ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、アメリカはロシアのオリガルヒ(新興財閥)や政府関係者たちのオフショア資金を凍結し、グローバル金融システムを利用できないようにしようと動いている。
暗号資産(仮想通貨)が、個人や組織が取引を行うための代替手段となることも考えられるが、暗号資産テクノロジーに対するロシア政府の気乗りしない態度や、その他の要因によって、このような目的のための暗号資産の利用は限られるかもしれない。
ロシアは当初、プーチン大統領が21日に独立を承認したしたウクライナ東部のドネツクとルガンスクに「平和維持部隊」を送ると発表。これを受けて、アメリカ、カナダ、日本、EUや、その他多くの国々が、特定の個人や組織を対象に一連の制裁発動を表明した。
経済制裁によってアメリカやEUは、ロシアの政府関係者やオリガルヒが国際的な取引を行えないようにすることを目指した。
しかし、ロシアは24日、首都のキエフをはじめとするウクライナの複数の都市や軍事基地への攻撃を開始。アメリカのバイデン大統領はその後、ロシアのプーチン大統領がウクライナから手を引き、戦争行為を止めることを願って、ロシアに対する追加の制裁を発表した。
当初発表されていた制裁措置は、「ロシア最大規模の金融機関や国営企業に対して、圧倒的かつ即時的な打撃を与える」ためのものであると、国家安全保障担当副補佐官のダリープ・シン氏は語り、その内容は必要に応じて調整できるものだと説明した。
「ロシアへの対応の一環として、強力な輸出規制を課す準備もできている」とシン氏は述べた。「ロシアが必要としていて、アメリカや同盟国、パートナー以外からは手に入れることのできないものを、ロシアに与えない手段が経済制裁と輸出規制である。経済制裁はロシアへの外国資本の流入を、輸出規制はロシアが経済を多様化させ、航空宇宙、防衛、ハイテク分野におけるプーチン大統領の戦略的野望を果たすために欠かせない技術の流入を妨げるものである」
弁護士のアンドリュー・ジェイコブソン(Andrew Jacobson)氏は、VTB銀行、ロシア連邦貯蓄銀行、ガスプロムバンクといった、ロシア最大級の銀行を対象としたさらなる制裁が見込まれると語った。他にも、ロシアのエネルギーセクターや、ヨットなど海外に資産を持つオリガルヒを対象とした制裁が考えられる。
経済制裁を担当する米財務省外国資産管理局は、制裁対象リストに個人だけではなく船舶、組織なども掲載することができる。
オリガルヒに対する制裁には、オリガルヒの成人した子供や、ロシア国外にある全資産を対象としたものが含まれる可能性がある。オリガルヒは、プーチン大統領の権力基盤の鍵となる存在である。
「アメリカ企業が、コンプライアンスプログラムに制裁をどのように組み込むか、という点が最大のポイントとなると考えている」と、ジェイコブソン氏は語る。「この先、発せられる新しいルールを解読し、非常に複雑な所有権構造と、新しい規制がどのようにその所有権構造に適応されるかを理解するという、非常に困難な課題が待ち構えているだろう」
SWIFTへのアクセス
アメリカは今のところ、国際銀行間通信協会(SWIFT)の国際決済ネットワークからロシアを排除するところまでは踏み込んでいない。
SWIFTからロシアを排除した場合、ロシアと非ロシア系の金融機関との取引が困難になる。
これには前例がある。SWIFTは2012年、多くのイラン系銀行へのサービスを停止。イランが世界の他の地域との金融取引に参加できないようにした。当時イラン企業の経営者たちは、その動きが「自分たちの生活をさらに困難なものにする」と訴えていた。
シン氏は、SWIFTからロシアを排除することは最初の経済制裁には含まれないとコメントする。
「我が国と、同盟国やパートナーたちが足並みを揃えて取ることができ、(SWIFTからの排除と)同じような波及的影響をもたらさないような厳格な措置が他にもある。しかし我々は、常にそのようなオプションも視野に入れ、事態の進展とともに判断を調整していく」(シン氏)
イギリスのジョンソン首相は24日、主要7カ国(G7)の首脳会議を前に、SWIFTにロシアを排除するよう呼びかけた。
一方、ジェイコブソン氏は、現時点でSWIFTからの排除の可能性は低いと見ている。
「ロシアをSWIFTから排除することが、あまり効果をあげるとは思えない。SWIFTは単に、通信のためのシステムだ。短期的には不便を生じるが、長期的には、SWIFTから排除されたとしても、グローバル金融システム内でも、国内でも、機能するような方法を見つけるだろう」(ジェイコブソン氏)
暗号資産の役割
ロシアに対する経済制裁を回避するために暗号資産が使われるとする見方もあるが、ジェイコブソン氏は、その可能性も低いと考えている。
独裁政権としては、分散型資産を承認するのは困難だと感じるだろうし、とりわけロシアは、ビットコインが好きではないと、ジェイコブソン氏は指摘。さらにロシアの中央銀行は、1月下旬に暗号資産の禁止を提案したばかりだ。
「ロシアはおそらく、ビットコインや他の暗号資産を使って制裁を回避しようと考えているだろうが、その一方で、自国内で暗号資産があまりに人気を得ることも懸念している。そうなったら、自国通貨システムへの統制能力に影響が出て、権力にも影響が及ぶからだ」と、ジェイコブソン氏は分析する。
ブロックチェーン分析企業チェイナリシス(Chainalysis)のキャロリーン・マルコーム(Caroline Marcolm)氏によると、同社はここ数日、ロシアの暗号資産取引所からの変わった動きを観察してはいない。
特定の個人が暗号資産を頼ることにしたとしても、分散型資産を使って効果的に制裁を回避することができるのかは不透明だ。企業は制裁を受けたウォレットによる取引を監視したり、そのようなアドレスとのやり取りを完全に拒否する可能性もあるのだ。
「制裁に関して言えば、過去には、ウォレットアドレスが制裁対象となったこともあり、そうなればチェイナリシスとしては、政府系や民間の顧客に対して、アラートを発することができる」と、マルコーム氏は語り、次のように続けた。
「つまり、私たちの顧客が、制裁対象のウォレットと関わるような取引があれば、それが目に見えるようになっているし、即座にアラートを受け取ることもできるということだ」
暗号資産市場のモニタリングを手がけるソリダス・ラボ(Solidus Labs)のチェン・アラド(Chen Arad)氏は、政府はますます、「暗号資産を制御する」のに必要なツールを手にしていると語った。
制裁を迂回するツールとして話題に乗るということは、暗号資産が成熟してきたサインではあるが、暗号資産業界は同時に、金融規制当局が監視できる段階にまで進化してきてもいる、とアラド氏は指摘。
「規制当局はすでに、暗号資産を制御する方法があると認識できるほどの力をつけており、業界の方も、何らかの形で制御されるだろうと認識している」と、アラド氏は語った。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
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|原文:No, Crypto Won’t ‘Fix This’ for Russia