データの次は、プライバシーが新しい石油だ【オピニオン】

投資家は、個人のプライバシーを気にかけるべきだ。その唯一の理由が、市場にすでに影響を与えるトレンドになっているということだけであったとしても。

世界でも最も成功し、利益を上げ、影響力のある企業の一部が、明確なプライバシーの欠如のおかげで繁栄を収めているのは確かだ。その顕著な例が、グーグル(現アルファベット)とフェイスブック(現メタ・プラットフォームズ)である。

これらの企業は膨大な消費者データを利用し、必要もないものをユーザーが欲しくてたまらなくなるように誘導するために、ターゲティング広告を展開する。これが可能になったのは、消費者がプライバシーを放棄して、そのようなデータを提供していたからに他ならない。

しばらくの間、そのことを気にかける消費者はほとんどいなかったようで、市場はそのような企業に優しかった。フェイスブックは2012年、ナスダックにデビューを果たしたが、その時の時価総額は600億ドル。昨年8月には、その数字は1兆ドルを超えるところまで跳ね上がっていた。

グーグルも似たような軌跡を辿っている。2004年に時価総額230億ドルであったのが、昨年には2兆ドルをわずかに下回るところでピークに達した。どちらも、消費者のデータから収益を上げたのだ。

英誌「エコノミスト」は2017年、データは石油をしのぎ、世界で最も価値のある資源だと指摘。データサイエンティストたちの「データは新しい石油だ」というスローガンを思い起こさせた。

しかし、消費者たちは、自らの情報を吸い上げられるのを快く思わなくなってきている。その結果として、データの収集や利用がますます困難になっているのだ。

プライバシー重視の方へと、パラダイムはシフトしている。

プライバシーの復権

CoinDeskのコラムニスト、デビッド・Z・モリス(David Z. Morris)氏は先月、このパラダイムシフトに関する記事を書いている。そこからの引用を紹介しよう。

「『あなたの携帯電話が、あなたの通話内容を盗み聞きしている訳ではない』と、(活動家のヘイリー・)ツクヤマ氏は語り、次のように続けた。『しかし、何が恐ろしいかと言うと、(企業は)あなたの通話を盗み聞きする必要はないということだ。あなたが誰といつ交流しているのか、人材募集中なのかどうか、あなたの年齢といったあらゆる情報を、検索履歴から推測することができる。盗み聞きするまでもなく、知ることができるのだ』」

そこにアップルが登場し、昨年にはユーザーのプライバシー保護機能強化を宣伝した。簡単に言ってしまうと、アプリによるデータ追跡を許可するかどうかの決定権をユーザーに与えることで、アップルはアプリがデータ追跡を行うことを困難にしたのだ。

アプリとのデータ共有を通常は非許可にしているアンドロイドユーザーの私にとって、これは何でもないことのように思われた。しかし、その印象もメタのCEO、マーク・ザッカーバーグ氏の次の発言を聞くまでのことだった。

「アップルのiOSの変更とヨーロッパでの新たな規制に伴い、パーソナライズド広告を届けるのに利用できるデータの減少という、明らかなトレンドが見られる。(中略)そこで私たちは、成長を続け、高品質のパーソナライズド広告を届け続けるために、自社広告インフラの多くを再構築している」

この発言は、2月2日の収支報告で行われ、翌日には、メタの株価は26%値下がりした。プライバシー重視のトレンドによって、広告収益が落ち込むとの懸念が広がったことを要因の1つとして、世界で最も価値の高い企業の1つが、時価総額を何十億ドルも下げたのだ。

メタの株価推移(矢印の日が収支報告)
出典:TradingView、FactSet

アップルは、ユーザーがプライバシーを求めていることを知っている。創業者のスティーブ・ジョブズ氏とは異なり、現在のCEO、ティム・クック氏は、市場調査の価値を理解するビジネススクールの出身者だ。(ジョブズ氏は、アップルが提示するまで、消費者は自分が何を欲しがっているか分かっていないと考え、市場調査には頼らなかった)

ザッカーバーグ氏の発言が示すとおり、プライバシーの振り子は「すべて共有する」側から、「プライバシーを返せ」の方に向かっている。

暗号資産との関連は?

私は今、プライバシーに夢中だ。そして、暗号資産(仮想通貨)に簡単なプライバシー保護機能が欠如していることに困惑している。ビットコイン(BTC)も例外ではない。ピアツーピアのデジタルキャッシュとしてのビットコインにとって、プライバシーは中核的原則の1つであるにも関わらずだ。

新型コロナウイルス関連の規制に反対するデモ参加者への寄付に関連する暗号資産ウォレットの取引停止が要請されたカナダの件であれ、暗号資産取引所ビットフィネックスから盗まれた暗号資産をマネーロンダリングした罪で逮捕された夫婦の件であれ、暗号資産はプライバシーにはあまり強くない。とりわけ、暗号資産を実世界で使うために現金に換金する場合には。

投資家の視点から言うと、プライバシーを可能にするテクノロジーについて意義深い議論が交わされるべきだ。需要が十分にあれば、利益が生まれるからだ。

2019年、プライバシーやサイバーセキュリティ関連企業の株式による調達資金が100億ドル近くに迫るなど、プライバシーへの関心は目に見えるものとなっている。そして、今後もさらなる関心の高まりが見込まれる。

プライバシーやセキュリティ関連企業の調達資金額は2010年以降5倍に
出典:Crunchbase

それが意味するところは、「ビットコイン循環型経済」を可能にするためのビットコインインフラへの投資(プライバシーが最も犠牲になるのはオフランプであるため、循環型経済が実現すれば、プライバシーは改善するからだ)か、ジーキャッシュ(Zcash)やモネロ(Monero)のようなプライバシー重視型コイン開発への投資か、それともそれ以外の何かなのかは、投資家自身が決めることだ。

一言で言うならば、消費者がプライバシーを大切にしているのだから、投資家もプライバシーに関心を寄せるべきだ。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Forget Data – Privacy Is the New ‘New Oil’