「インフレ」とグーグル検索したら、「アメリカのインフレ率、3月は40年ぶりの高水準8.5%」といった見出しで、あらゆるメディアの記事が見つかるだろう。これは高い数字だ。
インフレとビットコイン
インフレの懸念が広がると、投資家は「リスクオフ」に走り、金(ゴールド)などのインフレヘッジとなる価値の保管手段としての資産に殺到する。ビットコイン(BTC)も、そのような資産であろうか?
もしそうならば、ビットコイン価格はなぜ、インフレ率のニュースが今月に発表された後、高騰しなかったのだろうか?ビットコインはインフレヘッジとしては優秀ではないのか?価値の保管手段になることはあるのだろうか?
その安定した通貨としての性質によって、ビットコインは有用なインフレヘッジと価値の保管手段になりやすいはずだが、完全に面目を失っている。なぜだろうか?
「価値の保管手段としてのビットコイン」というのは、どれほど野心的な考えなのだろうか?ビットコイン投資家は、窮地に追い込まれているのか?ビットコインはなぜ、テック企業株のような値動きを見せているのか?
その答えを、探っていこう。
主要経済理論は、3つの柱を基盤としている。「生産」、「通貨」、「期待」だ。経済を回す人や組織は、経済生産を増やし、自国通貨を他国通貨よりも強いものにしつつ、経済低迷を回避するために、将来への期待を管理したいと考えている。
これらのコンセプトの細部にまで踏み込む余裕はないのだが、通貨と期待、そしてアメリカでこれらを担当する組織であるFRB(米連邦準備制度理事会)に的を絞り、現在のインフレ問題とビットコインとつなげて考えてみよう。
FRBはアメリカにおける通貨政策に責任を負っており、「最大限の雇用、安定した価格、適度な長期金利」を確保しようとしている。FRBはこの目標達成のために、以下の3つの手段を持つ。
1. オープンな市場運営(つまり通貨発行)
2. 公定歩合(金利)
3. 準備資産要件(金庫預金ルール)
(国債などの購入によって)紙幣を増刷し、(銀行へのオーバーナイトでの貸付金利を変えることによって)金利を変ることは、ここ最近私たちが目の当たりにしてきた、FRBの主な手法だ。
そして今やFRBは、手一杯となっている。
「安定した価格」がFRBの目標であり、それは歴史的には、毎年2%のインフレ率目標を意味してきた。つまりFRBは毎年、モノの値段が2%ずつ上がることを望んでいるのだ。
4月前半に発表された3月の消費者物価指数は、前年比で8.5%と、40年ぶりの伸びを記録した。つまり、昨年10ドルだったものが、今では10.85ドルするのだ。これは望ましくない事態だ。さらに、前年比での消費者物価指数は、2021年3月以来毎月2%を超えている。インフレは明らかに、一時的なものではなさそうだ。
前例のない量的緩和政策とゼロ金利がその原因かもしれない、という話はここでは置いておこう。ここでは投資家が、ポートフォリオを守るために何をしているかに焦点を当てようと思う。
インフレ率が高く、経済に不透明感が漂う時、投資家はリスクオフを行い、「質への逃避」が見られる。市場心理がリスクオフへと傾くと、投資家はリスクの高いテック株を売り、国債や、本当にインフレを恐れている場合には、ゴールドのような安定した資産を購入する。
ゴールド2.0?
そして、ゴールドより良いものと言ったら、もちろんゴールド2.0と呼ばれるビットコインだ。インフレ率が高まっているのだから、皆がビットコインに殺到して、価格が殺到したはずだろう?しかしそうはならなかった。
なぜだ?ビットコインは安定した通貨のはずだろう?流通量が分かっていて、この先の発行スケジュールも設定されている、価値の保管手段のはずだろう?ビットコインは、その希少性が証明できるものではなかったのか?ビットコインの発行スケジュールは、需要が高まっても変わらないと思っていたのに。
それらはすべて、本当だ。ビットコインは供給量の上限と、予め定められた発行スケジュールを伴った、通貨ポリシーの知られたコインだ。フルノード(いくつかのソフトウェアを搭載した基本的なコンピューター)を持った人なら誰でも、現在流通しているビットコインがどれくらいあるのかが分かり、ビットコイン価格が明日100万ドルになったとしても、今日より発行スピードがはやまったりはしないのだ。
しかし、ひとつ見落としていることがある。
ナラティブだ。
60日間の相関関係を見てみると、ビットコイン価格は2022年の取引日のうち約50%において、ナスダックのテクノロジー株とある程度の相関関係(相関係数が0.20未満)を持っている。
投資家の見方
その理由は、おそらくとてもシンプルなものだ。ハードマネーとしての性質によって、ビットコインは支持者にとってはリスクオフ資産ということになっているが、投資家たちはそのボラティリティと、テック株と同様の非対称な値上がりの可能性から、リスクオン資産と見ているのだ。
投資家がリスクを回避したい場合には、株式と並んでビットコインも売却する。つまりビットコインは今のところ、リスクオフあるいはリスクオン資産としての地位が確定していないのだ。むしろ、「リスクオンオフ」資産と呼んでもいいかもしれない。
そのため、ビットコインは価値の保管手段志望資産と呼ぶのがより正確かもしれない。もちろん、ボーダーレスで非許可型、検閲不可能、予測可能な通貨ポリシーを持った、安価値の移動のための安定した通貨システムは理論的には、優れた価値の保管手段だ。しかし、そのナラティブが1億人以上に浸透するまでは、残りの78億人も、価値の保管手段として見ることはないだろう。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Is Bitcoin a Risk-On or a Risk-Off Asset? Maybe It’s Neither