なぜ米ドル連動型ステーブルコインの金利は、実際のドルの金利よりもはるかに高いのだろうか? 1ドル相当のステーブルコインなら、1ドルと同じ金利、つまりほぼゼロになると考えるのが普通だろう。しかし、ステーブルコインの貸付(融資)金利を検索してみると、9〜13%、さらにはもっと高い数字になっている。
短絡的に考えると、高金利は、ステーブルコインの価値がドルから乖離してしまうリスクを埋め合わせするものかもしれない。しかし、USDコイン(USDC)やパックスドル(USDP)のようなステーブルコインは、高品質なドル資産に完全に裏付けられており、お金を失うリスクは少ない。
そう、ほかに理由がある。そこを探って行くと、ステーブルコインの使用目的にまつわる根本的な矛盾が浮かび上がる。
ドルの金利が低い理由は明白。米連邦準備理事会(FRB)はゼロ金利政策を実施しており、銀行は預金に対して利子を支払う理由はない。FRBは数兆ドルもの紙幣を増刷したため、需要をはるかに上回るドルが伝統的市場に流通している。ドルを欲しがる人がいないため、利子がつかないのだ(編集部注:当記事執筆後、FRBは金利を引き上げ、ゼロ金利政策を解除した)。
しかし、ステーブルコインは逆。ステーブルコインの需要は、常に供給を上回っている。そのため、貸付できるステーブルコインを保有する人たちは、高い金利を課すことができるし、ステーブルコインを必要としている暗号資産(仮想通貨)プラットフォームは、ステーブルコインの新しい貸し手を集めるために、高い金利を打ち出している。だからこそ、ステーブルコインの金利はここまで高くなっている。単純な経済の仕組みだ。
ステーブルコイン発行者が、需要を満たすために十分なステーブルコインを発行すると思うかもしれない。ステーブルコインの発行量に、ビットコインのような上限はない。ステーブルコインは、ボタンを押すだけで、何もないところから作り出すことができる。ステーブルコインは、暗号資産における量的緩和のようなものだ。
事実、ステーブルコイン発行者は、驚異的なスピードでスターブルコインを発行している。しかし、サークル(Circle)のCEO、ジェレミー・アレール(Jeremy Allaire)氏がUSDコインを何十億枚発行しても、金利は下がらない。市場は発行されたステーブルコインをすべて飲み込み、さらに多くを求めるだろう。これだけの需要は、どこから生まれているのか?
飽くなき需要の源は?
取引所
最も明らかな需要の出所は、暗号資産取引所だ。ステーブルコインは、暗号資産取引所にとって流動性の源泉となる。人々はステーブルコインを使って、素早く、簡単に暗号資産を取引でき、ステーブルコインは資産を失うリスクもない。
暗号資産取引の増加に伴って、ステーブルコイン需要も増加する。FTXのような成長を続ける取引所は、取引を維持するためにますます多くのステーブルコインによる流動性を必要としている。
ステーブルコインの流入がなければ、ステーブルコインでの取引を制限するか、需要が高まった際には、ステーブルコインの価値がドルから乖離することを許容するしかない。
ステーブルコインはまた、暗号資産のボラティリティが高い時に、投資家に「安全な避難先」を提供する。暗号資産価格の変動が激しく時には、ステーブルコイン需要が高くなり、ドルから乖離を押し進める傾向があり、ステーブルコインの目的が台無しになってしまう。
だから人々がリスクの高い暗号資産を手放し、USDコインなどの安全なステーブルコインを購入すると、アレールCEOはステーブルコインの発行を加速させる。
しかし、需要が高い時にステーブルコインの発行量を増やすことで、ドルとの連動を維持することはできるが、ステーブルコイン貸付の金利を下げることはできない。
この点で、ステーブルコイン発行者は中央銀行とは違う。中央銀行は、金利をコントロールしようとする。ステーブルコイン発行者は、交換レートをコントロールするだけだ。
DeFi
理由はほかにもある。分散型金融(DeFi)だ。
ドル連動型ステーブルコインは、DeFiの貸付(融資)、ステーキングプールにおいて担保として使われている。多くの人がDeFiに参入し、多くのプラットフォームが登場することに伴い、担保としてのステーブルコイン需要は飛躍的に増加している。
WebメディアのThe Blockは12月、ステーブルコインの発行量は1年で388%増加し、主な要因はDeFi需要だったと伝えた。このトレンドが継続すれば、担保としてのステーブルコイン需要は、取引所でのステーブルコインの利用を上回るかもしれない。
担保は定義上、流動性を持たない。つまり、ステーブルコインのダイ(DAI)を借りるときにUSDコインを担保とした場合、USDコインはダイの発行者、メーカーDAOの金庫にロックアップされ、流通していない状態になる。DeFiプラットフォームでガバナンストークンと引き換えにステーブルコインを担保とした場合も同様だ。
暗号資産業界のあらゆる場所に、ステーブルコインでいっぱいの金庫が存在する。DeFi需要が高まるにつれて、多くのステーブルコインは発行されるとすぐに金庫にロックアップされる。
その巨大なデリバティブのピラミッドを支えるために、DeFiがステーブルコインという流動性を吸い込む音が聞こえるようだ。アレールCEOがUSDコインを発行し続けなければならないことも不思議ではない。そうしなければ、流動性はますます希少になり、ステーブルコインはドルと乖離して、システムが凍りついてしまう。
再担保の復活
担保に流動性を持たせることはできる。他人の資産をリスクにさらすことを気にしないなら。
2000年代半ばに、同じように流動性を枯渇させるデリバティブのピラミッドを抱えていた伝統的金融システムは、担保の非流動性がピラミッドを崩壊させることを防ぐ、確実と思われる方法を発明した。再担保だ。
担保を金庫にロックアップする代わりに、貸し手は担保を貸し付け、担保に取った資産をまた貸し付け、その担保をまた…。貸付と再担保の二重スパイラルによって、デリバティブのピラミットは目もくらむような規模にまで拡大した。だが持続可能なものではなかった。2008年、ピラミッドは破滅的に崩壊した。
今、再担保は規制され、伝統的市場は中央銀行からの流動性の注入に依存するようになった。FRBは、流動性のポンプすら発明した。債券を担保に銀行にドルを貸し付け(常設のレポファシリティー:SRF)、さらに銀行以外の金融機関に債券を貸し出して、ドルを市場から吸収する(オーバーナイト・リバースレポ:ON RRP)という仕組みだ。
これは、金利のコントロールを維持するためのアイデア。FRBが金利を暴落させたり、ステーブルコインのような金利までドルの金利を上昇させるようなことは決してない。
暗号資産の世界は、中央銀行による市場への介入も、それを必要とするような規制も拒否している。そのため、当然ながら暗号資産の貸し手たちは、担保に流動性を持たせる方法を模索している。
そして知ってか知らずか、同じツールに手を伸ばしている。再担保の復活だ。セルシウス(Celsius)のような貸付プラットフォームは、ユーザーに高いリターンを提供するために再担保を使っている。セルシウスは、担保資産を「際限なく再担保」していると非難されているが、セルシウスは否定している。
現状、DeFiにおける再担保は取るに足らない規模だ。暗号資産における主要な交換手段を、貪欲なデリバティブのモンスターに差し出すことから生まれる流動性の欠如を緩和できる唯一の方法は、新しいステーブルコインを注入し続けること。それがサークルのアレールCEOが、発行を止めることはできない理由だ。
フランシス・コッポラ(Frances Coppola)氏は、銀行、金融、経済をテーマにしている。著書の『The Case for People’s Quantitative Easing』では、現代のお金の創出と量的緩和の機能を説明し、景気回復のための「ヘリコプターマネー」を提唱している。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Why Stablecoin Interest Rates Are So Damn High