暗号資産(仮想通貨)業界が、過去1年で私たちに教えてくれたことがあるだろう。
それは、JPEGの画像ファイルに無駄に高いお金を払ったことを証明してくれるコードを所有するのが大好きな人たちが、世の中にはたくさんいるということだ。NFT(ノン・ファンジブル・トークン)はまもなく、音楽の著作権や不動産、債権の取引にも使われるようになるだろう。
NFTと暗号資産の関係は不思議なものだ。親と子の関係のようでもある。NFT市場はまだ小さかった頃、価格変動に関して暗号資産市場に依存していたが、成熟するに伴って、独り立ちしつつある。
暗号資産市場が1月、スキーの滑降のような急落を見せた時、NFT市場は活況で、NFTマーケットプレースのOpenSeaでは、売上高が過去最高の50億ドルを記録した。
これを見て、暗号資産関係者の中には、暗号資産とNFT市場に逆の相関関係が生まれたと考える人もいた。つまり、ビットコイン(BTC) をはじめとする暗号資産市場が好調になると、NFT市場は低迷し、その逆も然りということだ。
一方、2つの市場が足並みを揃えた時、例えば、ロシアによるウクライナ侵攻で世界的に金融市場が暴落した時、NFT市場も同様に暴落した事例を指摘する人たちもいる。
ある程度の相関関係
NFTに関する専門的な研究は、まだあまり行われていない。何と言ってもわずか数年前には、市場のほとんどが存在していなかったのだから。そんな中でも、NFTを扱ったある研究論文がある。
ダブリン・シティ・ユニバーシティのマイケル・ダウリング(Michael Dowling)教授によるもので、「NFTの価格は、暗号資産によって動かされているのか?」というタイトルだ。
「NFT市場の積極的な参加者なら誰でも、暗号資産市場の参加者とNFT市場参加者が、大いに重なっていることに気づくだろう」と、指摘されている。
その一因は、NFTを買うためには、支払い手段として暗号資産を使う必要があるからで、それは多くの人にとって、複雑なプロセスではない。
しかし、大手暗号資産取引所のコインベースは、NFT市場参入をさらに簡単にしようと計画している。コインベースによる待望のNFT市場では、クレジットカードを使って法定通貨でNFTを買えるようになる。
イーベイ(eBay)やレディット(Reddit)、インスタグラムなども、NFTを組み込む計画をしており、そこでも法定通貨のオプションが用意される可能性が高い。そうなれば、NFT市場の暗号資産市場からの分離はさらに進むかもしれない。
しかし、それまでは2つの市場は関係を保ったままである。さらにNFTはこれからも常に、機能するためにイーサリアムやソラナなどのブロックチェーンを必要とする。
「結果からすぐに分かるのは、暗号資産に比べると、NFT市場から、そしてNFT市場への波及効果ははるかに少ない」と、論文の中でダウリング教授は指摘する。「さらに、NFT市場の中でも、波及は非常に限定的で、それぞれの市場が互いにかなり独立したものであることを示唆している」
ブロックチェーン・リサーチ・ラボ(Blockchain Research Lab)の昨年6月の研究も、ダウリング教授の見解と同様だ。
「暗号資産の値下がりは、購買力の低下を意味し、それはNFT市場を落ち込ませる可能性が高い」と、同研究は結論付けている。「逆に、暗号資産が値上がりすると、投資家は新しい投資のチャンスを探す傾向がある。これはとりわけ、NFTの取引で標準的に使われるETHの場合に当てはまる」
しかしどちらの研究も、2021年上半期、NFT市場が活況を呈する前に出されたものだ。逆に今年のデータは、あまり相関関係がないことを示唆している。
独立した市場?
コイン・メトリックス(Coin Metrics)が2月に発表したレポートは、イーサ価格とオープンシーでの売上高を見て、ETHの値上がりがNFTの売り上げ低下を招いたかを検証している。
「データを見ると、OpenSeaでの売上高とETH価格には一貫した相関関係はないように思われる」と、レポートは述べる。「NFTは比較的独立した市場であり、おおむね、暗号資産市場とは独立して動くようだ」
ダップレーダー(DappRadar)も同様に、NFTのマクロ要因に対する反応は、それ以外の暗号資産市場のものとは異なると結論づけている。
「NFTがメタバースとPlay-to-Earn(プレーして稼ぐ型)のナラティブで果たす紛れもない役割は主に、好ましくないマクロの指標にも関わらず、プラスのオンチェーン指標に貢献している」と、ダップレーダーは1月のレポートで指摘したのだ。
しかし、著名トレーダーの中には、NFTと暗号資産市場の間にパターンを認める人たちがいる。ビットコインとアルトコインの価格が下がると、資金がNFTへと流入すると主張しているのだ。
それは、トレーダーが利益を出すため、あるいはさらなるリターンを求めて別の市場に目をやっているか、あるいは市場の低迷時には、JPEGを取引することが、楽しい気晴らしになるからかもしれない。
デューン・アナリティクス(Dune Analytics)が提供する、オープンシーのデイリー売上高のデータを使うと、いわゆる2つの「NFT強気相場」を特定することができる。1つ目が始まったのは7月下旬。8月に勢いを増し、9月には低迷した。2つ目は11月中旬に始まり、2月1日にピークに達した。
NFTの売上高は、BTC価格が低迷していた7月に上昇を始めたが、8月にはBTC価格もNFT売上高も上昇。ビットコインは8月に76%値上がりし、NFTとともに9月には低迷した。つまり、明白な逆の相関関係が唯一見られたのは、11月〜2月にかけて、NFTの売上高が上昇したのに、BTCやアルトコインは値下がりした時だけなのだ。
曖昧な関係
パターンや相関関係を主張する可能性が最も高い人たちは、パターンを見極め、確信を持って行動をすることが仕事のトレーダーである点は興味深い。一方、アナリストや学者は、結論をそこまで信じ切ってはいない。
「暗号資産市場がそんなに関係しているとは思えない」と、ブロックチェーン・リサーチ・ラボのレナート・アンテ(Lennart Ante)氏は話す。「ビットコインが10%値下がりしたら、NFTを欲しがる人なんていない。人々はむしろ、ステーブルコインへと向かうだろう」と指摘した。
より明白なのは、NFTがまだ初期の頃、2021年3月前には、より広範な暗号資産市場から波及効果を受けていたということだ。しかし2021年後半にブームになった後は、NFT市場は異なる動きをしている。
それ以外の暗号資産が低迷する中でもNFT市場を持ち上げられるほどのバブルなのかもしれない。あるいは、成熟していくNFT市場が、暗号資産市場から離れ、独自の道を行くのを目の当たりにしているのかもしれない。
「1月のNFTブームは、ソーシャルメディアでの盛り上がりと、機会を逃すことへの恐怖によるものだった」とアンテ氏は述べる。「ブームはまだ続く可能性もある。どれほどビッグなものになるかは誰にも分からない」
NFT市場は、生みの親の暗号資産市場から離れていっているように見えるが、完全に自立している訳でもない。色々なことを試してみて、反抗的。自分の好きな方向へと突き進む。まるでティーンエージャーのように振る舞っているのだ。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:It’s Complicated: The Relationship Between Crypto and NFTs