今回の「暗号資産の冬」を楽観視できる5つの理由【オピニオン】

新規コイン公開(ICO)バブルの後にトークン市場が急落した2018年、私は『Crypto Winter Is Here and We Only Have Ourselves to Blame(暗号資産の冬到来、私たちの自業自得)』と題した記事を投稿した。

その記事で私は、当時存在していた真の問題に、真の解決策を提供することよりも、暗号資産(仮想通貨)で素早くリッチになって、「ランボルギーニを買う」ことを優先させた暗号資産コミュニティの気質を批判した。

それから4年。暗号資産市場は再び、激しい下落に揺れている。しかし今回私は、業界を代表してそんな自虐的な記事を書きたいという衝動には駆られていない。

確かに昨年のブームは、ファンジブル(交換可能な)トークンも、ノン・ファンジブル・トークン(NFT)も含めた、多くのトークン価格を膨れ上がらせ、それと並んで、富を見せびらかすような悪趣味でミームも拡散された。(その中でも、「貧乏なままでいることを楽しめ」が最悪のものだったのは間違いない)

しかし、多くの点で、2018年の暴落に続いた開発や問題解決は、私たちに良い結果をもたらした。直近のブームの背後にある投機は、2017年よりもその基盤がしっかりとしていた、ということだ。

暗号資産は、技術的な能力の点でも、社会的な需要の点でも、メインストリーム定着にはまだほど遠い。しかし今では、「ベーパーウェア(企画・開発段階で発表されたが、実現していないサービスやソフトウェアなど)」はずっと少なくなった。

より「リアル」に確立され、長続きする印象を与えるようになった。世界を変容させるような何かを、本当に築いている感じがするのだ。だから今回の「暗号資産の冬」は、前回ほど過酷ではない気がしている。

と言うことで、(こんなことを言うのには常に危険がつきまとうのは分かっているが)「今回はこれまでと違う」と私が考える、5つの大きな理由を紹介しよう。

レイヤー2スケーリングシステム:もはやただのアイディアではない

低コストのビットコイン決済のためのライトニング・ネットワーク(Lightning Network)に、分散型金融(DeFi)アプリケーションを支えるZKロールアップ、安全なオンラインカストディを可能にするマルチパーティ計算など、ここ3年間で、暗号化技術はコンセプトから実装の段階へと進化した。

このようなイノベーションは、ブロックチェーンテクノロジーのメインストリーム普及に必要なネットワーク処理のスケーラビリティにつながるだろう。

これらの大半は、オンチェーンでの取引処理のために、重複した膨大な演算が必要になるという、マルチノードブロックチェーンの中核的問題に対処するレイヤー2ツールである。

一部の承認された参加者のみが取引を検証できる「許可型」ブロックチェーンに対して、分散型の代替オプションを提供し、効率性を高めるのだ。レイヤー2の仕組みでは、賢い暗号化技術を利用し、改ざんできないようなオフチェーンでの演算を可能にし、「非許可型」ブロックチェーンに結果をリンクした後に、分散型コンセンサスを弱めてしまうこともない。

イーサリアムの開発者たちがイーサリアム2.0への移行を完了させれば、スケーリングの面で、さらに大きな進展が見られるだろう。

非許可型が優勢に

前述のような技術的進展も一因となって、最近の暗号資産界でのサクセスストーリーは、既存のプレーヤーたちが好んでいた許可型プロジェクトよりも、あらゆる参加者に開かれた非許可型プロジェクトに集中している。

IBMによる、かつては優勢だった「エンタープライズブロックチェーン」サービスよりも、DeFi、NFT、自律分散型組織(DAO)の世界で利益が生まれているのだ。

ユーザーは、既存のビジネスモデルの漸進的な調整ではなく、ブロックチェーンテクノロジーが持つ、最もディスラプティブ(創造的破壊)で、パラダイムを変革させるような可能性に、価値を見出しているのだ。

このことは、大半のフィンテック的なアイディアが目指しているものよりも、インターネットが成し遂げたことにより近い、真に変革的な一連のイノベーションをブロックチェーンにもたらしてもらいたいという希望を反映している。

企業や金融機関の参加

非許可型暗号資産プロジェクトがより好まれているのは、暗号資産ネイティブの向こうみずな投資家たちの間だけではない。以前には、許可型エンタープライズブロックチェーンのターゲットであった既存の企業でも、非許可型が好まれているのだ。

何千ものメインストリーム企業、とりわけアディダスやワーナーブラザーズ、ニューヨーク・タイムズなど、エンターテイメント、ファッション、メディア業界の企業が、NFTやソーシャルトークンで実験を行なっている。

これが、暗号資産セクターの将来的成長について何を意味するかを象徴する出来事が、先週の業績発表で見られた。それぞれマイクロソフトとアップルのCEOであるサティア・ナデラ氏とティム・クック氏が、メタバースがもたらすチャンスに関心を示し、そこに力強く投資していくと誓ったのだ。

一方、機関投資家の多くが、ここ数週間でビットコインポジションを縮小させたことは間違いないが、ヘッジファンド、ファミリーオフィス、さらには年金基金の暗号資産との関わり合いは、昨年急増し、その中でも特に果敢な組織は、DeFiにも手を出した。

最近では多くの暗号資産を売却したかもしれないが、そのような投資を可能にするために、暗号資産テクノロジー、スタッフ、法的手続きのために投下された投資は、将来的な取引を扱うためのインフラ基盤として使える。機関投資家は、暗号資産から撤退する訳ではないのだ。

一般化を示唆する規制

暗号資産サービス提供業者に対する、過酷な申告義務という結果をもたらした、アメリカのインフラ投資法案について、暗号資産コミュニティは当然のことながら憤慨していたが、この法律は同時に、暗号資産業界に正当性ももたらした。

政府がある業界に課税したいということは、その業界を潰すことはない、ということでもある。この法案を修正しようとする動きに、超党派の幅広い支持が寄せられたことも、議員らが暗号資産についてより知識を持つようになったことを示すその他の兆候と並んで、希望の持てるものであった。

規制は依然として、イノベーションや普及、成長にとって障壁となり続けている。アンチマネーロンダリング関連のルールや、証券法など、とりわけ厄介なものはなおさらだ。しかし規制は同時に、業界を一般的なものとし、市民がより安心できるようにするための枠組みでもある。

すべてが暗号資産の責任ではない

2017年の狂ったようなトークン価格の高騰と、それに続く2018年の暴落は、暗号資産セクターに固有のものであった。ICOに対する投資家の熱狂と、お粗末なホワイトペーパーを元に何十億ドルもの資金を調達した創業者たちの、真価の問われていないアイディアへの盲目的な信頼に掻き立てられたのだ。その可能性についての疑念が膨らむと同時に、膨れ上がった価格は当然ながら萎んでしまった。

現在の状況は、かなり異なっている。新しいトークンに対する過剰な熱狂が、持続不可能な値上がりの一因となったが、暗号資産の時価総額の肥大は、中央銀行がパンデミックによる世界的不況の影響を緩和しようと、世界経済に対して何兆ドルもの資金を注ぎ込んだ、前例のない量的緩和政策にも支えられていた。

過剰なドル、ユーロ、円は、リスク資産である株式、コモディティ、不動産、芸術品、そして暗号資産に流れ込んだ。そして現在、当然ながら発生したインフレの問題によって、米連邦準備制度理事会(FRB)が資産購入のテーパリング(段階的縮小)を行う中、私たちはその代償を支払わされているのだ。

それも当然だ。暗号資産が株式やその他の資産と並んで値下がりしたことで、ビットコインは他の資産と相関関係のない、インフレに対するヘッジだという主張を疑問視する声が出ている。

しかし、暗号資産の値上がりの過剰な部分、つまりビットコインを1万ドルから3万ドルに押し上げた部分ではなく、3万ドルから6万5000ドルまで吊り上げた部分は、外因的な要素に起因するだろうと、私は考えている。

ひとたび価格が落ち着けば、暗号資産の将来的な躍進のどれほどが、1〜4にあげたような、暗号資産のみに関する真っ当な要因に引っ張られるもので、中央銀行の気前の良さに中毒になったグローバル金融システムの、リスクオン/リスクオフの気まぐれに巻き込まれる部分はどれほどかを測りやすくなるだろう。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:6 Reasons for Optimism This Crypto Winter