自動車業界におけるブロックチェーン技術の利用を推進するコンソーシアム「モビ(MOBI)」と、クラウドコンピューティングの業界団体MEFとの間で実現したパートナーシップは一見、多額のお金が絡むブロックチェーンコンソーシアムによる戦略的な動きにしか見えないかもしれない。
「モビリティ・オープン・ブロックチェーン・イニシアチブ(Mobility Open Blockchain Initiative)」の頭文字をとったMOBIは、数年間にわたって、車両やモノのインターネット(IoT)のためのインフラ開発に力を入れてきており、自動車業界のメンバーという点では、国際的なGDPの大きな部分を占めている。一方、MEF(旧メトロ・イーサネット・フォーラム)は2001年に誕生し、世界最大級の電気通信企業も参加している。
ブロックチェーンベースの信用を土台に、分散型アイデンティティの検証と、車両や部品のデジタルツインを組み合わせた、モビのいわゆる「Integrated Trus Network:ITN」をスケーリングし、標準化することは、最も魅力的なユースケースにおいてブレークスルーを生み出している。地球を救うことだ。
デジタルツイン:物理的な「モノ」からIoTなどで収集した様々なデータを、デジタル空間上にコピーし、ツイン(双子)のように再現する技術。あらゆるシミュレーションを実施し、将来の事象を予測することに役立つと期待されている。
モビが提供する、ESG(環境、社会、ガバナンスの頭文字を取った略語)フレンドリーなユースケースの一例は、2億8000万台以上の登録車両からの排気ガスの追跡だ。こちらは、欧州委員会と共同のパイロットプログラムとして実施されたもので、欧州委員会はまもなく、報告書を発表する予定だ。
大気中の二酸化炭素排出量を正確に測定することは、難しいことで有名だ。2015年のパリ協定にちなんで、「Paris Conundrum(パリの難問)」とさえ呼ばれている。
ハイパーレジャー上で開発を始めたが、今では「ブロックチェーン中立」となったモビが証明した大切なポイントは、適度に大きな規模で正確に炭素排出量を測ることができると示したことだ。
「先進世界の大部分において、輸送が最大の二酸化炭素排出源となっている」と、モビのクリス・バリンガー(Chris Ballinger)氏は語り、次のように続けた。
「それでも、誰もそこに力を入れていない。あまりに分散しているからだ。正確に測定する方法がないのだ。MEFは、コネクティビティと、メッセージを送りあったり、取引や交換をする力をもたらしてくれる。モビは、分散型のアイテムやIoT向けに、識別子のついたモノの時間と空間における位置を特定する力をもたらしている」
デジタルツイン
モビ初となる、分散型識別子の標準規格「MOBI DID」は、車両のデジタルツインである。DIDは中央集権型のレジストリやアイデンティティ提供業者、証明書発行の力を持つ権威から切り離された方法で、検証可能なデジタルアイデンティティを実現する。
カーボンアカウンティング(炭素会計)のためには、多くの標準規格が存在しているが、その大半は、サイロ化され、一貫性のない方法で開発されていると、モビのトラム・ヴォー(Tram Vo)氏は説明する。
コンセンサス、変更不可能性、追跡機能といった大切な特徴を持ったブロックチェーンテクノロジーは、デジタルアイデンティティ規格と合わさって、しっかりとした基盤を提供してくれるのだ。
「つまり、ウェブ3コマースのためには、あらゆるものにデジタルツインが必要だ」と、ヴォー氏は語り、次のように続けた。「しかし、デジタルツインが信頼できるものになるためには、DIDと、検証されたクレデンシャルのエコシステムにつながっている必要がある。そうなれば、ビジネスが行える」
モビのシステムでは、データが共有、送信される2つのチャンネルも特徴だ。ITNに支えられたデジタルツインを表示するパブリックチャンネルと、スマートコントラクトによって可能になる事業の自動化が実現する、Citopiaと呼ばれるプライベートのコミュニケーションチャンネルの2つである。
従量課金制アプローチ
トラストレスなCitopiaのレイヤーでは、より環境に優しい行動にインセンティブを与えるために、検証可能なクレデンシャルの利用を検証していくと、ヴォー氏。これには、汚染や道路の渋滞などに対する従量課金制アプローチも含まれる
つまり、EGSの環境的な要素に取り組むことに加え、MOBIはG、つまりガバナンスの部分に対応する方法も検討しているということだと、バリンガー氏は説明する。
アイデンティティに接続された車両の位置だけではなく、電気自動車なのか、内燃機関式なのか、渋滞時に使われているのか、カープールに利用されているのか、さらには重量といった多くのデータを確認することが、今では可能となっている。
「27兆ドル規模の道路インフラがあるのに、そのための資金を調達する優れた方法は存在しない」と、バリンガー氏は語り、次のように続けた。
「従量課金制のアプローチは、まったく新しい公共インフラ資金調達の道を開く。私はそれが、ガソリン税に取って代わると確信している。道路の利用に対して料金を課し、インフラ赤字を解決する方法を皆が検討している。従量課金制アプローチは、完璧な解決策だ」
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Why MOBI Network’s Blockchain ESG Tests Matter