ビットコインがルーブル建てで急騰した本当の理由

ビットコイン(BTC)は2日、ルーブル(RUB)建てで最高値を更新。これは何を意味しているのだろうか?

異なる資産クラス間で単純に価格を比較しても、価格フィードが全体像を明らかにしてくれることはない。とりわけ、比較対象の通貨の1つが、ウクライナ侵攻に対して経済制裁に直面している国家によって発行されていて、もう一方はデジタル通貨である場合はなおさらだ。

ルーブル建てのビットコイン価格
出典:Bloomberg

米ドルとルーブルの価格を見てみると、事態の全貌がほとんど明らかになる。2月25日には1ドルが84ルーブルであったのに対し、3月1日には、114ドル以上となったのだ。そのような値下がりがあれば、ルーブル建ての多くの資産価格が、まもなく史上最高値を更新すると見込むのが妥当だ。

米ドル/ルーブル価格
出典:TradingView

「ルーブル建てのビットコイン価格」が37%ほど上昇したとしたら、ルーブルがドルに対して価値を37%も失ったことは、何らかの説明となるだろう(ビットコインにとって、最もよく使われる取引ペアはドルあるいはドル連動型ステーブルコインであることを考慮すれば、このように推定しても問題はないはずだ)

しかしそれでは、ビットコインがルーブルに対して55%も値上がりしたことを、直接説明することはできない。ビットコインの値上がりの幅が大きかったことは、何か別の需要要因が働いていたことを示唆している。さらに、ドル建てのビットコイン価格はいまだに、史上最高値より50%以上も低いのだ。

需要はどこから来ているのか?

暗号資産関連のどのようなツイッターをチェックしているか、暗号資産の歴史についてどれくらい知識があるか、政治的立場、一般的にどれほど皮肉な見方をするかに応じて、今起こっていることについて、以下の2つの仮説のどちらかを立てられるだろう。

1. 戦争を始めた超富裕なロシア人たちが、戦争継続のために資金を必要としており、制裁を回避するためにビットコインを使っている。

2. ロシアとウクライナの一般市民が、生活のためにお金を必要としている(あるいは資産を守りたがっている)ために、ビットコインに殺到している。

これら2つの仮説の中では、後者の方が可能性が高い。伝わってくる話は、国家が戦争を行う中、一般市民がビットコインに殺到している可能性を示唆する一方、ビットコインの透明性を持つ台帳は、プーチン政権の制裁回避には役立たないからだ。

このように仮説を立てるのは興味深いが、ビットコイン価格を吊り上げているのは、一般市民による需要ではないかもしれない。ビットコインは、グローバルな資産なのだから。

データが示すところを見てみよう。

データが伝えること

ルーブルとは異なり、ウクライナの通貨フリヴニャ(UAH)はドルに対してあまり値段を下げていない。しかし、デジタル資産のデータを提供するカイコー(Kaiko)によると、ビットコインはバイナンスのフリヴニャ市場において、ロシアによるウクライナ侵攻後、ドルに比べて6%割高で取引されている。つまり、需要が急増したことを示唆しているのだ。

矢印で示されたロシアによる侵攻以降、ウクライナ市場ではUAH建てのBTC価格が急騰
出典:Kaiko

さらにバイナンスからのデータは、BTC/RUBのペアの取引高が、30日移動平均と比べて、2月24日には400%以上、2月28日には240%以上急増したことを示している。

BTC/RUBペアのデイリー取引高
出典:Binance、TradingView

これら2つのデータを考慮すると、次に取引の増大が新規保有者なのか、そうでないのかを見極めるために、どのようなタイプのビットコイン保有者なのかを検討するのが理に適っているだろう。

デジタル資産投資を手がけるジェネシス・トレーデイング(Genesis Trading)のノエル・アチェソン(Noelle Acheson)氏は、先週のビットコインの動きをめぐって、優れたツイートを展開。長いスレッドだったので、ここでかいつまんで紹介しよう。

まず、1ドル以上保有しているビットコインアドレスの数を見る。2月27日から3月1日かけて、3456万4788から3503万5127へとの増加が見られる。

さらに掘り進めると、1000ビットコイン以上を保有しているアドレスの数も、同時期に2121から2257へと増加。全体的なアドレス数の増加は、一般市民がビットコインを買い始めているという仮説を裏づけるが、1000BTC(4000万ドル相当)以上を保有するアドレス数の増加は、そうではない。

1ドル相当以上のビットコインを保有するアドレス数の推移
出典:Glassnode
1000BTC以上を保有するアドレス数の推移
出典:Glassnode

さらに、深く掘り進めてみよう。ブロックチェーンデータ企業グラスノード(Glassnode)は、ビットコインを集めているウォレットをサイズ別に分類する「Wallet Cohort Trend Accumulation Score」という未公開の指標を開発中だ。2月27日付けの最新データによれば、小規模保有者たちが、最も積極的にビットコインを集めている。

サイズ別にアドレスのビットコイン買い集め傾向を示すデータ
出典:Glassnode

ということは、一般市民がビットコインを買っているということだ。しかし、より大規模なアドレス数の増加はどう説明するのだろう?アチェソン氏は、次のように指摘している。「これらアドレスが保有するBTCの合計数が減っているということは、取引所ウォレットによる再分配の可能性が高い」

対応するデータは以下で、この見方は、業界全体でおおむね裏づけられている。

1000BTC以上を保有するアドレスの数(黄)と
1000BTC以上を持つアドレスの保有するBTC数(青)
出典:Glassnode、Coin Metrics

これらすべては、ビットコイナーたちの主張を裏づける。つまり、ビットコインは(今のところ)、制裁を回避するために戦争屋によって使われているのではないのだ。戦火が拡大する中、資産を守ろうとする一般市民によって使われている可能性が高いのである。

しかし、皆の意見が一致している訳ではない。シティグループのアナリストは、ルーブルでのビットコイン購入が、約450BTCに増加していることを示すチャートを引用しながら、次のように主張している。

「ロシアでの取引高はこれまでのところ、比較的小規模であり、現在の値動きはむしろ、ロシアでの需要の増加よりも、ロシアからの需要の高まりを見込んだ投資家の動きによるところが大きいことを示唆している」

これは鋭い指摘だ。ウクライナ政府がエアドロップを発表した後、ウクライナへの寄付が急増したことからも分かるように、人々は悲劇を前にしても利益を上げたがるのだ。結局のところ、需要の高まりに備えて、トレーダーがポジション取りをしているだけ、という可能性もある。

時間が経てば、真相が分かるだろう。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Why Did Bitcoin Surge So Much Against the Ruble?