米証券取引委員会(SEC)と自主規制機関の金融取引業規制機構(FINRA)は、仮想通貨企業のブローカー・ディーラー申請を承認するには、いくつかの問題に対処する必要があると考えている。
7月8日の共同声明で、SECの取引市場部とFINRAの法務顧問室は、カストディを含め、デジタル資産を扱う企業によるブローカー・ディーラー申請を承認するか否かを決定する際に、当局が考慮するさまざまな要素について概説した。また、デジタル資産が1970年証券投資者保護法(SIPA)の下で有価証券として扱われるかを検討する際に考慮されるさまざまな要素にも触れた。
「現状、証券の喪失または盗難に関する法律や慣行は、一部のデジタル資産の場合、存在しない、もしくは有効ではないかもしれない。これらの法律や慣習を確立することで、ブローカー・ディーラーが顧客保護法の諸側面を遵守する能力は大いに促進される」と声明は述べている。
アメリカにおいて、ブローカー・ディーラーは、法的に登録され、規制された事業体であり、自身のためだけでなく、顧客のためにも証券を売買することができる。一部の企業は、デジタル資産を直接保有したり、購入したりできない機関投資家に販売するために、デジタル資産を証券として利用したいと考えている。
ブローカーは自身がウォレットの秘密鍵を所有していることは証明できるが、他者が所有していないことを証明するのは難しいと声明は述べている。
「第三者が秘密鍵のコピーを持っておらず、ブローカー・ディーラーの承諾なしにデジタル資産証券を移動できないことは、証明できないかもしれない」
この共同声明は、市場参加者からの質問に答えたものだと声明には記されている。
CoinDeskで以前報じたが、ブローカー・ディーラー認可を申請中の企業は、何カ月間も不確定の状態で待たされており、中には1年以上待っている企業もある。
これらの企業の多くは、SECがデジタル資産を扱う企業に対するブローカー・ディーラー認可への一時停止を課したと主張している。一方その他の企業は、単純に、仮想通貨ベースの証券が提起する新手の問題が、規制当局の精査を必要としているだけだと述べている。月曜日の共同声明は、後者の考えを裏付けるもののように見える。
直近では、仮想通貨取引所ジェミニ(Gemini)が、ブローカー・ディーラー認可を申請している。
投資家保護
秘密鍵問題はさておき、SECとFINRAは、デジタル資産がデジタル証券に課されたSIPA要件を満たさない可能性についても言及した。
SEC規則15c3-3には、「ブローカー・ディーラーには、顧客の全額支払済み、もしくは余剰の信用証券を物理的に保管するか、適切な管理場所に担保権なく保管することが求められる」と書かれている。一般的に、SIPAの要件に従って保管されている証券は、誤った取引や無許可の取引を取引前の状態に戻すか取り消すための保護手段が用意されており、実際の証券を第三者カストディアンに保管される。
しかし、デジタル資産に関しては、第三者カストディアンを利用することで、証券の盗難や紛失のリスクが高まる可能性がある。ブローカーは、証券が権限のないアドレスに移動された場合、トランザクションを巻き戻すことができないと声明は指摘しており、以下のように付け加えている。
「SIPAの『証券』の定義に合致しないデジタル資産証券の場合、かつ保管するブローカー・ディーラーに起因する失敗の場合、SIPA保護は適用されず、これらのデジタル資産証券の所有者は、ブローカー・ディーラーの資産に対して一般的な無担保債権しか持たないだろう」
その他の懸念事項は、記録管理と報告規則に関するものである。
具体的には、「分散型台帳技術(DLT)の性質、ならびにデジタル資産証券に関連する特徴は、ブローカー・ディーラーが、付属明細書を含む、規制帳簿、記録および財務諸表などのために、デジタル資産証券の存在を証明することを困難にする可能性がある」としている。
一部のデジタル資産企業は、記録保持要件に対応するための機能を備えた分散型台帳を使用することを計画している。しかし、これらの企業は、依然として、「DLTの性質が(報告規則に対する)コンプライアンス能力にどのような影響を与えるか考慮する」必要がある。
翻訳:新井朝子
編集:町田優太
写真:SEC image via Shutterstock
原文:SEC, FINRA Issue Explanation of Crypto Custodian Approval Delay