セキュリティトークン、なぜ北米で普及拡大しない?

数カ月前には復活の兆しを見せていたセキュリティトークン(デジタル証券)だが、一部の期待を裏切り、広範な投資コミュニティでの受け入れは低迷しているようだ。

デジタルウォレットやスマートコントラクトといったブロックチェーン関連のコンセプトは、伝統的投資家や規制当局の間で容易に理解されるものではない。さらに、セキュリティトークンプラットフォームで提供されるトークンの質に対する信頼も不足している。

セキュリティトークンは、ブロックチェーンを使って、トークンという形でデジタル化された証券である。

アメリカの規制当局はすでに、民間企業が伝統的なIPO(新規株式公開)を行わずに、ブロックチェーンを使って資金調達のプロセスをデジタル化できるようにするフレームワークを提供している。

例えば、tゼロ(tZERO)、セキュリタイズ(Securitize)、テクスチャ・キャピタル(Texture Capital)といった企業が、セキュリティトークン取引をサポートしており、熟練した投資家ベースを抱えている。

しかし、一般の人たちに対してセキュリティトークンについて教育したり、トークンに関して透明性を維持することは、思ったよりも時間のかかるプロセスとなっているようだ。

「セキュリティトークンの普及は、予想されたよりもゆっくりとしたものとなっている」と、デジタルマーケットプレースを手がけるセキュリタイズ・マーケッツ(Securitize Markets)のCEO、スコット・ハリガン(Scott Harrigan)氏は指摘した。

それでも、広範な普及の可能性は存在している。ゴールドマン・サックスは、デジタル債券発行に対してセキュリティトークンがもたらす効率性を指摘。さらに米ステート・ストリートは12月、「あらゆる金融市場は、時代遅れにならないためにプロセスをデジタル化し、資産をトークン化する必要があるだろう」と主張した。

「投資家たちは、投資へのリターンに基づいて、個々の投資を評価している」と、デジタル証券の発行、管理を手がけるスタートアップ、ヴェルタロ(Vertalo)のCEO、デイブ・ヘンドリックス(Dave Hendricks)氏は語った。

しかし企業の「創業者たちは、セキュリティトークン発行によって、投資の基盤となる質よりも、証券の形態の方により興味を持つような投資家を集められると考えたようだ」と、ヘンドリックス氏は指摘した。

未公開市場を解き放つ

それでも、セキュリティトークンの分野への関心を高めている発行業者や投資家は確かに存在する。

ブロックチェーンテクノロジーを活用した投資商品を手がけるアルカ・ラボ(Arca Labs)の先月のレポートによれば、昨年7月に調査した100人の金融サービス専門家のうち71%が、デジタル証券への投資に関心を持っており、この先5〜10年以内に、大半の証券がデジタル化され、ブロックチェーン上で決済されると考えている。

投資家の大半、とりわけ個人投資家は、公開市場に比べて一段と多くの新しい資本が流入している未公開市場において、初期段階の掘り出し物に対する投資から締め出されていると感じている。流通市場での取引の大半は、保有期間の長いプライベートエクイティファンドが手がけているのだ。

理論的には、証券をトークン化することは、個人投資家が未公開投資商品にアクセスし、取引することをより簡単にできるはずだ。

未公開市場(上)と公開市場(下)の新規流入資本(左)と年間取引高(右)の比較
(未公開市場には公開市場の2倍の資本が流入しているが、
取引高は公開市場のわずか300分の1に留まっている)
出典:Securitize Markets

ファミリーオフィスや資産運用会社、その他適格投資家の信頼を獲得することは、簡単ではない。

テクスチャ・キャピタルのCEO、リチャード・ジョンソン(Richard Johnson)氏によれば、マーケットプレースはすばやく需要を増加させ、拡大する必要がある。「投資家の間には慎重さが見られ、彼らに対する教育が求められる。良質な投資である必要もあるのだ」と、ジョンソン氏は語った。

業界関係者によると、ブロックチェーンベースの代替的取引システム(ATS)は、透明性を高め、スピードを加速させ、取引コストを下げる。セキュリティトークンの目指すところは、流動性を持たない資産に流動性を与えることだが、それにはデジタル取引所で簡単に取引できるような、大量の買い手と売り手のプールが必要だ。

証券のグローバル市場においての目的

セキュリティトークン業界は、様々なイベントを通して普及の拡大を目指している。「勢いが増してきている」と、1月27日のアルカ・ラボ主催のデジタル証券イベントの場でハリガン氏は語り、「システムに対する信頼が増し始めている。流動性にとっては、これが鍵となる」と続けた。

「弊社は先日、S&Pと2つのインデックスファンドを立ち上げたが、より大規模な機関投資家が活用してくれている。最大の魅力は、デジタルウォレットに資産を保有できることで、それが投資家ベースを広げてくれる」とハリガン氏は語った。

イベントに参加した専門家らは、登録や規制遵守に関して厄介なハードルは存在するが、規制当局はセキュリティトークン業界により積極的に関与するようになってきていると指摘。

tゼロATS(tZERO ATS)のアレックス・ヴラスタキス(Alex Vlastakis)氏によれば、証券向けの代替的取引システムは、数十年にわたって存在してきた。

「何が新しくてエキサイティングかと言えば、(ブロックチェーンテクノロジーを使った)証券の取引と清算にまつわるイノベーションだ」とヴラスタキス氏は指摘する。

しかし、皆が確信を持っている訳ではない。「セキュリティトークンが、グローバルな証券市場においてどんな目的を果たすのか、どのような効率性をもたらすのか、はっきりしなくなっている」と、法律事務所PKA Lawは2020年2月、クライアントの代理として米証券取引委員会(SEC)に宛てた書簡の中で主張した。

「『セキュリティトークン』の導入と利用が市場参加者、取引所、カストディアン、清算会社、個人および機関投資家に必要以上の負担を生み出す」と、PKA Lawは指摘したのだ。

証券清算プロセスの改善

規制当局はブロックチェーンを完全に受け入れてはいないと、専門家は指摘する。

代替取引システムの世界では進展も見られるが、例えば一部のデジタル証券カストディアンはいまだに、ブロックチェーン上で透明性を持った所有権の記録が自動化されているにも関わらず、伝統的な帳簿記録を維持することを求められている。

規制のアップデートによって、代替的取引システムが「顧客に変わって、決済指示をカストディアンに直接伝える」ことが可能となったが、これは「デジタル証券をよりメインストリームな証券取引プロセスへと移行させるのに非常に大切なステップ」であると、デジタル資産投資を手がけるシンブリッジ・キャピタル(Symbridge Capital)のCEOショーン・ボウデン(Sean Bowden)氏は語った。同社は今年中に、デジタル資産取引所の立ち上げを計画しており、発行業者との交渉を進めている。

「業界の進化に伴い、最終的にはオンチェーン決済までたどり着くことを目指している」と、ボウデン氏は語った。

規制遵守のプロセスは、厄介なものとなり得る。アメリカでブローカー・ディーラーとして登録を完了させるのに、通常なら5〜12カ月かかるところ、テクスチャ・キャピタルが規制当局からの承認を受けるのには、18カ月もかかった。

この新興分野で居場所をめぐって競い合う企業は、不動産、マイニング、スポーツリーグにおける大規模で高品質な投資商品や、従業員所有の所有権をトークン化しようとする企業を惹きつけることに力を注いでいる。

「新たな市場の仕組みをゼロから作っているが、流動性を高めるためには、クリティカルマスに到達する必要がある」と、テクスチャ・キャピタルのジョンソンCEOは語った。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock.com
|原文:Why Investors Have Been Slow to Trust Security Tokens