ウェブ3プラットフォームがネイティブ人工知能(AI)を組み込むようになるのは、自然な成り行きだろう。
AIはあらゆるソフトウェアカテゴリーに影響を与え、ウェブ3も例外になるはずはない。しかし、ウェブ3スタック(ツール、アプリケーション、サービスなど)がAIテクノロジーを採用する場合には、根本的かつ技術的な障害が存在する。
私は以前、AIの手法が分散型金融(DeFi)やNFT(ノン・ファンジブル・トークン)に重要だと主張した。その明らかな価値を理解する以外にも、AIが近い将来にどのようにウェブ3の分野に進出できるのか、その実現を阻んでいる主要な障害は何であるかを見極めることが大切である。
「ソフトウェアが世界を侵食している」と、ベンチャーキャピタリストのマーク・アンドリーセン(Marc Andreessen)氏は2011年に語り、実世界で事業を行う企業が、デジタルの世界へと移行し、ソフトウェアがその土台となるだろうとの考えを披露した。
現在では、世界のソフトウェアの大半が、AI/MLをその中核的要素として書き直されていく迫り来るトレンドを指して、「機械学習(ML)がソフトウェアを侵食している」と言うことができるだろう。
ソフトウェアアプリケーションに共通する要素について考えみると、データベースやIDといった機能が浮かぶ。AI/MLモデルという形態でのインテリジェンスが着実に、最新のソフトウェアアプリケーションの基盤要素となりつつあるのだ。
最近では、クラウドコンピューティング、ネットワーキング、サイバーセキュリティをはじめとするソフトウェアのトレンドは、MLを第一級オブジェクトとして再考されている。
このような多くのソフトウェアトレンドの次世代バージョンが、ウェブ3となることを考えると、MLはウェブ3テクノロジーの進化において、基礎的な役割を果たす可能性が高い。MLとウェブ3の交わりについての主張を組み立てるには、ウェブ3スタックにおけるML機能の普及の軌道と、根本的な課題を理解することが必要だ。
ウェブ3インテリジェンスのレイヤー
ウェブ3へのMLの追加は、1つの不可分なトレンドとして起こることはないだろう。むしろ、ウェブ3スタックの様々なレイヤー全体に広がるはずだ。ML主導のインテリジェンスは、ウェブ3の3つの主要レイヤーで登場する可能性がある。
インテリジェント・ブロックチェーン
現在のブロックチェーンプラットフォームは、金融取引の分散型取引を可能にする分散型コンピューティングの要素開発に重点を置いている。コンセンサスメカニズム、メモリプール(ブロックチェーン上のブロックに格納する取引データを一時保管しておく場所のこと)ストラクチャ、オラクルは、そのような主要要素の一例である。
ネットワーキングやストレージなどの伝統的ソフトウェアインフラの中核的要素がインテリジェントになっているように、次世代のレイヤー1(ベース)とベース2(コンパニオン)ブロックチェーンは、ネイティブでMLベースの機能を組み込んでいくだろう。
例えば、取引のためにML予測を使い、大規模にスケール可能なコンセサスプロトコルを実現するための、ブロックチェーンランタイムなどが想定できる。
インテリジェント・プロトコル
ML機能を組み込み始めるウェブ3スタックの要素には、スマートコントラクトとプロトコルもある。DeFiがこのトレンドの典型例のようだ。
MLモデルを基盤としたインテリジェントなロジックを組み込んだDeFi自動マーケットメーカー(AMM)や貸付プロトコルを見るのも、それほど遠くない未来のことになるだろう。例えば、異なるタイプのウォレットからのローンのタイプのバランスを取るために、インテリジェントなスコアを利用する貸付プロトコルなどが想像できる。
インテリジェントDapp
分散型アプリケーション(Dapp)は、急速にMLベースの機能を追加する可能性の最も高いウェブ3ソリューションの1つになるだろう。すでにこのようなトレンドがNFTに見られるが、ますます広範に広がるはずだ。
次世代のNFTは、静止画像から、インテリジェントな行動をとる人工物へと移行することになる。そのようなNFTの一部は、見る側のムードや、新しいオーナーのプロフィールに応じて行動を変えることができるようになるのだ。
ボトムアップではなくトップダウン
ウェブ3インテリジェンスのレイヤーを検討する場合には、ボトムアップの普及トレンドが最も合理的だと、単純に想定してしまうかもしれない。ブロックチェーン・ランタイムがインテリジェントになり、そのインテリジェンスが、DeFiプロトコルやNFTなどのスタックの、より高次なレイヤーに影響を与えることができる。
それでも、ウェブ3スタックにおいて、ボトムアップではなく、トップダウンのMLテクノロジーの普及を余儀なくさせるような、深刻な技術的制約がある。
このような技術的障害の根源は、現在のブロックチェーンランタイムのアーキテクチャにたどることが出来る。原則的にブロックチェーンは、様々なノードを調整し、取引の処理に関するコンセンサスにつながるよう演算を実行するような分散型コンピューティングパラダイムを中心としてデザインされている。
そのようなアプローチは、主に中央集権型アーキテクチャ向けに作られた、トレーニングと最適化のための複雑で長時間のコンピュテーションを必要とする、最先端のMLモデルとは対照的だ。このような摩擦はつまり、ネイティブML機能をブロックチェーン・ランタイムに組み込むことは、ある程度の試行錯誤を必要とするということだ。
DeFiプロトコルは、既存のMLプラットフォームから完全に恩恵を受けることができるオラクルや、外部の知的エージェントなどに依存することが出来るため、ML機能を採用することに関する制約はより少ない。DappやNFTに関しては、制約は無いに等しい。
このことから、ウェブ3ソリューションへのML機能の導入はボトムアップではなく、Dappからプロトコル、ブロックチェーン・ランタイムへと、トップダウンのルートをたどる可能性が高いと私は考えている。
インテリジェントウェブ3はすでに登場している
SF作家のウィリアム・ギブソン(William Gibson)は、未来のテクノロジートレンドの軌道を説明するのに、「未来はすでにここにある。ただ単に均一に分散していないだけだ」と語った。この考えは、AIとウェブ3の交わりにもぴったり当てはまる。
ここ10年間のML研究とテクノロジーの急速な進化は、ウェブ3ソリューションにインテリジェント機能を加えるのに使うことのできる、圧倒的なほどの数のMLプラットフォーム、フレームワーク、APIを生み出した。
私たちはすでに、ウェブ3アプリケーション内のインテリジェンスの個別の例を目の当たりにしているため、インテリジェントウェブ3はすでにここに存在しており、ただ単に均一に分散していないだけだと言っても問題ないだろう。
ヘスース・ロドリゲス(Jesus Rodriguez)は、ブロックチェーンデータプラットフォーム、IntoTheBlockの共同創業者兼CTOである。Ai企業Invector Labsでチーフサイエンティストも務める。暗号資産やAIの分野で活発な投資、講演、執筆活動も行っている。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Web 3’s Use of AI Will Present Challenges, but They Are Not Insurmountable