投資DAO、暗号資産VCをリプレースするか?

自律分散型組織(DAO)は最近では、合衆国憲法の原本の落札を目指したり、ゴルフコースを購入するために組織されている。

さらに、暗号資産スタートアップに資金を提供するためにDAOが作られている。何十年にわたって新しいテクノロジーに資金を提供してきた、ベンチャーキャピタルの資金調達モデルをディスラプト(創造的破壊)する可能性もある。

暗号資産投資に重点を置いたDAOは、取引をまとめたり、創業者と会ったり、小切手を切るための新しい舞台となっている。こうした機能はこれまで、業界の内部関係者としての立場を誇りにしてきた、金回りの良いベンチャーキャピタリストが担ってきた。

「我々は暗号資産投資を民主化し、これまでアクセス手段を持たなかった人たちにアクセスを提供しようとしている」と、「ベンチャーキャピタル(VC)モデルをディスラプトすることを目指す」DAO、グローバル・コイン・リサーチ(Global Coin Research)の創設者ジョイス・ヤン(Joyce Yang)氏は語った。

DAOは、分散型で伝統的な意味では規制を受けておらず、一般的にネイティブトークンによってガバナンスが行われるブロックチェーンを基盤とした組織だ。

DAO関連のデータを提供するDeepDAOによると、DAOは2021年、雑草のような勢いで誕生し、12月には参加人数は160万人を超え、年1月のわずか1万3000人から130倍に成長している。

しかし、新興のテック企業の資金調達については、DAOはまだ真価が試されていない。アンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz/a16z)やパラダイム(Paradigm)などのベンチャーキャピタルが、暗号資産をはじめとする新興テクノロジーの起業家向け資金調達ビジネスを完全に独占しているからだ。

取引や創業者へのアクセス

「投資DAO」を見てみよう。投資DAOは、初期段階の暗号資産スタートアップに個人的な資金を投資できる暗号資産ファンの集合体だ。

一般的に、投資DAOに参加するためには、DAOのガバナンストークンを事前に購入する。それと引き換えに購入者は、招待制のディスコート(Discord)チャットやテレグラム(Telegram)グループ、対面イベントなどにアクセスできるようになる。

グローバル・コイン・リサーチ(GCR)の例を見てみよう。GCRは30以上の取引に投資し、ブロックチェーン相互運用性プロトコルのオーロラ(Aurora)やウェブ3管理プラットフォームのコインバイス(Coinvise)などのプロジェクトに2500万ドル以上の資金を提供してきた(取引に参加するには、個々のDAOメンバーは適格投資家でなければならない。適格投資家は、規制当局に登録されていない証券を合法に買うことのできる)。

GCRは12月時点で、市場で評価されるようになったプロジェクトの平均リターンは40倍以上になったと推計している。

「暗号資産のおかげで、マイクロVCが本当に盛んになった。ブロックチェーンプロジェクトに対する投資リターンは数千%にもなり得るからだ」とレシプロカル・ベンチャーズ(Reciprocal Ventures)の創業者マイケル・スタインバーグ(Michael Steinberg)氏は語った。

スタインバーグ氏は投資DAOを、これまで初期段階のスタートアップが資金調達のために頼りにしてきた、緩やかに組織された投資家ネットワークであるエンジェル投資家ネットワークやシンジケートの「根本的な作り直し」と呼んでいる。

最もよく知られているシンジケートはおそらく、エンジェルリスト(AngelList)だろう。タイガー・グローバル(Tiger Global)やYコンビネーター(Y Combinator)などの大手VCと並んで、適格投資家も取引に参加できる。

「シンジケートの問題点は、受動的投資家であり、(スタートアップの)創業者にアクセスできないこと」とスタインバーグ氏は指摘した。「DAOには、アクセスを阻む仲介者はいない」。

コミュニティのサポート

創業者たちも、DAOとのやり取りから恩恵を受けることができる。例えば、暗号資産ネイティブのコミュニティから、プロダクトについてのフィードバックやアドバイスをもらうことができる。

初期段階の暗号資産スタートアップにとって、また暗号資産とは関係ないスタートアップにとっても、ユーザーへの普及やプロダクトマーケットフィットは、依然としてよくある課題だ。

「GCRとイベントを共同開催することを通じて新しいメンバーを迎え入れることによって、自分たちのコミュニティを形成することができた」と、GCRや他の投資DAO「The LAO」と連携したコインバイスの創業者ジェニル・タッカー(Jenil Thakker)氏は語った。

「さらに大きな面では、投資DAOははるかに幅広い人々へのアクセスを提供し、プロダクトの初期フィードバックに役立てることができた」(タッカー氏)

DAOインフラ企業コインバイスに対してGCRは、GCRガバナンストークン発行のためにコインバイスのプラットフォームを使うなど、プロダクトのテストをサポートした。

「資金調達時に、創業者がコミュニティを必要とするようになっている。プロジェクトは優れた暗号資産ネイティブチームを見つけ、プロダクトを使ってもらいたいと考えている。さらにコミュニティからのフィードバックも望んでいる」とGCRのヤン氏は指摘した。

タッカー氏によると、ほとんどの投資DAOは投資先企業に対して、メディア、採用、法律関連のサービスも提供している。

「伝統的なベンチャーキャピタルで、こうしたサービスを提供することはコストがかかるし、多くの場合スケーラブルではない」とタッカー氏は述べた。

ハイブリッドな未来

暗号資産が時価総額で約3兆ドルにまで成長するなか、投資資金は熱狂的に、成長著しいこの業界の、驚くようなリターンを追い求めるようになり、さまざまな特色を持った複数の著名な投資DAOが生まれた。

女性創業者に投資するコモレビ・コレクティブ(Komorebi Collective)や、NFTに特化したフラミンゴDAO(FlamingoDAO)などがその一例だ。

DAOは伝統的なベンチャーキャピタルに迫り、いつの日か取って代わるようになるのだろうか?

「可能性はある」と語るのは、レシプロカル・ベンチャーズのスタインバーグ氏。「暗号資産ベンチャーキャピタルは、全力を傾けて取り組む必要のある仕事。VCは一般的に、非常にアクティブ、熱心で、投資先企業に専念する多くの時間とリソースを持っている。我々はDAOとの連携は大賛成だが、創業者の中にはアドバイスを求めている人もいる」。

サード・プライム・キャピタル(Third Prime Capital)のクリスチャン・カクズマルシジック(Christian Kaczmarczyk)氏は「DAOの力が徐々に大きくなることは間違いないと考えている。DAOと連携するVCは長期的に成功を収めるだろう」と述べた。

投資DAOは、運用能力や効率性の面で、伝統的VCに遅れを取っていると考えるベンチャーキャピタリストもいる。

「私が見た限りでは、個々のメンバーの強みや有用なパートナーシップのための能力において、プロジェクトはDAOに価値を見出している。だが資金調達ラウンドの主導には、圧倒的に伝統的VCが選ばれている」とDeFi(分散型金融)において創業者や開発者をサポートしているバルハラ・キャピタル(Valhalla Capital)のカイル・ワン(Kyle Wang)氏は語った。同氏は複数の投資DAOにも積極的に参加している。

DAOがスタートアップの資金調達において存在感を増すなか、DAOのコミュニティ主導の精神と、ベンチャーキャピタリストの豊富な資金と運営における専門知識を組み合わせた、ハイブリッドモデルが生まれているようだ。

「(中央集権的取引所である)FTXやコインベースが(分散型取引所の)ユニスワップとともに、流動性を提供する存在と考えられているように、きわめて民主化された投資シンジケート(=投資DAO)と並んで、中央集権化された投資家(=VC)のための余地もある。2つの陣営の境界線が曖昧になるにつれて、ハイブリッドなアプローチも生まれている」とコインファンド(CoinFund)のエバン・フェン(Evan Feng)氏は述べた。

投資DAOには、規制当局による監視、資金の不適切な管理、ほとんどテストされていないテクノロジーの欠陥など、暗号資産にまつわるリスクも伴う。実績も重要で、多くの実績を持つ投資DAOがさらに実績をあげていく。

しかし、強気相場において、提携する投資家を選ぶ究極のパワーを持つのはスタートアップの創業者たちだ。

「起業家はビジョンに最も適した投資家を選び、成功のチャンスを最大化すべき。それがDAOなら、それで良い」とサード・プライム・キャピタルのカクズマルシジック氏は語った。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Will DAOs Replace Crypto Venture Capital?