ビットコイン(BTC)の対ドル相場は、タカ派のサプライズが相次ぎ、3月下旬から厳しい展開が続いている。一方、インフレ頭打ちの兆候を好感してリスク選好度も徐々にではあるが上向く兆しが出てきている。
FRBからこれ以上のタカ派サプライズが出なければ、上値が重くも底堅い推移を続けると見ている。下降トレンド突入の分水嶺となる絶対防衛ラインとして、1月安値(3.3万ドル)と2月安値(3.4万ドル)を基点とするチャネル下限を意識しておきたい。
年明けからの推移
1月から3月にかけて4.5万ドルを背にアセンディングトライアングルを形成すると、米金融政策の引き締め加速が懸念される中、3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で追加のタカ派サプライズが出なかったことが米株のアク抜け感に繋がり、連れ高となる格好で4万ドルを回復した。
米Cowenの暗号資産(仮想通貨)部門設立とBTC現物取引提供予定の発表、ゴールドマンサックスのBTCオプション取引、さらにBlackRockがウクライナショックによりデジタル通貨の普及が加速するとレポートで指摘したことなどを好感し、4.5万ドルのレジスタンス上抜けに成功した。
相場は、4万ドル以下で推移していた際に相応のショートポジションを蓄積していたこともあり、ブレイクアウト後は踏み上げ相場で上値を追う展開を繰り広げ、一気に200日移動平均線や節目の4.8万ドルが密集するエリアまで戻した。
インフレ影響により反落
しかし、同エリアが相場のレジスタンスとなり上昇一服感が生じると、2月の米個人消費支出(PCE)が前年同月比で6.4%と上振れたことで、米連邦準備制度理事会(FRB)の政策引き締めペースが加速するとの観測が強まり、BTC相場は反落。
そこに、ブレイナードFRB理事が「系統的な利上げ」と「前回よりも相応に急速なバランスシート縮小」を実施する意向を示したことに加え、3月のFOMCで、参加者の殆どが急速なバランスシート縮小に合意していたことが議事要旨から明らかとなった。
さらに、ハト派として知られるシカゴ地区連銀のエバンス総裁も、今後、50ベーシスポイント(bp)の利上げを行う妥当性を指摘したことで、4月の相場は安値を広げる展開を繰り広げ、4.5万ドルを再び割り込み、一時は心理的節目の4万ドルをも割り込んだ。
テーマはウクライナ情勢からインフレへ
この一月で市場のテーマはウクライナ情勢から、加速するインフレとそれに対応するFRBの金融政策に瞬く間に移り変わった。これも、ウクライナショックの影響で高騰したエネルギー価格が如実にインフレ指標に反映され始めたことで、インフレ加速に拍車が掛かっていることが大きな要因としてある。
特に、FRBがインフレ指標として用いるPCEの加速は、市場が織り込む向こう数年のインフレ期待に大きな影響を及ぼしており、ブレイーブンインフレ率(BEI)は先月末に発表された2月のPCE発表を境に頭打ちとなっている(第2図)。
期先10年債の名目金利と実質金利の差である10年物BEIは、最高値圏で未だ拮抗しているが、期近5年物BEIは強く押しており、より短期の市場のインフレ見通しが引き下がっていることを示唆している。
BEI自体は、インフレ指標、エネルギーやその他コモディティ価格、労働市場の状況など様々な要因で推移するが、インフレ指標の加速でBEIが反落するということは、それだけ5月FOMCでの50bp利上げとバランスシート縮小開始が警戒されている証だろう。
今後の焦点──相場は方向感に欠ける
よってこの先は、実際にインフレの加速が抑制されるか否かが一つの焦点と言えるが、そもそものコロナ禍での供給網の逼迫に加え、ロシア産エネルギーを断ち切ろうとする欧米の動きによるエネルギー供給不安定化懸念がこの先も燻っており、速やかなインフレ抑制は困難かと指摘される。
ただ、3月の米コアCPI(エネルギーと食品を除いた指数)が市場予想を下回ったことでインフレ頭打ちを指摘する声も散見される。高インフレに対して政策を後出ししているビハインド・ザ・カーブな現状が悪化する兆候があれば、BEIの反発も見込まれるが、インフレを巡る見通しは相応に悪そうだ。
以上に鑑みて、目先のBTC相場は中期的に方向感に欠ける展開を想定している。BEIは頭打ちとなっているものの、依然としてFRBの物価目標である2%を上回る高水準で推移している。
その傍らでインフレ頭打ちの兆候を好感してリスク選好度も徐々にではあるが上向く兆しが出てきており、FRBからこれ以上のタカ派サプライズが出なければ、上値が重くも底堅い推移を続けると見ている。
また、冒頭で触れたアセンディングトライアングルは、一時的な相場のブレイクアウトと反落を経て上昇チャネルへと変化しており、1月安値(3.3万ドル)と2月安値(3.4万ドル)を基点とするチャネル下限は、下降トレンド突入の分水嶺となる絶対防衛ラインとして意識しておきたい。
長谷川友哉:ビットバンク(bitbank)マーケット・アナリスト──英大学院修了後、金融機関出身者からなるベンチャーでFinTech業界と仮想通貨市場のアナリストとして従事。2019年よりビットバンク株式会社にてマーケットアナリスト。国内主要金融メディアへのコメント提供、海外メディアへの寄稿実績多数。
|編集・構成:菊池友信
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