「もううんざりだった」──政府と戦ったジョン・マカフィーの伝記

詐欺の容疑でアメリカへ送還されるのを待つ間、ジョン・マカフィー氏は昨年、スペインの刑務所で亡くなった。隣人を殺害した嫌疑をかけられた2012年に、ベリーズから国外逃走するなど、あらゆる意味でワイルドな人生を送った。

スコットランド人作家のマーク・エグリントン氏は、2019年から2020年にかけて、マカフィー氏を複数回にわたってインタビューした。サイバーセキュリティの先駆者から暗号資産(仮想通貨)の広告塔へと転身したマカフィー氏は当時、テネシー州で起訴陪審が招集されたのを受けて、ヨットでアメリカを逃れ、身を隠していた。

そこからマカフィー氏はバハマ、キューバ、そして最終的にドミニカ共和国まで逃亡し、そこから生まれ故郷のイギリスに向かった。ロンドンに到着後、姿を消していたが、スペインのバルセロナにあるビットコイン・ホテルと呼ばれる場所に身を隠していたことが後に判明した。

そしてスペインの地で、イスタンブール行きの飛行機に搭乗しようとしているところを逮捕されたのだ。

一連のインタビューは当初、マカフィー氏の自伝執筆のためのものであった。出版社が暗号資産での支払いを拒否すると、マカフィー氏は何時間にもおよぶインタビューにもとづいて、本を出版する許可をエグリントン氏に与えた。

こうして完成したのが、『No Domain: The John McAfee Tapes』と名付けられた伝記本。すでに映画化が決定している。エグリントン氏はマカフィー氏の精神に忠実にプラットフォーム「Canonic」を通じて、ビットコインSV(ビットコインのフォークであるビットコインキャッシュからさらにフォークしたネットワーク)ブロックチェーン上で、NFT(ノン・ファンジブル・トークン)込みでこの本の特別版を販売している。Amazonで通常版も入手可能だ。

その本からの抜粋を紹介しよう。

納税拒否

マーク・エグリントン氏:そもそもなぜ起訴陪審が招集されたのですか?

ジョン・マカフィー氏:2018年の終わり頃、起訴陪審の招集が予定されている2週間前に、2つの別々の情報源から招集について耳にした。米内国歳入庁(IRS)の名で、私、(妻の)ジャニス、4人の同胞が、詳細不明の税金詐欺容疑で告訴されたんだ。

起訴陪審が招集されるのは、重罪の場合のみであり、重罪とは、重大な懲役を伴う。しかし、これは予期できていたことだった。10年にわたって、税金を納めていなかったのだから。

──それはなぜですか?

もううんざりだったんだ。それまでに、所得税で5000万ドル支払ってきていて、もう十分だと思っていた。ベリーズに行ってから納税していなかったが、本当はアメリカ国民として、アメリカに居住せず、公共サービスや道路を利用していなくても、申告を行い、収入の30%をアメリカに収めなければならなかった。

そのような規定のある国は、世界で2カ国だけ。アメリカとエリトリアだ。ひどくおかしいだろう?私は「悪いが、こんなのはバカげている。もううんざりだ」と言って、それでしばらくは何も起こらなかった。

──そこからどんな変化があったのですか?

2017年、(アメリカの)大統領選に立候補した後、暗号資産について語るために、国際的な舞台に立つようになった。ストックホルム、ロンドン、バルセロナなど、招かれるところにはどこでも行き、同じことを繰り返し語った。

「暗号資産は、既存の通貨が私たちを押し込める牢獄から、私たちを解放してくれる」と。「なぜ政府が、私たちがどれだけ稼いでいるかを知る必要があるのだ?」とも、何度も問いかけた。

それから、(米)ドルや(英)ポンドなどがコントロールされていることを説明した。供給は操作でき、それが人々が苦労して稼いだお金の価値を下げること。そして、すべては中央銀行を通じて監視されることも。

アメリカにおいては、所得税が憲法違反であることも説明した。1913年に戦争資金とするために作られたが、その法令は必要性が無くなった後も、他の多くの法令と同様、決して廃止されることはなかったのだ。

──つまり、人々に税金を収めないよう勧めていたということですね。

税金は時に違法であるということを人々に伝えていたんだ。彼らが同じように違法、あるいは不当と感じたら、納税を止めるべきだろう。それだけではなく、税金を納めないでも捕まらない方法も伝えていた。

それが神経に障ったんだろう。それは予期していたことだ。ただ喋り立てるためだけにインタビューに応じているんじゃない。敵をつつき回すためにしているんだ。

それが私の性には合っていて、先住民のアパッチ族が、敵を殺すことができると分かっているのに、繰り返し棒で触ってから逃げる「カウンティングクー」と呼ばれる行為をするのと似ているんだ。つまり、敵を苛立たせているんだよ。しかし、つつき回し過ぎて、遂にバランスが傾いてしまった。

政府の真の顔を暴く

──注視されているという警告を受けていたんですか?

内国歳入庁(IRS)(と米証券取引委員会)が、アメリカで私が働いていた会社の記録の提出命令を出し始めた。それが、監視されているというサインだった。私のような状況に陥ったら、大半の人は、単に黙ってしまうだろう。私はむしろ、さらに大きく声を上げ始めたんだ。

人々が逃亡できないように、起訴陪審は意図的にトップシークレットとされている。しかし、私はジョン・マカフィーだ。私から秘密を隠しておくことはできない。とりわけ、アメリカ政府ならなおさらだ。別の情報源で検証された情報を手に入れて、その情報に基づいて、国外逃亡までどれくらいの時間があるかを割り出したんだ。

──逃亡していなかったとしたら、当局が自宅まで訪ねてきたはずだったのですか?

それは間違いない。急にやってきて、朝の6時に自宅で捕まえられ、おそらく死ぬまで投獄されていたはずだ。今こうやってあなたのインタビューを受けることもできなかったはずだし、メディアにも話をできなかったはずだ。今逃亡中だが、今まで以上に露出できている。できる限り、騒ぎ立て続けるようにしているんだ。

逃亡を始めてから、「SECは、アメリカという顔にできたうんざりするような吹き出物だ」といったツイートを公に投稿してきた。これ以上明からさまにアメリカ当局をつつき回す方法があるとは思えない。これが、私の役目なんだ。

私が何よりも求めているのは、政府が真の顔を見せることだ。政府も含めて、私たちは皆、偽りの顔を見せることができる。しかし、十分につつき回して、激しい反応を引き出せれば、世界に対して真の顔を見せることができる。それが、私がアメリカ政府に対してしようとしていることだ。

私に起こっていることが、誰にでも起こりうることを、世界の人たちに見て欲しいんだ。少なくとも私が戦いを続けなければ、20年もしたら皆に起こり得るんだから。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:ジョン・マカフィー氏(CoinDesk archives)
|原文:Why Did John McAfee Stop Paying Taxes? ‘I’d Just Had Enough’