ミクシィのNFT戦略は日本のスポーツビジネスのグローバル化【木村社長】

世界中でWeb3へのシフトが進むなか、ミクシィがブロックチェーンを基盤技術にするNFTを活用した事業開発を急ピッチに進めている。同社の木村弘毅社長が狙うのは、日本全体におけるスポーツ事業の規模拡大と競争力強化だ。

ミクシィは、サッカーJリーグの全試合などを配信する動画ストリーミングのDAZNと共同でNFT事業を本格化させる一方で、GameFiの可能性を含めたゲーム経済圏の拡大を検討していく。木村社長がcoindesk JAPANの取材で明らかにした。

NFT(ノン・ファンジブル・トークン=非代替性トークン):ブロックチェーン上で発行される代替不可能なデジタルトークンで、アートやイラスト、写真、アニメ、ゲームなどのコンテンツの固有性や保有を証明することができるもので、NFTを利用した事業は世界的に拡大している。

Web3:Web3.0とも呼ばれ、ブロックチェーンなどのピアツーピア技術に基づく新しいインターネット構想で、Web2.0におけるデータの独占や改ざんの問題を解決する可能性があるとして注目されている。
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GameFi:ゲーム(Game)と金融(Finance)を掛け合わせた用語。特に、ゲームをプレイすることでトークンや金銭などを獲得できるものをPlay to Earn(プレー・ツー・アーン)と呼ぶ。東南アジアではゲームで得た収益で生活をするケースも出ている。

「確信に変わったのは、やはり北米で急成長したプロバスケットボールのNFTコンテンツ、NBA Top Shotだ」と木村氏。NFTとスポーツエンタメの相性の良さは、北米市場の動きを見れば明らかだ。ダッパーラボが開発したNFTサービス「NBA Top Shot」は、北米で大人気となり、売上高はサービス開始から約1年で8億ドル(約920億円)を超えた。

Top Shotの成功は各国のスポーツエンタメ業界において、同様のビジネスモデルの事業開発を試みる動きへとつながっている。日本でも、ミクシィとDAZNとのコラボレーションに加えて、メルカリとプロ野球のパシフィックリーグマーケティング(PLM)が、ダッパーラボが開発したブロックチェーンのFlowを基盤にNFT事業の開発を進めている。

NBA Top Shot:米プロバスケットボールのプレーのハイライトをコレクションするゲームで、スポーツNFTとして有名。運営会社は、カナダのダッパー・ラボ(Dapper Labs)。レブロン・ジェームズ選手が決めたダンクシュートのNFTには38万7000ドル、日本円にして4000万円以上の価格がついたことでも知られる。

DAZN、Dapper Labsとコラボした理由

Dapper Labsと業務提携を結んだミクシィは3月、ストリーミングサービスを手掛けるDAZNと共同で、スポーツNFTマーケットプレイス「DAZN MOMENTS」を開設した。チェーンの基盤は、当然、Flowだ。

イーサリアムを利用してdApps(分散型アプリ)を開発する動きが世界的に急拡大するなか、チェーン上の取引量は急増。その副作用として、取引処理スピードが低下し、取引手数料(ガス代)は高騰する、いわゆる「ガス代問題」が発生している。

ミクシィがFlowチェーンを採用した背景にも、当然、イーサリアムのガス代の問題がある。木村氏は、「NFTを売買するユーザーが増えれば増えるほど、NFTの資産性が高まっていく。スムーズに取引できる基盤環境は不可欠だ」と述べる。

一方、DAZNはJリーグの全試合を動画配信する権利などを取得しており、NFT事業開発においては、そのコンテンツ力が量と質の両面で大きな武器となる。国内プロバスケットボールチームの「千葉ジェッツふなばし」を所有するミクシィは、スポーツをコア事業の一つに位置づけている。

1試合で獲得する得点数が多いバスケットボールは、ダンクシュートやアリウープシュートなどの名場面をショート動画として切り抜き、NFT化するのに絶好のスポーツ。Top Shotが成功した大きな要因と言えるかもしれない。

ミクシィは、バスケットボールのほかにも、サッカーJ1のFC東京、競馬や競輪、オートレースなどの公営競技のアプリやポータルサイトを運営している。NFTでは、幅広い事業展開を模索している。

日本のスポーツを世界で拡大する意義

日本経済の今後の成長を考えるとき、スポーツエンターテインメント市場を国外にどう広げられるかが大きなカギとなるだろう。世界的な人気をおさめる欧米のプロサッカーや野球、バスケットボールに対して、日本のプロスポーツの魅力と競争力を高めることは大きな課題だ。

「日本のスポーツ財源をいかに作っていくかが、我々のテーマだ」と木村社長。「コロナはスポーツ界に大きな影響を与えた。存続と財源について、考えるきっかけになったのではないか」と話す。

スポーツ庁は、付加価値ベースのスポーツ経済規模であるスポーツGDPを算出している。2018年時点で約8.7兆円にのぼり、統計資料で確認できる7年間にわたって継続的に増加している。しかし、世界のトッププレイヤーが集まる国には及ばない。ジェトロによると、アメリカのスポーツ市場を「50兆円規模」としている。

最近では、日本で活躍したトップ選手が海外に出ていくことが当たり前になった。ただ、日本市場がグローバルでも魅力のある場に成長できれば、こうした考え方も変わってくるかもしれない。

暗号資産の存在とウォレット戦略

(ウォレットサービス「MIXI M」のロードマップ/ミクシィ提供)

NFT事業を拡大する上で、ユーザーがスムーズに決済できるツールの開発は、同事業を進める多くの企業が参入している。木村氏は、ミクシィの技術的な優位点として決済を挙げる。ウォレットサービス「MIXI M(旧6gram)」を展開し、今後、NFT ASSET管理機能の実装を予定している。

「現金や仮想通貨の決済から、ユーザー同士での送金まで、統合して使えるものを作ることが私たちの思想」(木村氏)というように、将来的には、暗号資産(仮想通貨)を扱える仕組みも検討しているようだ。

(2022年3月期 第2四半期 決算説明会資料より/ミクシィ提供)

Flowブロックチェーンのネイティブトークン(暗号資産)、Flow(FLOW)は日本で上場されていない。現在、ミクシィが運営するNFTマーケットプレイスでは、クレジットカードなどから決済プラットフォーム「MIXI M」にチャージした残高から支払う形だ。

暗号資産(仮想通貨)業界との関係では2021年9月、暗号資産交換業者のビットバンクと資本業務提携に合意。ミクシィは70億円を出資し、主要株主となった。Flowが国内の暗号資産取引所で上場される可能性について、「シナジーとして期待している」とコメントした。

ファンはなぜスポーツNFTを買うのか

そもそも、なぜ大勢のファンが高額なNFTに殺到するのか?

木村社長は「スポーツには強力な無形資産がある」と強調し、「記録と記憶」が大きな価値を産むと話す。

デジタル上のトレーディングカードともいわれるNFTが、「記憶」を価値に替える手段だという。紙のトレーディングカードは、年1、2回程度、パックとして販売されることが多い。一方で、NFTをはじめとしたデジタル商品では、スーパープレーがあった当日に販売する即時性があり、「記憶が新しいうちに商品化される」ことで購買意欲を掻き立てられる。

NFTは、一般的なデジタルゲーム内のトレーディングカードと比べ、確かな資産性が定義づけられている。紙のカードにあった資産性に加えて、スタジアムやテレビで見た印象的なシーンを、すぐに自分の所有物にできることが満足感を高める。

日本のスポーツ財源を増大させるアイデアを探るため、木村氏はスポーツベッティングにも注目している。昨年、早稲田大学大学院で「2018 年米国スポーツベッティング合法化後のDraftKings 社の成長の軌跡」と題した修士論文を執筆した。

打率や防御率などのスタッツ(統計)を見ながら、友人間で予想を話し合って楽しむ光景は古くからあった。こうした「記録」を興行に育てるためにベッティングという形で金銭的価値を創出できるという。

分散化するコミュニティ、共感を拡散できるコミュニケーション

従来は自らの経済圏にどれだけ囲い込むかが勝負だったが、今後は自分たちが制作したコンテンツIPを様々なプラットフォームで飛び回れる世界を作ることが重要だという。

「トレーディングされた収益がコンテンツホルダーに入っていく世界観であり、自分たちだけで牛耳ろうということはあってはいけない」。

NFTでは、「コミュニティ」という言葉がよく使われるが、木村社長は「正確性を欠いた表現だと思ってる」と述べる。コミュニティというのは対象に興味関心がある人達の閉じられた集団で、拡散性が低い。大きな広がりを得るためにはもっと拡散性を持つべきだとし、好きな人たちの間のみで取引されるだけでは一般層まで広がらないと指摘する。

今後、経済圏を広げていくためには、今は興味のない人も含めて指数関数的に広げていく必要があるという。これはミクシィが手掛けてきたソーシャルネットワークに近い思想だ。

同社は、社名ともなっているSNS「mixi」を2004年に開始した後、「モンスターストライク」を成功させてスマートフォンゲームに軸足を移した。コミュニケーションとゲームの双方にノウハウを有する企業だ。

ミクシィのパーパス(目的)は、「豊かなコミュニケーションを広げ、世界を幸せな驚きで包む」。NFTの取引規模を拡大させていくなかでも、コミュニケーションが重要になると読んでおり、「これはミクシィの出番」と自信を見せる。

Web3は限られた事業者による独占からの脱却や民主化を目指す思想であることから、「プラットフォーム色を強く打ち出すのは、イケてない」と木村氏は言う。「拡散性があって、コミュニティにとらわれず自由に動けることが、NFTの本質なのかなと思う」

「未開の地だから、日本はおもしろい」

Web3領域では、若い経営者が海外に流出するなど、日本の経済に対しては悲観的な見方も多い。木村社長は、「日本の未来に期待を持てるかどうかは、今に対してどれだけレバレッジを掛けられるかという肌感覚がないだけだ」と指摘し、「日本で頑張れば、大きな可能性がある」と希望を語る。

国内のビジネス環境は決して恵まれているとはいえない。世界中で取引が広がっているNFTだが、日本ではゲーム内のNFTは賭博罪に当たる懸念があるなど、自由にビジネスを進められる状況ではない。

「未開の地だから、日本は面白い」と、独自の観点を持つ木村社長。「様々な障壁もあるが、突破できると信じてアイデアを絞って行政ともきちんと対話し、今やれる範囲でサービスを磨いていく」と力強い。

|インタビュー・編集:佐藤茂、菊池友信
|フォトグラファー:多田圭佑