FOMC声明を読み解く:暗号資産界への投下資本は激減するか?

連邦公開市場委員会(FOMC)は1月26日(米国時間)、25日から開催されていた2日間の会合での決定事項を発表した。この発表は、アメリカ経済全体の方向性に対して、大きな影響を持つことになる。とりわけ、短期および長期的な暗号資産(仮想通貨)業界でのトレンドに、顕著な影響をもたらす可能性がある。

今回のFOMC会合で注目された争点は大きく2点。その1つは、新型コロナウイルスのパンデミック中にFRBのバランスシートを2倍以上の約9兆ドルまで拡大させた資産購入の「テーパリング(段階的縮小)」スケジュールだ。

これに関しては、昨年12月に発表された方針を維持し、今年3月で資産購入をストップさせることが明らかとなった。テーパリングや資産売却のスケジュールは、インフラと資本市場に大きな影響を持つことになる。

利上げと暗号資産

しかし、見出しとなるべき真の争点は、FRBが設定する銀行間金利の誘導目標だ。FOMCの声明では、明確な利上げの時期は明らかにされなかったが、パウエル議長は声明発表後の会見で、3月の利上げを示唆した。

FRBは以前に、インフレと労働市場の逼迫(ひっぱく)への対応として、今年3回の利上げを計画していると語っている。ゴールドマン・サックスでは、さらなる圧力を見込んでか、4回の利上げを予想しており、2024年までに金利が2.5%〜2.75%まで上がるとみている。

FRBがその方針を堅持すれば、マクロ経済に劇的な変化を生じる可能性もある。さらに重要なことに、投資家や雇用主によって大きな変化と捉えられ、彼らがそれに応じて自らの選択をシフトさせる可能性もあるだろう。

FRBによる利上げの影響は多々あるが、その1つは、投機セクターからの資本の流出だ。預金者や投資家たちは、より安全なリターンを持つ国債に惹きつけられるからだ。暗号資産やその関連スタートアップ(それと並んで、テックやベンチャーキャピタル)から資本が流れ出すのも避けられないだろう。

ここで問題となるのは3点だ。

・どれほどの資金がより保守的なポジションへと移動するのか
・どれほどはやく移動するのか
・そのシフトはすでに市場に「織り込み済み」なのか

潜在的影響が不透明な理由の1つは、大幅な利上げの後でさえも、歴史的にみれば金利は低いままだという現状である。FRBによる金利の誘導目標は2008年の金融危機以降、おおむねほぼゼロとなっており、2019年に1度だけ2.4%まで引き上げられたが、再びの危機を受けて引き下げられた。2008年の緊急危機までは、1962年以降、目標金利が2.4%まで下がったことはなかった。

投資家たちは、ゆっくりとした利上げを、ポスト危機の時代の終焉と捉えるだろうか?ほぼゼロ金利の環境は、「永遠に損失を出し続けるスタートアップ」といった歪んだ事態を生んできた。

WeWorkやウーバーなどが、将来的なリターンのわずかな見込みで資金を調達できている理由の1つは、より信頼できて確実な投資が存在しないからなのだ。金利が0%から2.5%へと向かうことは、この異常事態の終焉を自動的に意味する訳ではないが、ある程度は事態を落ち着かせるだろう。

暗号資産企業が、メインストリームのベンチャーキャピタルから多額の資本を集められる企業の仲間入りを果たしたのは、ほんの最近のことだ。そのため、このセクターの中でも規制を受けている部分が、広範な投資撤退から受ける影響がどれほど激しいものなのか、現時点でははっきりしない。コインベースのようなIPO(新規株式公開)は少なくなるかもしれない。

多くの暗号資産企業は、ビットコイン(BTC)とイーサ(ETH)が大幅に値下がりしている中でも、多額の資金を抱えている。例えば、2016年にICO(新規コイン公開)を実施したSingukarDTVが、3000万ドル相当の大量のETHを移動させたというニュースが、飛び込んできた。市場の厳しい時期を持ち堪えられるほどに大量のETHやBTCを保有する、古くからある暗号資産スタートアップは、彼らだけではない。

株式市場の値動きがもたらす影響

この状況の中、大きな未知の要因が、株式市場である。良かれ悪しかれ、FRBは30年近く一貫して、株式市場の価格を守るために動いてきた。それは本来、雇用とインフレの管理のみが対象であるFRBの任務には含まれない。

しかし、グリーンスパン元FRB議長は、緩和的な金融政策で資産価格を支えることを一貫して行ってきたため、その傾向は「グリーンスパン・プット」と呼ばれるようになったほどだ。

そのような方針は、長期的には不安定さとバブルを生み出す間違いであったことが分かったが、そのような考え方はいまだにFRBに生き残っているようだ。

FRBは短期的な資産価格に注目することを否定しているが、米国株式市場の最近の下落(S&P 500は1月はじめ以来7%以上値下がり)は、利上げにとって少なくとも障害のようなものになっているようだ。それでもFRBは、今のところは将来的な利上げを提案している。FRBにとっては長期的な信頼性が非常に大切であるため、本当に例外的な状況でしか、方針を転換しないだろう。

株式市場が継続的に激しく下落を続けることは、そのような例外的な状況の1つとなるかもしれない。実体経済がコロナウイルスによる打撃から回復する中、FRBがゼロ金利政策を続けることは、根本的に良くないアイディアだ。しかし、その可能性は完全には否定できない。パウエル議長がそうすると決断した場合には、バブル状態は始まりに過ぎない。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:ジェローム・パウエルFRB議長(Wikimedia Commons)
|原文:What Today’s Fed Decision Could Mean for Crypto