規制に関する議論にも影響を与えると考えており、そのような目的のためにこの調査を改定できればと考えている。

さらに、より厳格なサンプリング戦略と質問を使って、2022年には第2回目の調査を実施したいと考えている。誰が暗号資産に携わっているのかがより明確になり、暗号資産の政治経済に関するデータの移り変わりも見えてくるだろう。

ジョシュア・タン(Joshua Tan)、ルシア・:コーパス(Lucia Korpas)、アン・ブローディ(Ann Brody)は、ガバナンスリサーチコレクティブ「Metagov」のリサーチャーである。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Kathy Hutchins / Shutterstock.com
|原文:The 10 Tribes of Crypto