取引やユーザーに関する情報の匿名性を維持するプライバシートークンが、ここ30日間、値上がり傾向を見せている。暗号資産(仮想通貨)アナリストの中には、地政学的緊張をその理由に挙げる人たちもいる。
外国為替と暗号資産の分析を手がけるクオンタム・エコノミクス(Quantum Economics)の創業者マティ・グリーンスパン(Mati Greenspan)氏は、値上がり傾向は、経済制裁発動をめぐる憶測によるものかもしれないと指摘。
プライバシートークンは、誰が誰に送金をしたかを見極めるのが難しいため、ユーザーが資金の動きを追跡、監視されたくない場合には便利な盾となってくれるのだ。
「ロシアに対する経済制裁によって、ロシア国民が暗号資産を利用せざるを得なくなっていると考えることができる」と、グリーンスパン氏は語り、「ビットコインには十分な匿名性がないと考えた場合には、プライバシーをより重視したトークンを買うだろう」と指摘する。
暗号資産データサイトのメッサーリ(Messari)によると、時価総額でトップのプライバシートークン、モネロ(XMR)は、ここ30日間で35%値を上げた。一方、時価総額トップの暗号資産ビットコイン(BTC)の上昇幅は、同期間で6%にとどまった。
公式ウェブサイトでは、モネロは「マネーの秘密を守る、安全でプライベート、追跡不可能な暗号資産」と謳われている。取引高で世界最大の暗号資産取引所バイナンスは先週、同社プラットフォームで取引されるプライバシートークンのトップ10を掲載したブログ記事を投稿。モネロが1位であった。
暗号資産企業に対するバンキングサービスを手がけるBCBグループのラックス・ティアガラジャ(Lux Thiagarajah)氏によれば、ロシアによるウクライナ侵攻以来、モネロの魅力は増すばかりだ。
「世界中の人たちが、政府の監視下にある金融機関に保管されている限り、自分のお金でも、実際には自分のお金ではないという事実に気づき始めている」と、デジタル資産投資会社アーカ(Arca)の最高投資責任者ジェフ・ドーマン(Jeff Dorman)氏は語り、次のように説明した。
「良くてせいぜい、あなたに対して誰かが負っている債務で、あなたはそれを回収できるかもしれないし、できないかもしれない、といったところだ」
「そうなると、無記名資産として自ら保有できるステーブルコイン、ビットコイン、プライバシートークンにとっては追い風だ」と、ドーマン氏は付け加えた。
ウクライナ危機は暗号資産市場の動きを活発にしているのか?
EUは先日、匿名の暗号資産取引を禁止とする提案を賛成多数で可決した。この動きは、プライバシーの侵害であり、イノベーションを妨げるとして、暗号資産業界の多くの人に批判されている。
「プライバシーコインのナラティブ形成を助ける、2つの要素がある」と、暗号資産情報企業イントゥザブロック(IntoTheBlock)のアナリスト、ジュアン・ペリサー(Juan Pellicer)氏は指摘する。
「まず、アメリカやEUによる経済制裁を回避しようとするロシアの個人や組織が保有する暗号資産に対する、規制当局からの圧力。そして、中央集権型取引所から引き出されたコインの追跡可能性を改善しようとする、先日可決されたEUの法律だ」と説明した。
これまでのところ、ロシアとウクライナの戦争や、それに関連する制裁を原因として、暗号資産全体の使用が大きく増大したことを示すブロックチェーンデータは不十分だ。
ブロックチェーン分析企業クリスタル・ブロックチェーン(Crystal Blockchain)は、ロシアのルーブルとウクライナのフリヴニャを扱う主要暗号資産取引所のホットウォレットを監視したが、戦争や難民の移動に関連する大幅な変動は見られなかった。
暗号化されたメッセージ、暗号資産、分散型アプリケーション(Dapp)の送信を手がけるプラットフォーム、マスク・ネットワーク(Mask Network)のトークンMASKは、14%値上がり。時価総額7億5900万ドルを誇るプライバシートークンのディークレッド(DCR)も、ここ30日間で9%値上がりしている。
一部のプライバシートークンが値上がりしているもう1つの理由は、投資家が分散型金融(DeFi)といったセクターから、プライバシーコインへと資金を移動させているからかもしれないと、暗号資産インデックスプラットフォーム、フューチャー(Phuture)のチャールズ・ストーリー(Charles Storry)氏は指摘した。
ブロックチェーンデータ分析を手がけるデューン・アナリティクス(Dune Analytics)によると、主要DeFiアプリケーションのデイリーアクティブユーザー数は、軒並み減少している。このために、投資家は利益と成長を求めて、次なる投資先を探しているのだと、ストーリー氏は説明した。
「プライバシーコインは、適切な価値提案を伴った、次なる高成長セクターとなるかもしれない」と、ストーリー氏は指摘する。「プライバシーコインセクターにより多くの資金が流れ込んでいるということは、それらを手がけるプロトコルの時代遅れの部分を変えるような、新しい提案が増えることが見込まれていることを示唆しているのかもしれない」と説明した。
そんな中、値上がり傾向に乗れていないのが、ジーキャッシュ(ZEC)だ。時価総額で第2位につけているが、ここ30日で5%値下がりした。
「ジーキャッシュプロトコルは成功もあったが、トークン経済モデルが、保有者にその成功を還元できていない」とストーリー氏。「メイカーダオといった古株の暗号資産アプリケーションでは、新しいトークン経済の提案があり、変化が見られる。他のプライバシーコインでも、同様のことが起こると予測している」
そもそもプライバシートークンとは?
プライバシートークンは、テクノロジーやコンセプトの面で、他の暗号資産とは異なる。ビットコインと同じように、価値の保管手段として機能することを狙う、スマートコントラクト抜きのブロックチェーンもあれば、スマートコントラクトを重視し、一部では分散型金融に重点を置きつつ、よりプライベートなものもある。
メッサーリでは、22のプライバシートークンを掲載している。
イントゥザブロックのペリサー氏は、次のように説明している。「プライバシートークンは、デフォルトでアカウントやトークンの数を追跡できるようにしているか、していないかなど、プライバシーの捉え方において差がある。また、最先端のアルゴリズムなのか、十分にテストされたテクノロジーを使っているのかなど、採用する暗号化技術でも異なっている」
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Spread of Sanctions Makes Privacy Tokens the Hot Bet in Crypto Markets