ビートルズの「女神」パティ・ボイド、NFTで革命を再び

彼女はモデルで女優、アーティストにインスピレーションを与えるミューズ(女神)。そして、ミュージシャンで、ビートルズのメンバーの妻や恋人から成る「Fab Eight」のメンバーでもあった。

彼女のミニスカートは革命にインスピレーションを、優しい瞳は、フランク・シナトラが「過去50年で最高のラブソング」と呼んだバラードにインスピレーションを与えた。それはもう、50年以上も前のことだ。

写真を見せる新しい形

そんなパティ・ボイドは今、何をしているのだろうか?

NFT(ノン・ファンジブル・トークン)を作っているのだ。その長い足と隙間のある前歯を見せた笑顔が、1960年代のスタイルや上品さを強く思い起こさせてくれるパティ・ボイドは15日、自らの写真コレクションのNFTをオークションにかける。

これらの写真は、これまでにも公開されてきたものだ。サンフランシスコからダブリン、シドニー、カザフスタンまで、世界各地で開かれたボイド初となるギャラリーショー「Through the Eye of a Muse(ミューズの目を通して)」の一部だった写真もある。

最初の夫であるビートルズのジョージ・ハリソンや、2番目の夫エリック・クラプトンとの私的な生活を垣間見せてくれる写真たちだ。さらに、パティ・ボイドが世界初の「セルフィー」だったと呼ぶ写真も含まれており、これは彼女の写真の中でも最もよく売れたものだった。

「写真なしでは、自分が体験したことの半分も覚えていないと思う」と、パティ・ボイドはCoinDeskとのビデオインタビューで語った。彼女はイギリスにある、本がいっぱいの日当たりの良い部屋から、インタビューに応じてくれた。Web3・マーケティング代理店ゼブ・デジタル(Zebu Digital)のヘンリー・ハンキン(Henry Hankin)氏も、インタビューに参加した。

パティ・ボイドは、NFTを販売する初めての写真家や有名人ではない。アーティストにインスピレーションを与えたミューズが、その世界を垣間見れる写真を売りに出すのも彼女が初めてではない。しかし、彼女は、彼女と同じ世代のアーティストの大半と比べると、よりはやくNFTに注目した人物だ。

今回のNFTシリーズは、「新しい服を着せる」ようなもので、アーティストによる「回想」ではない、と彼女は語る。

「(NFTは写真を)見せる革新的な新しい方法で、まったく違うプラットフォーム」と、パティ・ボイドは語り、「普段、世界中で私の写真展に来る人たちとは違う、新しいタイプの人たちを惹きつけることができるかもしれない。それはとても素敵なことだ」と、続けた。

静止画像と動画のどちらも含む今回のNFTを購入した人たちはさらに、プリントされたバージョンと、パティ・ボイドが思い出を語る音声も受け取ることができる。かつてはフィルムベースであった画像に動きを加え、少し人間らしさを加える手法だ。

写真に対する彼女の個人的、そしてプロとしての関心は市場とともに移り変わり、今ではフィルムカメラはほとんど使っていない。「デジタルの方がずっと速いわ」と彼女は説明し、「このアート形態に関しては、今や3つ目のステップもあるの」と、NFTのことを指して語った。

60年代への回帰?

パリス・ヒルトンなどの有名人や、NFLプレイヤーのトム・ブレイディ選手などのトップアスリート、若手からベテランまで幅広いミュージシャンですでに賑わうNFTの急速に進化する世界は、パティ・ボイドの生きた60年代と重なるところがある。暗号資産はまた、詐欺師や嘘の約束によってイメージを傷つけられている業界でもある。

「パティが関わっているということで、OpenSea(オープンシー)に出品されているプロジェクトの90%を占める使い捨てのガラクタより優れたものであると、人々が理解してくれることを願っている」と、ハンキン氏は語った。

「私がティーンエイジャーから20代初めだった1960年代には、私たちはすべてを変えたがっていた。自由のために、自らの思想や信条のために、私たちは戦わなければならなかった」と、パティ・ボイドは振り返る。「その戦いから生まれたのが、映画、音楽、芸術、その他考えつくあらゆる分野における、最高に優れたクリエイティブな人たち」

暗号資産も、金融からインターネットの構造まで、あらゆるものを再構築しようとする革命のようなものだ。世界はまだ、それが一時的な成功に終わるかどうかを、見守っているところだ。

パティ・ボイドの世代は、保守的な社会規範を壊すのに大きな役割を果たしたが、その後に続いた個人主義の波は、なりふり構わずお金を稼ぐこと、プロ化、利己主義の文化に屈してしまった。つまり、ベビーブーム世代が、現在の若者が抑圧的と感じるシステムの多くを、築き上げたのだ。

「今、私たちは皆押し込められているように感じているの。口をつぐみ静かにして、謝るように言われているのです。生きていることに対して謝れとでも言われているかのように」と、パティ・ボイドは語る。「そして今、NFTに新しい自由があること、それはこれまでとまったく異なるものだということに気づいたの」

彼女と同世代の、自らの内的世界を探求していた人たちの多くが、私たちが知るような開かれたインターネットを築き上げていった。例えば、ジョン・ペリー・バーロウ氏は、グレイトフル・デッド(Grateful Dead)の楽曲の作詞を手がけ、初期のウェブ革命と現在の暗号資産支持者たちの基盤となっている文書を記した。

しかし、インターネットのオープンで自由なデザインは最終的に、少数の大企業に握られてしまった。広く開かれたワールド・ワイド・ウェブは「ウォールド・ガーデン」に取って代わられたのだ。暗号資産は本質的に、1960年代の自由奔放さと、そこから生まれたサイバーリバタリアニズムへの回帰なのだ。

少なくとも、そういうことになっている。しかし、同時に、トークンや夢などを売りつけてもいるのだ。ただし、パティ・ボイドは控えめだ。彼女の「小さなコレクション」は、「どのように楽しめるかを知るための、小さな招待状」なのだと、彼女は語った。

パティ・ボイドは再び革命に参加しているのかもしれないが、当時と今を直接比べることには抵抗があるようだ。

「あの頃はあの頃、今は今。けれど、何か新しいものが生まれてくるという、同じ感じがするの。それに触れてみたい。それが何なのかを、知りたいの」

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Recapturing the ‘Revolution’ With a Beatles Muse’s NFTs