今週私は、イーサリアムに特化したカンファレンス「ETHDenver」に来ている。開催地はアメリカのコロラド州デンバーだ。
過去2年間、オフラインのカンファレンスがほとんど開かれてこなかったこともあり、ETHDenverに参加できることを心待ちにしていた。暗号資産(仮想通貨)業界は全体としてもこの間、開発エコシステムの最も重要な要素の1つをおおむね逃してきたということでもある。
カンファレンスの大切さ
対人でのカンファレンスに重要性があるというのは、一部の新規参入者にとっては驚きかもしれない。ブロックチェーンや暗号資産は結局のところ、インターネット上において匿名で、取引やコミュニケーション、競争の相手を信頼することなく物事を進められるというのが、要なのだから。
しかし、匿名性の影に隠れた犯罪者が逮捕されたり、NFTのラグプル(資金持ち逃げ)が発生したりと、ここ数週間だけでも、私たちはまだそのような境地には到達していないということが明らかになった。
暗号資産界で実際に何かを生み出そうとしている事業家、あるいは開発者であれば、他の人の怠惰さや無能さ、詐欺事件のとばっちりを受けてしまうことは、キャリア存続に関わる大問題だ。
そこで、1年を通じた各地でのカンファレンスによって、アバターだけではなく、互いの顔を知る開発者たちが織りなす結束の固いコミュニティを生み出すことが、重要となってくるのだ。
とりわけETHDenverは、過剰な盛り上がりや投機から、完全ではないが強力に守られたイベントだ。投機コイン狙いのトレーダーではなく、開発者や技術者、批評精神を持った人たちであふれている。
厳正な雰囲気がすべてから完全に守ってくれる訳ではないが、反社会的ではない人たちと交流できる可能性を高めてくれるのは間違いない。しかも驚くことに、無料なのだ。現地参加用のチケットは順番待ちだが、オンライン参加者の枠はまだ空いている。
もう1点重要なのは、ETHDenverのようなイベントは、オンラインのどこを探しても見つからないような技術的情報に出会える点だ。プレゼンや議論は主に、開発者間のもので、一般向けではない。
開発者ではない人たちはかなり頻繁に、何を言っているのか分からないような状況に置かれるが、注意深く聞けば、技術的な詳細をずっと正確につかめるようになるだろう。究極的に言ってしまえば、暗号資産の世界でテクノロジーを完全に理解できなければ、目隠しをしてダーツを投げているようなものだ。
主要トピック
大規模な暗号資産カンファレンスは、トランザクションブロックのようだ。何カ月(今回の場合には何年間)にわたって蓄積してきた重要なトピックに関する、無秩序なセンチメントや議論を、記録され記憶される大きなイベントへと集約するのだ。
今年のETHDenverで扱われる、主要トピックのいくつかを紹介しよう。
レイヤー2、マルチチェーン、ブリッジ
先日のブリッジプロトコル、ワームホール(Wormhole)へのハッキングでも浮き彫りになった通り、複数のレイヤー1ブロックチェーン(ビットコイン、ソラナ、アバランチなど)が安全かつ円滑にやり取りできる未来への道が開けるかどうかは、いまだに不透明だ。
この問題は、市場と開発に非常に大きな影響を及ぼす。ステージ上でも、雑談の場でも、大いに議論されることになるだろう。
イーサリアム2.0へのアップグレードとスケーリング
こちらは言うまでもない。イーサリアムネットワークを、ビットコインのようなプルーフ・オブ・ワーク(PoW)から、エネルギー負荷の少ないプルーフ・オブ・ステーク(PoS)へと移行させるという途方もない挑戦は、今年完了する見込みで、そのプロセスもかなり良く計画されている。
しかし、とりわけイーサリアム上で開発を行うプロジェクトがどのように適応していくかなどを含め、アップグレードが及ぼす影響について、詰めなければいけない事項は数多く存在する。
さらには、今のところ2023年の導入が予定されているシャーディングなど、ETH 2.0へのアップグレードもあるのだ。どれほどのスループットが確保されるのか?そして何よりも大切なことに、恐ろしい程高額の取引手数料(ガス代)は、どうなるのだろうか?
弱気相場と開発作業
最近では反発的な値動きもあったが、米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げは、暗号資産価格に本当に壊滅的な影響を与える可能性もある。それは、多くの暗号資産ビジネスやプロジェクトの強さや安定性に影響を与え、さらにはユーザー数の伸びも減速するかもしれない。
過去を振り返ると、値下がりの時は驚くほど意義のある時期でもあった。チームは世間の喧騒から解放され、自分たちの仕事に集中できたからだ。弱気相場の可能性をめぐって戦略を練る動きが出るのは間違いないだろう。そこにはおそらく初めて、スタートアップ間だけではなくDAO(自律分散型組織)間の買収や合併も含まれる可能性があるが、そうなれば興味深い展開となるはずだ。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock.com
|原文:ETHDenver Agenda: 3 Big Themes in 2022