プーチン大統領率いるロシアは、ウクライナ侵攻に対する見返りとして、過去前例のないような一連の経済制裁にさらされている。これらの制裁は、国際的に結ばれた銀行システムに何十年も潜んでいた超大な力を、突如浮かび上がらせる形となった。同時に、その力の終焉と、それに代わるより断片化した何かの台頭を告げることにもなるだろう。
国際送金・決済システムのSWIFT(国際銀行間通信協会)やコルレス銀行、Apple Payといったシステムへのロシアの依存は、一元化された市場資本主義が世界を支配している現状の産物だ。
このような現状は、ソビエト崩壊によって訪れたと幅広く考えられていた、新自由主義的な「歴史の終わり」を象徴していた。しかし、現在起こっている金融の武器化以上に、歴史の終わりの終焉を告げるものはないのかもしれない。
ここ1週間でロシアに対して突きつけられている経済制裁は、ほぼすべての現代社会を構成している、国境を越え、複雑に入れ子のようになった相互依存の驚くような関係、そしてその究極的な脆弱性を証明してくれた。
一部のロシアの銀行は、国際送金にとって非常に重要なSWIFTから断絶されてしまった。ロシア最大手の銀行の1つ、ロシア貯蓄銀行の株価は、ロンドン証券取引所で95%も暴落。ロシアルーブルは、わずか1週間でドルに対してその価値を50%近くも下げ、これが短期的な値下がりだとしても、ロシア経済に長期的な打撃となるだろう。もちろんこの値下がりが、短期的なものに留まることはないはずだが。
貿易の規制も、同じくらい壊滅的な打撃を与えている。台湾は、ロシアへの半導体の輸出を停止すると表明。航空機部品の輸出禁止によって、おおむねボーイングとエアバスの飛行機からなるロシアへの民間航空機業界は、2〜3週間で完全に操業停止になると、業界関係者は予測している。
Apple Payをはじめとする消費者向け支払いサービスも一部のロシア人には利用不可能となっており、モスクワの地下鉄などにおいて、混乱を巻き起こした。
経済制裁の影響は、ロシア社会の中心部にまで達した。フランスの経済財務大臣が1日、「ロシア経済を崩壊させる」と宣言したのも、誇張ではなかったようだ。
これらはすべて、より長い歴史の文脈で考えられるべきだ。最近まで、このように一国の経済を追い詰めるチャンスは存在しなかったのだ。SWIFTが生まれたのは1978年。ほんの20世紀半ばまで、国際的な銀行システムには、定期的に船で大量の金(ゴールド)を輸送することが含まれていた。
外貨準備金の凍結
しかし、今回の制裁で際立つ要素は、ロシア中央銀行の外貨準備金の凍結である。これが可能になったのは、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの客員フェロー、オウスメン・マンデング(Ousmene Mandeng)氏が英誌「フィナンシャル・タイムズ」に説明した通り、「外貨準備金は中央銀行が保有しているのではなく」、世界中の他の銀行が保有しているからだ。「証券や通貨が動くことはなく、すべては外にあるのだ」
この凍結によって、最近では合計で6300億ドルを超えていたロシア中央銀行の準備金の半分が影響を受けた。米公共ラジオ局NPRによれば、このような大量の準備金は、ロシアに「制裁に対する耐久力をつける」ための長期的計画の一環だった。
このことは、プーチン大統領がグローバル金融システムの性質について、地政学的に大きな誤算をしていたことを示唆する。ロシアは、欧米の中央銀行が、ロシアのウクライナ侵攻後にも、ロシアの外貨準備金を尊重するよう信頼していたかのように振る舞った。そうであったなら、制裁を受けたとしても、何カ月もの間、ルーブルの価値をロシアが支え続けることができたはずだ。
ロシアはウクライナの主権と財産権を承認することを拒んでいるため、外貨準備金が凍結されたことに文句を言う根拠はほとんどない。しかし、今回の経済制裁は、グローバルな金融システムは中立的でルールを基盤としたものだという、幅広く受け入れられた想定を、永遠に弱めることにもなる。
歴史学者のアダム・トゥーズ(Adam Tooze)氏はニュースレター「Chartbook」の中で、「他国の中央銀行の(外貨準備金の凍結を)行うことは、主権の平等という想定と、財産権を尊重することに共通の利害があるという想定を破壊することになる」と主張した。
ブルームバーグのコラムニスト、マット・レヴァイン(Matt Levine)氏が指摘した通り、今回の経済制裁は、グローバル金融システムも通貨と同様、「あなたが何に値すると社会が考えるかを把握するための方法」であり、社会的構造物であるという事実を浮き彫りにした。
これは、多くのビットコイナーたちの原動力となっている「ハードカレンシー」への憧れを考えるのにぴったりだ。取引所を通じた売買を禁止するなど、国民国家がビットコインの動きを制限する方法はあるが、オンチェーンウォレットに保管されたビットコインは、現在ロシアに打撃を与えているような命令によって押収、凍結することはできない。
ビットコインは「デジタル無記名証券」と表現することができ、第三者やネットワーク外の仲介業者抜きで移動、売買、保管が可能なのだ。
このことは、「デジタルゴールド」としてビットコインを特徴づけることに、新しい奥深さを生む。ゴールドは常に、戦時やその他の混乱の時にとりわけ便利な資産であった。その価値が内在的なものと考えられているからだ。(ゴールドは2月、戦争が噂される中でも、10%近く値上がりした)
ビットコインはゴールドよりもはるかに移動させやすいが、デメリットもある。特に、ゴールドには履歴はないが、ビットコインの取引履歴は、ブロックチェーン上に記録されるのだ。そのことは、犯罪などに使われた「汚れた」コインでの取引に、深刻な問題を引き起こす可能性がある。そのようなコインは、国際的な嫌われ者の手を離れた後でも、主流取引所ではブラックリストに掲載される可能性があるからだ。
ビットコイナーの主張が証明された
それでも私たちは今、多くの人、特にビットコインに傾倒する人たちを、暗号資産に駆り立てている伝統的銀行システムに対する懐疑心の正しさが裏づけられるのを目の当たりにしている。性労働者からカナダのデモ参加者まで、あらゆる集団に対する小規模な経済制裁の例の積み重ねに、さらに大きな例で念押ししているかのようだ。
だからと言って、ビットコイナーが浮かれているわけではない。アメリカのインフラ不足を警告している人たちが、橋の崩壊を祝うべきではないのと同じことだ。
ビットコインは、中立的なグローバル決済システムがどのようなものになり得るかの有益な実例ではあるが、近い将来、大型国家が現状の銀行システムを離反するために、ビットコインやその他の暗号資産を使うことはないだろう。
むしろ、ロシアが中国の人民元と銀行インフラを使って取引を始めるとの見方が、金融の専門家の間では広まっている。ドルは現在、安全な避難先資産としてその価値を高めているが、ロシアが人民元を利用することになれば、現在進行中のドル覇権の衰退は大きく加速するかもしれない。
そうなれば、地政学的に均一と考えられてきた世界が再び二極化する方へと向かう、大きな一歩となるだろう。あるいは、新自由主義の普遍性という夢が、最初から単なる幻想に過ぎなかったということの証明となるだけかもしれない。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
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|原文:Bitcoiners Were Right: Weaponized Finance Just Created a Post-Dollar Planet