ひとつのニュースやデータポイントからでも、暗号資産市場に関する有益な視点は得られるかもしれないが、単独では全体像を把握することはできない。当記事では、一見関連性のないように見える3つのニュースをつなげて、理解していきたいと思う。
アラジンの魔法のじゅうたん
CoinDeskでは先週、世界最大の資産運用会社、米ブラックロック(BlackRock)が、同社の統合投資管理プラットフォーム「アラジン(Aladdin)」を通じて、顧客に暗号資産取引サービス提供を計画している可能性を報じた。
これは、同社CEOのラリー・フィンク(Larry Fink)氏が7月に述べていたこととは相容れない動きだ。フィンク氏は、顧客からの暗号資産に対する「需要はほとんどない」と示唆していた。同社顧客には、年金基金や寄付基金、投資期間が果てしなく長いその他の保守的な資産が含まれていることを考えれば、これは驚くべきことでもなかった。
しかし、今回CoinDeskに情報を提供した関係者はこう語った。
「ブラックロックは、他の企業が享受している資金の流れを見て、自社でもそこから利益を上げたいと考え始めている」
それでも、アラジンの提供サービスがビットコイン(BTC)だけに留まらない様子であるのは、少し驚きだ。と言っても、ブラックロックが顧客に提供する暗号資産がどれになるのかは、まだ不透明な状況だ。
ビットコインは2020年、生命保険会社マスミューチュアル(MassMutual)が1億ドル相当の投資を行なった頃、暗号資産の「優良株」としての地位を固めていた。
暗号資産の合計時価総額がここ1年間で、1兆5000億ドル〜3兆ドルほどの範囲に落ち着いていることが、ブラックロックの心変わりを促したのかもしれない。投資会社ジャンプ・トレーディング(Jump Trading)が、9月に暗号資産に手を出したことが決め手となったのかもしれない。
Z世代の子供たちから、暗号資産についてしつこく聞かされた富裕層の親たちの数が、方針転換に十分な数に達したのかもしれない。とにかく、何がきっかけとなったかに関わらず、このニュースは、人々が思っているよりはるかに大きなものだと、私は考えている。
ブラックロックは、需要がないものを検討したりはしない。さらに、アラジンは最低20兆ドル相当の資産のバックオフィスを支えており、これは世界中の株式と債権の10%に相当する。そして何よりも、ブラックロックが「暗号資産は大丈夫だ」というメッセージを送ることの重大さは、無視できない。
投資家は独立して自分の判断を行なっていることは分かっているが、運用資産10兆ドルの巨大資産運用会社が自分の判断を裏付けてくれれば、心強いのは間違いない。
ビットコインはどこに向かっているのか?
取引所が保有するビットコインの数は、今年1月22日以降、連日減少している。暗号資産データを手がけるグラスノード(Glassnode)の週刊オンチェーン指標レポートで、私はこの点に興味を引かれた。
このようなことは、ビットコインのサイクルの中では見られるものだ。投資家の一部は時に、リスク回避のためにコインを売るので、取引所への流入数は急増することがある。別の時には、投資家が保有したいと考えるために、取引所から、より永続的なコールドストレージへの流出量が急増する。
今回、3週間にわたる取引所からのビットコイン流出が、ビットコインの3万3000ドルから4万5000ドルへの高騰期間と重なったことも、驚きではない。取引所が保有するビットコインがより少なければ、理論的には売り圧力が緩和されるからだ。
ビットコインを売っている人がいるのか?
もしいたとしても、上場企業でビットコインのマイニングを手がけるマラソン(Marathon)社ではないのは確かだ。少なくとも、マイナーがビットコインを売却しており、「暴落の心配なサイン」か、と報じたブルームバーグの記事に対する反応として同社が14日に投稿したツイートによれば、そうではないはずだ。
理論的には、マイナーはビットコインをマイニングして利益を上げ、即座に現地通貨に交換して経費を支払う。多くの場合、公共料金や家賃はビットコインで支払うことはできないからだ。しかし現実には、潤沢な資本を持った多くのマイナー企業は、経費支払いのために継続的にビットコインを売却する必要はない。
“We started #hodling in October 2020, and since then, we have not sold a single satoshi.” @charlieschu on $MARA‘s strategy to #HODL #Bitcoin https://t.co/odTNdc9tOb
— Marathon Digital Holdings (@MarathonDH) 2022年2月14日
「Marathon Digital Holdings:
2020年10月にホドル(長期的保有)を始め、それ以来、ビットコインを売却したことは1度もない。マラソン社のホドル戦略」
マラソンとは対照的に、多くのマイナーは、11月19日以降続いていた保有の後確かに、2月5日から先週末にかけてビットコインを売却している。しかし、このような状況を「心配な」と呼ぶのは間違いであるように思われる。
マイナーが保有するビットコインの純減が短期間あったとしても、それは熟練投資家を心配させるような価格の弱さと関連するようなものではない。おまけに、最後に長期的にマイナー保有ビットコインの純減が見られたのは2021年1月から3月にかけてであったが、この時期にはビットコイン価格は驚異的なパフォーマンスを見せ、初めて6万ドルにも到達した。
すべては精巧につながっている
これら3つのストーリーは、ゆるやかにつながっている。
ビットコイナーたちが、コードを使って金融システムを作り替えようとしており、その過程で開発者たちは、現状がどうしてそうなっているのかを学んでいる、と考えている人たちもいる。
私もその意見に部分的には同意するが、おおむね反対だ。ビットコインはまったく異種のもので、開発者たちが構築しているシステムは、独自カテゴリーに収まるものだ。だからこそ、ブラックロックがビットコインをはじめとする暗号資産に関与することも筋が通っているのだ。
マイナーはビットコインの営利的インフラである。彼らがいなければ、取引は実行されず、新しいコインは発行されない。しかし、ドル、イーサ(ETH)、ドージコイン(DOGE)などで価格が表示されるオーダーブックを扱うのは、マイナーではない。それは取引所、トレーダー、マーケットメーカーの仕事だ。
マイナーは経済に流通する通貨を生み出す点で、米連邦準備制度理事会(FRB)や財務省に当たると考える人もいるかもしれない。しかしマイナーは、取引決済を可能にするために、クレジットカード大手のビザにも例えられる。しかしその例えも、正確ではない。重要なのは、ビットコインは今ある分類には、完璧にフィットしないという点だ。
マイナーにまつわる付随的事業を行う企業には、暗号資産間での流通市場取引を扱う暗号資産取引所が含まれる。暗号資産はビットコイン、そしてその延長として、それ以降に生まれた無数のアルトコインにも相対的価値を与える点で重要だ。
資産運用会社としての役割において、ブラックロックは自社を、アメリカの通貨政策に力を与える国債取引を扱う重要な存在の1つと考えている。これは軽視されるべきではない、国際経済における大切な立場だ。
それでも、FRBに必要なように金融商品を動かす手助けをする以外にも、ブラックロックは企業や投資家の代わりに株式、コモディティ、不動産を売買するなど、利益を上げるための付随的な事業も行う。
しかしブラックロックは、FRBと経済機構にまつわる付随的企業という存在に過ぎない。たくさんの資本を抱えた付随的企業だ。暗号資産は、ブラックロックが今のところ利益を上げることのできていない、新しい資産クラスである。だからこそ、ビットコインを超えて進出を目論んでいるのだ。ブラックロックには暗号資産は必要ないが、今進出しておいて、損はないだろう。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Michael Vi / Shutterstock.com
|原文:BlackRock Has Entered the Chat