ミームコインのギャンブル性と規制【オピニオン】

「ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)」誌は4月6日、ミームコイン取引に関して有益な特集記事を発表した。アカデミー賞授賞式でのウィル・スミスの平手打ち事件を受け、数日の間に登場、高騰、衰退した「ウィル・スミス・スラップ・イヌ(Will Smith slap inu)」と呼ばれるトークンに触発された記事である。

「ミームコイン」は通常、このように儚いニュースサイクルでひと儲けしようと、繰り返し生まれてくるコインのことだ。WSJはミームコイントレーディングを、広範な社会的意義が皆無、あるいはほとんどない高リスクの投資と、正しく紹介していた。

まず、プロのプライドから、指摘せずにはいられない点がある。暗号資産(仮想通貨)関連のニュースを求めてWSJを読んでいるとしたら、このストーリーは、1週間以上も遅れて届いたことになる。CoinDeskでは、ウィル・スミス・スラップ・イヌや同様のミームコインについて、3月28日には警告を発している。しかし公平を期して言うならば、ミームコインについての記事が、模造品なのも当然か。

ミームコイン取引の危険性

認めるべき功績を認めるとすれば、WSJは確かに、深みのある記事を展開している。とりわけ、ミームコイントレーダーに直接取材している点は評価できる。しかしその結論は、CoinDeskの先月の記事と同じもの。「(ミームコイントレーディングへの)参加は、実質的にギャンブルの一形態であると、ほぼすべてのアナリストの見解が一致した」と伝えている。

自ら自覚を持ってミームコイン取引に参加しているトレーダーたちは、時には1日以内という短期間のうちに、適切なタイミングで取引を開始、終了しようとしている。ミームコインの値上がりと、ほぼ避けられない値下がりの最後には、取引のタイミングを上手くはかり、利益を出したトレーダーと、損失を被ったそれ以外の人たちが残るのだ。

WSJの取材に応じたあるアナリストが言った通り、参加者間で富が移動するだけの「ゼロサムゲーム」に過ぎない。ミームコインはイノベーションをもたらすことはなく、真の有用性を持たないため、新しく富が創造されることはない。(かつてはミームベースであったが、実際の機能を開発しているように見える柴犬コインなどの場合には、この点がもう少し複雑だ)

暗号資産(仮想通貨)の分類においては、ミームコインは真のクズである。そのため、暗号資産や金融規制について考える場合には、とても有用となる。イエレン米財務長官は6日、暗号資産に関するバイデン政権の政策課題を説明。暗号資産向けのルールは、投資家を詐欺から保護することを優先するなど、伝統的金融システム向けのルールと似たものになるべきだと語った。

知識豊富な暗号資産関係者たちは、ミームコインは業界において面白いが、取るに足らないはずれ者だと、笑って済ましたくなるかもしれないが、ミームコインの大半は明らかに詐欺であり、あるいはこっそりと騙すことで、人々からお金を奪っている。一瞬で全財産を失ってしまうような、時間限定の「拡張現実カジノ」へのチケットを買ってしまったと、ミームコインを買う人の全員が知っている訳ではないのだ。

少しでも見識のある人なら、「ウィル・スミス・イヌ」が購入して長期保有しておくべき資産だと真剣に考える人がいるなんて、信じられないかもしれないが、人間の経験とは、豊かで多様なタペストリーだ。そのタペストリーの中にいる人たちの一部は、より擦り切れている。

つまり、より被害に遭いやすく、より自暴自棄的で、教育をそれほど受けていないのだ。そのような人たちのお金が、ミームコインの生みの親や、幸運で巧みなミームコイントレーダーの手に渡ってしまう。

社会全体への悪影響

そうなると、私たちは社会として、ギャンブルをしたいという衝動から人々を守る義務があるのか、という疑問が浮かんでくる。一見すると、「ノー」という答えが、いくつかの理由でもっともそうに思われる。

まず、自由の問題だ。自分が望むなら、無謀な投機に参加できるべきだ。ここはアメリカなのだから、という考えだ。

次に、より実質的な理由だが、少額の詐欺が起こる真に自由な市場は、無数の人々にとって、素晴らしい学びの場となる可能性があるのだ、という考えもある。

お金を失うことは、クリティカルシンキングスキルを磨くものであり、少なくとも人々は、自身に適切なリスクのレベルに合わせることができるようになる。

より長期的に見ると、一度は痛い目を見たが、今ではしっかりと情報を持ち、リスクを意識した投資家が存在する規制を受けない市場は、悪質な投資を警告してくれる中央集権的な規制当局に依存したものよりも、より力強いマクロ経済での結果をもたらすだろう、という考え方だ。

残念ながら、これは非現実的な考えだ。プライベートエクイティやヘッジファンドなど、規制のあまり及んでいない伝統的金融市場へのアクセスを持つ、洗練されたはずの「適格投資家」でさえも、安っぽい詐欺にお金を巻き上げられるのは日常茶飯事だ。

しっかりと分析すれば、規制を受けていない証券市場、とりわけ資産の発行に対するコントロールや、資産を偽って宣伝することに対する罰則の無い市場は、投機のフリをした盗難とも呼べる詐欺の温床と化すと、認めざるを得ないはずである。

さらにこれは、情報を持たなかったり、運の悪かった個人の損失以上の話である。より広範な社会的影響も考慮しなければならないのだ。伝統的なギャンブルは、中毒の問題を抱えた個人に壊滅的な影響を与えるだけではなく、社会全体にも打撃を与えることは、すでに分かっている。

研究によれば、ギャンブルが多く行われるほどに、公衆衛生やその他の面で社会全体にダメージが出ることが、ますます分かってきているのだ。ギャンブルをする人の問題行動や金銭的損失が、本人だけでなく、その家族やコミュニティにも悪影響を及ぼすからだ。

ミームコイントレーディングも、同じようなダメージを与える可能性が高いだろう。そうなると、その取り締まりは、個人の自由だけの問題ではなく、社会全体に与える影響の問題となる。

手っ取り早い規制対象

アメリカが、暗号資産規制のアプローチを発展させ続ける中、ミームコインは比較的対処の簡単な問題である。マイナーが金融エージェントであるかなど、新しいルールや明確性を必要とする問題もある。

しかし、証券を発行し、それを虚偽の前提のもとに宣伝することはすでに違法であり、既存のルールを使ってそのような証券の発行者を追及することは、イエレン財務長官の主張する「テクノロジー中立的」アプローチそのものだ。

ここで鍵となるのは、新しい技術面での制約、監視、その他前もっての制限よりも、ルールの執行に重きを置くことだ。真のイノベーションを守るために、これが大切である。

公然と行われる詐欺行為が、暗号資産業界、あるいは社会全体の改善に一役買うなどといった主張には無理がある。ウィル・スミス・スラップ・イヌなどの人を操るようなミームコインの発行者を発見して、罰を与えることは、必ずしも簡単ではないかもしれない。しかし、一般的投機家を本当に守りたければ、ミームコインこそが、規制当局者が重点を置くべき手の届きやすい標的なのだ。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Meme Coins, Gambling and Crypto Regulation