暗号資産（仮想通貨）やブロックチェーン業界について、多くの人が大まかな思い込みのようなものを持っているが、その実態はどうなのだろうか？
暗号資産ユーザーの実態を知るために、私たちのマーケティング戦略プラットフォーム「アフィニオ（Affinio）」では、業界でも特に影響力のある暗号資産関連のアカウントをフォローする、60万人のアメリカ在住のツイッターユーザーを分析した。
この分析の目的は、単にユーザー層や、彼らの主張がどんなものかを見極めるためではなく、もっと具体的な疑問に対する答えを明らかにしようとするものだ。
暗号資産ユーザーは何が好きなのか？誰の声に耳を傾けているのか？彼らについて独特な要素は何か？中でも重要なのは、彼らの中に、どんなサブコミュニティが存在しているのか？という点だ。
2021年12月29日から2022年1月27日にかけてのツイッターを分析したところ、クリプトツイッター界に関するこれまでの想定のいくつかは正しいということが裏づけられた。それは例えば、男性が支配的であることや、イーロン・マスクへの関心など。一方で、スポーツとゲームが驚くほど強く好かれていることも判明した。
ツイッターの積極的、受動的ユーザーの行動、主張、好みなどを検討することで、クリプトツイッター界は一枚岩ではないことが分かった。暗号資産コミュニティには様々なグループが存在するのだ。
分析の一環として私たちは、アルゴリズムを活用し、分析対象グループの各個人がフォローしたり、関わっているアカウントを検証した。一部の人たちに共通するフォローパターンをアルゴリズムが検知すると、そのパターンはその一団にとっての「指紋」のようなものとなり、どの集団に属するかを示す識別子となる。
このようにして、分析対象グループをその好みに基づいて個々のグループに分割し、そのサブグループの議論を突き動かすトレンドや動きを見つけることが可能となった。
それぞれのサブグループは、政治、文化、暗号資産について、異なる関心を持っている。クリプトツイッターコミュニティは、高い多様性を維持しているのだ。
（濃青：政治ニュース中毒者、薄青：アメフトファン、ゲーマー、大学生、
濃橙：イーサリアム、ビットコイン、ウェブ3ファン、薄橙：ドージコイン、柴犬コインファン
濃緑：エアドロップファン、バイナンスユーザー、薄緑：ビジネス&金融系ビットコインユーザー、濃赤：NFTコレクター、カルダノトレーダー、薄赤：FOXニュース&トランプ支持者）
出典：NowVertical Group
男性優勢、ソーシャルメディアで情報収集
アメリカのクリプトツイッター界の大部分は、30代前半から半ばの男性で、ニューヨークと、ロサンゼルスをはじめとするカリフォルニア州の都市に多く在住。暗号資産投資家であるだけではなく、父や夫、エンジニアや起業家、ビジネスマンである男性は、分析対象グループの70%を占める。
彼らの暗号資産関連ニュースの入手先はユーチューブ、オープンシー、Crypto.com、ミィディアム（Medium）、レディット（Reddit）だ。彼らが関心を持つ分野のトップを占めるのは、金融、ポッドキャスト、車やeスポーツ。
そして大きな影響を与えているのは、テスラのイーロン・マスク氏や、元マイクロソフトのビル・ゲイツ氏など、トップクラスのテックCEOと並んで、暗号資産取引所シェイプシフト（ShapeShift）の創業者エリック・ボーヒーズ（Erik Voorhees）氏や、コインベースの共同創業者ブライアン・アームストロング氏などの有名な暗号資産起業家だ。
2人に続いて影響力が大きいのは、キャメロン・ウィンクルボス（Cameron Winklevoss）氏、アンドレアス・アントノプロス（Andereas Antonopoulos）氏、タイラー・ウィンクルボス（Tyler Winklevoss）氏、チャーリー・リー（Charlie Lee）氏、ロジャー・バー（Roger Ver）氏など、業界を代表するスターたちである。
このグループのメンバーはツイッターを使って、NFT（ノン・ファンジブル・トークン）、スポーツ、メタバースについて議論している。彼らが投資や取引に使うお気に入りのアプリはコインベースで、人気の企業はテスラ、ネットフリックス、アマゾン、プレイステーション、アップル、ウェンディーズ、ナイキなどである。
多くの人がスポーツの大ファン、ドージコインも人気
ツイッターユーザーの好みと関心をもとに、グループ分けを行った。アメリカンフットボールをはじめとしたスポーツファン、ゲーマー、大学生、音楽愛好家が、特に大きな集団（17%）を形成していた。
彼らは、スポーツニュースやイベントについて議論したり、スポーツ放送局アカウント向けにツイートしたり、NFLのミームをシェアするのが大好きな人たちだ。フォローする主なメディアアカウントは、SportsCenter、ESP、WorldstarHipHopである。
彼らのお気に入りのゲーム機は、プレイステーション。テスラ、ナイキ、ネットフリックスが人気企業だ。ジュエリー企業Icee Fresh Jewelsの創業者ベン・ボーラー（Ben Baller）氏と、スポーツアナリストのマイク・クレイ（Mike Clay）氏が大きな影響力を持っている。NBA、NFL、ファンタジースポーツへの情熱を通じて、つながっているコミュニティだ。
人気の暗号資産はドージコイン（DOGE）で、イーロン・マスク氏や、NBAスター選手のレブロン・ジェームズのアカウントよりも、関心を集めている。
イーサリアム、ビットコイン、Web3ファン
暗号資産関連の好みが一致する最大の小集団（14%）は、イーサリアム、ビットコイン、Web3ブームに重点を置いている。その大半が、サンフランシスコ、デンバー、マイアミ在住の36歳の男性。
「ビットコイン（BTC）」、「ブロックチェーン」、「暗号資産」といった単語を、ツイッタープロフィールに使っており、暗号資産投資への情熱がうかがえる。フォロワーに暗号資産投資のヒントを提供する人もいて、ウィル・クレメンテ（Will Clemene）氏やピーター・シフ（Peter Schiff）氏など、暗号資産アナリストや証券ブローカーをツイートの中でタグ付けすることが多い。
このグループは、ビットコイン、イーサリアム、ウェブ3に関連した幅広いトピックを議論するのにツイッターを利用。ニュースレターの中では、SubstackとBlock Cryptoが人気で、情報源として頻繁に利用されている。
彼らはCNN、Stockwits、CNBCの「Fast Money」と「Mad Money」といったメディアに関心を寄せており、彼らに人気の企業はアップル、アディダス、テスラなど。ローラ・シン（Laura Shin）氏やピーター・トッド（Peter Todd）氏をはじめとする、暗号資産ジャーナリストやブロガーが大きな影響力を持ち、暗号資産に関する教育コンテンツや報道が好まれる。
このコミュニティは、分析対象グループの中でも最も暗号資産について教育を受けたグループだ。多くのベンチャーキャピタリストやCEOをフォローしており、暗号資産を早期に受け入れた人たちの割合も高い。
クリプトツイッター界では、NFTや、あまりよく知られていないトークンにも関心が多く寄せられている。
クリプトツイッター界の13%はドージコインと柴犬コインファンで、バイナンスとエアドロップのファンが11%、NFTコレクターとカルダノ（ADA）トレーダーが11%を占める。
つまり、ビットコインとイーサリアム以外にも、多くの暗号資産ユーザーが存在しており、彼らはそれぞれ固有の関心を持っており、影響を受ける存在もそれぞれだ。
例えば、NFTコレクターとカルダノファンは、テックや暗号資産の世界のトップ企業やブランドにだけ影響を受けているわけではない。暗号資産業界に対するマーケティングを行う人たちは、ニッチな影響力を持つ人たちの力を、しっかりと認識する必要があるだろう。
政治ニュース中毒者
クリプトツイッター界の大きな部分（19%）は、マンハッタン、サンフランシスコ、シアトル在住の30代半ばの政治ニュース中毒者たちだ。彼ら自身の表現から、テックやソフトウェア業界で働く人たちであること、中には自らのテック企業を創業した人もいることが分かる。
この集団は、最新の政治、スポーツニュースを把握しており、人気メディアはCNBC、NBCニュース、ABCニュースだ。ソーシャルメディアで記事をシェアする時には、ESPN.comやガーディアン紙といったメディアから引用する傾向がある。
政治ニュース中毒者グループは、新しいテクノロジーやソフトウェア、暗号資産についての個人的意見を交換するためにツイッターを使い、ワードゲーム「Wordle」の結果を日々ツイートするのも好きだ。
政治活動家のジョン・クーパー（Jon Cooper）氏や、元NBA選手のレックス・チャップマン（Rex Chapman）氏をタグ付けしたり、メンションすることが多い。公共ラジオNPRや「Daily Show」のポッドキャストを定期的に聞いており、Ted Talkを観るのも好きである。
このグループに人気の企業はテスラ、マイクロソフト、アマゾンなど。ベンチャーキャピタル企業ヘイスタック（Haystack）のセミル・シャー（Semil Shah）氏や、Yコンビネータのマイケル・セイベル（Michael Seibel）氏、スラックのスチュワート・バターフィールド（Stewart Butterfield）氏が大きな影響力を持っている。
ベンチャーキャピタル企業グレイロック（Greylock）のジョッシュ・エルマン（Josh Elman）氏や、オンライン決済企業ストライプの共同創業者ジョン・コリソン（John Collison）氏など人物も強い影響力を持っている。
このコミュニティは、テックスタートアップとその創業者、ベンチャーキャピタリスト、アメリカの政治ニュースに対する情熱でつながっている。ベンチャーキャピタル企業ソーシャル・キャピタル（Social Capital）も人気だ。
右派メディアに対する関心の高さ
FOXニュース&トランプ元大統領ファン（分析対象の7%）の大半は39歳で、最も年長のサブグループとなっている。主な居住地はテキサス、ペンシルベニア、ミシガンの各州だ。
このグループは、バイデン大統領への嫌悪感を表すためにツイッターを利用し、右派ソーシャルメディアパーソナリティのマイク・セルノヴィッチ（Mike Cernovich）氏や、保守系ラジオトークショーのホスト、ジェシー・ケリー（Jesse Kelly）氏などを頻繁にタグ付けしている。
彼らの政治情報源は、Sean Hannity、The Conservative Briefなど、保守系メディアが大半を占める。
彼らに人気の企業は、銃器メーカーのスミス&ウェッソンや、ウェンディーズだ。このグループに影響を与えているニッチな人物は、弁護士のロン・コールマン（Ron Coleman）氏や、心理学者のロバート・エプスタイン（Robert Epstein）博士。
Foxニュースのキャスター、タッカー・カールソン（Tucker Carlson）氏や、政治評論家のベン・シャピーロ（Ben Shapiro）氏が人気で、トークショーやポッドキャストに高い関心が寄せられている。
クリプトツイッター界は多様
単独唯一の典型的クリプトユーザーといったものは存在せず、暗号資産という共通点を超えて、様々な関心を持ったグループがいる。よりテック寄りの人もいれば、金融の方に興味が傾いている人も。スポーツやアートへ関心を寄せる人もいる。情報源として頼りにしているメディアやインフルエンサーも様々で、お気に入りの企業も異なっている。
一枚岩の暗号資産ファンコミュニティというコンセプトは時代遅れだ。ツイッターでの話題に加わりたいと願う組織が、意味のある存在でい続ける唯一の方法は、これらのサブグループについてより良く理解するための時間をとり、コンテンツを彼らに合ったものへと調整し、意義あるパートナーシップを検討することだ。
リアン・コクラン（Leanne Cochrane）氏は、NowVertical Group傘下のマーケティング戦略プラットフォーム、アフィニオのプロダクトマネジメント担当副社長。過去6年間にわたり、グローバルブランドが顧客ターゲット層をより良く理解するサポートをしてきた。アフィニオの前には、様々な企業やスタートアップにおいて、プロダクト関連の役職を務めてきた。
｜翻訳・編集：山口晶子、佐藤茂
｜画像：Worawee Meepian / Shutterstock.com
｜原文：6 Things You Should Know About Crypto Twitter
