タダで食べられるランチなんて存在しなければ、無料の取引なんてものも存在しない。ATMで20ドル引き出すために5ドル払うのを不愉快に感じるとしたら、500ドル送金したり、ペンギンの画像を受け取るために100ドル支払わなければならない状況を想像して欲しい。
極端な例のように聞こえるかもしれないが、イーサリアムネットワーク上で取引したり、機能を実行するために、時にはそうなることがあるのだ。さらに、イーサリアムが月末にガス代を返金してくれることはない。
ガスとは?
ガスとは、ユーザーがネットワークとやり取りするためにイーサリアムが要求するイーサ(ETH)の数を表す言葉だ。ガス代は、取引を検証するために必要とされるエネルギーに対するイーサリアムマイナーへの報酬、そして悪意あるユーザーがネットワークを攻撃するには、コストがかかり過ぎるようにすることで、イーサリアムネットワークにセキュリティを提供するために使われる。
マイナーに取引の検証を続けてもらい、ネットワークのセキュリティを維持するためのインセンティブとして効果的な手段ではあるが、ガス代はイーサリアムにまつわるものの中で、全てのユーザーが最も嫌う要素でもある。手数料に対する一般的な嫌悪感からだけではなく、ネットワークが混雑している場合には、信じられないほどに高くなることもあるために嫌われているのだ。
#Ethereum gas fees are like Uber surge prices. You have to be drunk to not notice how bad they are.
— Kate Irwin (@pixiekate13) 2022年1月4日
「イーサリアムのガス代はウーバーのピーク料金みたい。酔っ払っていない限り、どれほどひどいものかに気づけるはず」
それでは、ガス代がそれほど高くなる理由と、イーサリアムエコシステムを利用する時にお金を節約するための方法を見ていこう。
ガス代の算出方法は?
ガス代がそれほど高い理由、お金を節約するための方法を理解するには、その算出方法を理解することが大切だ。
イーサリアムの手数料は通常、1 ETHよりもはるかに少ないため、イーサリアムでは「wei」と呼ばれる単位を採用している。
1 ETHは、1 wei x 10の18乗だ。weiを使った最も一般的な単位で、ガス代を表すのにも使われるのが「gigawei(gwei)」、つまり10億 weiだ。ガス代トラッキングツールをチェックして、平均ガス代が100 gweiになっていたら、取引に対して0.0000001 ETH(等記事執筆時点で、0.00031ドル相当)の基本料金を払うということになる。
NFT(ノン・ファンジブル・トークン)を作ったり、OpenSeaなどのマーケットプレースでNFTを購入したことがあるとしたら、NFTの取引に100 gweiは、割安に感じられるかもしれない。それは基本料金は単に、手数料全体の一部に過ぎないからだ。
イーサリアムのアップグレード「ロンドン」によって採用された手数料の仕組みに従うと、現在の手数料の合計は次の通り算出される。
ガス代計 = ガスユニット(リミット) x (基本料金 + チップ)
ガスユニット(リミット):これは、取引で消費されるガス代の上限である。調整は可能だが、慎重に行うことが大切だ。イーサリアムブロックチェーンとのやり取りのタイプによって、完了に必要なガス代は異なってくるからだ。
基本料金:取引をイーサリアムブロックチェーンに含めるのに最低限必要なガス代である。基本料金は、取引のタイプに関わらず、需要によって決定される。基本料金は需要に左右されるため、ネットワークとやり取りしているユーザーの数に応じて増減する。
チップ:優先手数料とも呼ばれるチップは、取引をより速く完了してもらうための追加料金だ。イーサリアムマイナーが特定の取引を他のものより速く完了させる金銭的インセンティブを提供するため、チップと呼ばれる。優先手数料を払った取引を検証したマイナーは、その見返りにチップを受け取る。マイナーはどの取引にチップが含まれているかを確認できるので、できるたけ多くのチップを受け取るために、チップの高額な取引を優先的に完了させる。
取引を完了させるのに必要なガス代よりも低くガスリミットを設定してしまうと、取引は差し戻されるが、ガス代を取り返すことはできない点に注意が必要だ。マイナーはすでに取引を処理するために労力を費やしており、取引が完了しなくても、その分の手数料を受け取るからだ。
ガス代の計算を、例を使って考えてみよう。私があなたに1ETHを送ろうとしているとする。イーサリアムネットワーク上でETHを移動させるのに必要なガス代の平均は2万3000 gweiだ。それを、ガスリミットとして設定する。この時点での取引に最低限必要なガス代(基本料金)は150 gweiだが、速く届けるために、20 gweiのチップを追加する。この場合、計算式は次のようになる。
1ETHを送るためのガス代計 = 23,000 gwei x(150 gwei + 20 gwei)
そうすると、ガス代の合計は3910000 gwei、つまり0.00391 ETH(当記事執筆時点で約13ドル相当)となる。A氏がイーサリアムブロックチェーンに1.00231 ETHを送ると、B氏が1ETHを受け取れる、ということだ。
ガス代の高さの理由
ガス代の算出方法を理解したところで、ガス代がなぜそれほど高くなるかを理解していこう。ガス代が高騰している理由は主に、以下の2つがある。
・ガス代がイーサ建てだから
・イーサリアムのガス代が変化するから
イーサ価格高騰によって、ガス代も高騰
ガス代が高くなっている主な理由の1つ目は、イーサが高くなっているからだ。その値上がりの背景には、新しいユーザーをイーサリアムエコシステムに引き寄せ続けている、分散型金融(DeFi)とNFTセクターの人気がある。
I love #Ethereum even with all the gas fees, but this is hilarious 😂#ETHGasPrice pic.twitter.com/cWHYJ42w3n
— Crypto Kabab (@cryptokabab) 2022年1月7日
「ガス代が高くてもイーサリアムは大好きだが、これは笑える
#ETHガス代
『ガス代を払ってみたら、イーサリアムロゴの意味が分かった』」
基本料金高騰によって、ガス代も高騰
ガス代の高騰のもう1つの理由は、基本料金が変化し、上がっているからだ。前述の通り、基本料金は需要に応じて調整される。イーサリアムブロックチェーンへの需要の高まりの結果、基本料金は一貫して上がり続けているのだ。
イーサリアムブロックチェーン上では3000を超える分散型アプリケーション(Dapp)が展開されており、イーサリアムネットワークユーザーと並んで、それらすべてのDappも、取引を含めてもらおうとしている。Dappだけで、イーサリアム上で10万以上のアクティブユーザーを占めており、1日の合計実施取引数は25万を超える。
イーサリアムの広範な普及は、ガス代のボラティリティの高さにもつながった。ガス代をより一定したものにするために、イーサリアムのEIP(イーサリアム改善提案)1559では、それまでのオークション形式のガス代決定の仕組みから、直近のブロックによって基本料金が決定されるよう変更された。
EIP 1559がもたらした影響についてはまだ議論が続いているが、イーサリアムへの需要の高まりによって高騰する基本料金が、ガス代の合計を増加させ続けていることは確かだ。
イーサリアム2.0は、イーサリアムのコンセンサスアルゴリズムがプルーフ・オブ・ワーク(PoW)からプルーフ・オブ・ステーク(PoS)へと移行する大型アップグレードだ。ネットワークにもたらされるメリットは数多くあるが、その1つは、取引処理能力を大幅に改善し、マイナーへの依存を廃止することで、イーサリアムの手数料を競合と同じレベルまで引き下げることだ。
ガス代を節約する方法
イーサリアムブロックチェーンを使う際にガス代を完全に回避することは不可能だが、その負担を軽くする方法はいくつかある。
適切な時間を選び、忍耐強く待つ
残念ながら、ガスユニットの影響を直接緩和するための方法はないが、基本料金とチップを下げることで、ガス代の合計を下げる方法は存在する。
基本料金を下げるためには、イーサリアムを使うユーザーの数が少ない時間に取引を行えば良い。イーサリアムネットワークとやり取りするのにより労力がかかる時には、基本料金が高くなる。イーサリアムネットワークとやり取りしようとする人の数が多い時には、より多くの労力がかかる。
つまり、イーサリアムネットワークとやり取りする需要が低い時間帯を見つけられれば、基本料金が少なく済むのだ。一般的には、週末が狙い目だ。
チップを下げる方法もある。チップは、取引時間を短縮するためにマイナーに支払う追加料金だ。取引が一刻を争うものでなく、忍耐強く待てるのならば、チップを下げてガス代を節約できる。
ガス代の上限を設定する
ガス代を節約するもう1つの方法は、取引にガス代の上限を設定する方法だ。これは、イーサリアムブロックチェーンにX gweiを合計のガス代として送ることで、支払う上限はX gweiであると伝えることだ。取引が完了すると、実際に必要となったガス代の合計との差分が、イーサリアムネットワークから返金される。
ガス代の上限を設定することは、ガス代の節約に役立つだけでなく、取引に対して想定以上に支払うことはないという安心感も与えてくれる。しかし、ガスリミットの設定と同様に、取引に必要なガス代よりもガス代の上限を低く設定してしまうと、支払ったガス代を失い、取引が差し戻されることになるので注意が必要だ。
レイヤー2スケーリングソリューション
最後に、イーサリアムの「レイヤー2スケーリングソリューション」を使ってイーサリアムブロックチェーンとやり取りすることでも、ガス代を節約できる。スケーリングツールとは、取引スピードを上げ、1秒当たりに処理できる取引数を上げることを目的としている。アービトラム(Arbitrum)、ループリング(Loopring)、dYdXなどが人気だ。
レイヤー2スケーリングソリューションはオフチェーンである。つまり、イーサリアムブロックチェーンとは別個に取引を処理する。レイヤー2スケーリングソリューションには様々なものがあるが、似たような仕組みで働く。レイヤー2の取引はオフチェーンで発生し、イーサリアムネットワークによって検証され、オンチェーンで記録される。
ガス代に話を戻すと、レイヤー2スケーリングソリューションは取引完了に必要なガスユニットを減らすことで、ガス代節約の方法を提供する。取引検証時のみイーサリアムとやり取りするため、マイナーが処理に必要とするガスが少なくなるのだ。
レイヤー2ソリューションはまた、イーサリアムネットワークの混雑も緩和し、すべてのユーザーに対して基本料金がより安くなるという恩恵をもたらす。このようにレイヤー2スケーリングソリューションは、ガス代を大幅に節約する助けとなるのだ。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:What Are Ethereum Gas Fees?