多くの開発者やホドラー(暗号資産の長期保有者)たちは2月、4日間の目まぐるしい日程で、イーサリアムに特化したカンファレンス「ETHDenver」の会場を動き回った。イーサリアム開発者たちが必死に開発を急ぐ、ウェブ3の未来を垣間見ようとしてのことだ。
新型コロナウイルスのパンデミック以来初となる、対面でのETHDenverとなった今年、多くの人たちが、業界の情報収集やパーティー、旧知の友人との再会や新たな人脈作りのために、アメリカのコロラド州デンバーに集まってきた。
そして1万2000人を超える参加者の中には、仕事を探しにきた人も。その正確な人数を割り出すことは難しいが、CoinDeskが取材したプロジェクトによると、求職者の数は明らかに足りなかったようだ。
世界でも最大のイーサリアム関連イベントである「ETHDenver」。今年のキャッチフレーズは「採用中」でも良かったほどだ。角を曲がれば、採用担当者が。ステッカーを手にすれば、QRコード化された採用情報が目に入った。
CoinDeskが取材した20名を超えるプロトコルの発起人や、製品マネージャー、エンジニアなどが、ブロックチェーン開発者に対する需要は、経験豊富で、ますます高給取りになっている開発者の需要をはるかに上回っていたと語った。
アメリカの様々な業界で問題となっている、パンデミック後の経済再開における人手不足が、イーサリアムの世界でも起こっているのだ。「大量自主退職時代」に力づけられた労働者たちが至るところで、存続を賭けた人材不足の企業に対して、給料の引き上げを要求している。
しかも暗号資産の世界のあらゆるところには、1000万ドル単位の資金が流れ込んでいる。金融の未来を売り歩くプロジェクトは、シードラウンドだけでも何百万ドルも集めることができる。
「とにかく資本が大量にある。皆が採用中で、皆が資金調達中だ」と、データオラクルサービスを手がけるUMAのエンジニア、ジョン・シュット(John Schutt)氏は語る。同社も、4人のエンジニアを募集中だ。
ベンチャーマネーが溢れる業界が、最も重要な職種である開発者のスポットを埋めるのに苦戦するというのは、奇妙に感じられるかもしれない。イーサリアムは、NFT(ノン・ファンジブル・トークン)やDeFi(分散型金融)といった数十億ドル規模の暗号資産分野の立役者なのであるから、なおさらだ。
問題の一端は、イーサリアムが新興のものであるという点にある。イーサリアムのスマートコントラクト、そして多くの分散型アプリ(Dapp)を支えるプログラム言語のソリディティ(Solidity)がデビューしたのは、わずか7年前のことだ。
開発者の増加
ベンチャーキャピタル企業のエレクトリック・キャピタル(Electric Capital)は、先日発表したレポートの中で、2021年12月にオープンソースの暗号資産やウェブ3プロジェクトにコードを提供していたアクティブな開発者は、月間1万8000人ほどいたと報告。
2021年のウェブ3開発者数の伸び率は記録的なものであったが、それでも数字自体は少ないものであったと、レポートは指摘している。
例えば、「1000人にも満たないフルタイムの開発者が、1000億ドル以上の資産が預け入れられたスマートコントラクトを担っている」と、エレクトリックは分析した。
開発者数の増加は確かに喜ばしいことだが、新しく入ってきた開発者は必ずしも、プロトコルが繊細な金融関連の開発を行うことを望むような、経験豊富な開発者ではない。
「ウェブ3関連の経験を持ちながら、仕事はしていない開発者を探すなんて、存在しないものを追い求めているようなものだ」と、2人のエンジニアを募集中の貸付プロトコルElementFiのミハイ・コスマ(Mihai Cosma)氏は語った。
ウェブ3業界のベテランたちは、伝統的な仕事の枠を超えた、利益を上げるためのチャンスをたくさん抱えているというのが問題の1つだと、7人のエンジニアを募集中の、ウェブ3インフラを手がけるブロックネイティブ(Blocknative)のCEO、マット・カトラー(Matt Cutler)氏は語った。
カトラー氏によれば、多くの「才能ある人材」は、自らの知識をデイトレーダーとして活用することを選び、採用ブームには加わっていない。
ベンチャーキャピタルからの圧力も、人材のプールを縮小させる。最も優秀な人材が、誰かのプロジェクトに加わるよりも、自らのプロジェクトをスタートさせてしまうのも当然だ。
「優れた採用候補は、同時に優れた投資対象でもある」と、UMAのシュット氏は指摘する。
さらにシュット氏は、創業者からエンジェル投資家への転向のトレンドにも気づいており、「多くの人が、そのような道のりをたどっている」と語る。
各社は、人材不足の穴を埋めるために、独創的な解決策を採用している。イーサリアム関連の開発を手がけるコンセンシス(ConsenSys)は、スマートコントラクト開発において進取の気性に富んだ開発者をトレーニングし、採用のために特に突出した人材を見極めるために、「ソリディティ・ブートキャンプ」を実施している。
ここから、「少数の」コンセンサスチームメンバーが生まれたと、同社のメイ・チャン(Mei Chan)氏は語った。
「常に学習曲線が存在する。ウェブ2の開発者を、一から英雄に育て上げるための素晴らしいシステムを用意した」と、こちらも独自トレーニングコースを展開するニア・プロトコル(Near Protocol)のオースティン・バッジオ(Austin Baggio)氏は説明する。
高騰する給与の実態
そのようなトレーニングには、需要が多く寄せられている。複数のプロジェクト創業者が、ウェブ2から、基本給が他とは比較にならないようなウェブ3への人材の「大移動」が起こっていると語った。
数人の創業者は、ソリディティ関連の若手開発者の年収は、15万ドル前後と語った。中堅レベルになれば、その倍も稼ぐ可能性があり、「大物」になれば、40万ドル以上を稼ぐことができる。匿名での取材を希望したある創業者は、開発者として70万ドル稼いでいる人がいると聞いたと語った。
しかし本当のチャンスは、トークン割当にあると、複数のプロジェクト担当者は語る。これは、ストックオプションの進化版のようなものだ。プロジェクトの方向性に対する発言権を与えてくれる、流動性があって、制限はゆるく、非常に魅力的な採用インセンティブである。
トークン割当は非常に重要であり、ある創業者は、次のようにアドバイスした。「トークン割当について確信が持てないなら、その仕事は断った方が良い」
開発者の中には、ウェブ2からの熱心な人材の流入を懐疑的に見ている人たちもいる。経験豊富な開発者なら、ソリディティを習得するのは簡単だ。しかし、分散型システム上での開発に不可欠な思考プロセスを極めるのは、まったく別次元の話だ。
「ソリディティでコーディングを行うことの重みを理解する開発者が不足している」と、暗号資産分野で長年開発を行なってきたアイザック・パトカ(Isaac Patka)氏は指摘する。
それでも、ベンチャーキャピタルからの資金が、アイディアに溢れた業界に絶え間なく流入しているということは、採用担当者は譲歩する以外に選択肢がない、ということを意味している。
「『開発者が必要です』というサインを持って立っていた方が良いかもしれない」と、金融メディアRaging Bullのジェイク・マッカーシー(Jake McCarthy)氏は語った。彼は開発者を募集して3カ月になるが、まだ成果は上がっていないようだ。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
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|原文:Plenty of Money and No One to Pay: Crypto Teams at ETHDenver Face Hiring Crunch