パラダイムシフトの中でも「誰一人、取り残さない」 LINEが描くWeb3の未来
※2023/05/25にLINKからFINSHIA・FINSHIA支払いに名称変更しております。
ブロックチェーン技術によって到来しつつあるWeb3の世界。そこでは「ユーザー」が、単なるサービスの受け手ではなく、サービスを一緒に作り上げる存在へと再評価されつつある。
そんなパラダイムシフトを起こすWeb3の未来を、LINEはどう思い描いているのか?
LINEの暗号資産・ブロックチェーン関連事業を手がけるLINE Xenesis代表取締役CEOの林仁奎(イム・インギュ)氏と執行役員の米山裕介(よねやま・ゆうすけ)氏に聞いた。
Web3で世界は大きく変わる
林 Web3で変わるものの一つが所有の概念だ。所有の概念が変わるごとに、人類の歴史は大きな転換点を迎えてきた。歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』によると、中世は宗教という目に見えない価値が人類を支配していたが、現代は株式会社が同じような役割を果たしている。
資本主義で生産手段の私的所有が認められ、そこで生じた問題に対処するため、共産主義や修正資本主義が登場した。そのたびに世界の仕組みは大きく変わってきた。
Web3でも世界は大きく変わると考えている。ビットコインやNFT(ノン・ファンジブル・トークン)が登場し、企業とユーザーが共にサービスを作っていくようなエコシステムが生まれようとしている。その中で、LINEは何ができるのか。
たどり着いた答えは「誰一人、取り残さない」「簡単に誰でも使いやすいサービスを提供していく」ことだ。それがLINEの使命だと思う。
たとえばNFTを見ても、大勢に使われているデジタルウォレットやマーケットプレイスは、実際に使ってみると、まだまだユーザーフレンドリーではない部分が目立つ。LINEならもっと使いやすいサービスを提供できるはずだ。
プラットフォームだけで世界は完成しない
――4月13日に「LINE NFT」が始まった。これから、どう発展させていくのか?
林 日本のNFTビジネスを発展させていくためには、単にLINEが使いやすいプラットフォームを用意するだけでは不十分だ。我々もパートナー企業やユーザーと一緒になって、利用者に馴染みのある手法やコンテンツを提供し、新しい世界を作り上げていく必要があるだろう。その取り組みの中から、革新的なNFTの活用・利用事例も生まれてくると考えている。
NFTは「単なる投機」として捉えられている側面もある。しかし、我々はNFTの「デジタルデータの所有を証明できる」という特性が、既存ビジネス全体を大きく変えていくと思っている。
『WIRED』の元編集長クリス・アンダーセンが2012年に著した『MAKERS』という本では、スプリンクラーのようなありふれたものでも、インターネットに接続することで大きな変革が起きた、というケースが取り上げられていた。
それと同じように、これまで取り立てて興味・関心も惹かなかったものとブロックチェーンを組み合わせれば、大きな価値を生み出せる。
IoT(インターネット・オブ・シングス)と同じく、「ブロックチェーン・オブ・エブリシング」(Blockchain of Everything)の時代がやって来る。世の中のすべてのビジネス・モノがブロックチェーンと出会った時、何が起きるのか。私たちはそこに注目している。
商用インターネットが始まった1990年からの9年間と、ブロックチェーンが生まれてからの9年間では、その利用者数はほぼ同じだったとされている。インターネットが既存のサービス/ビジネスを拡張していったように、ブロックチェーンも既存のサービスを拡張していくだろう。
ブロックチェーンで生み出される価値
――たとえば、どんな展開がある?
林 ここにある、何の変哲もない来客用ペットボトル飲料水でも、NFTと組み合わせることで、何らかの価値が生まれるかもしれない。たとえば、ペットボトルについているQRコードを読み込めば、そのときのLINEニュースのトップ記事と紐付けられるサービスがあったとする。それが大勢の記憶に刻まれるような歴史的ニュースだったとすれば、そのNFTに価値が生まれるかもしれない。
すべてのモノには、ブロックチェーンと結びつけることで、新たな価値が生み出せる可能性がある。我々は革新的なアイデアを持つパートナーたちと一緒に、世の中を変えていきたいと思っている。
――どんなパートナーとタッグを組もうとしている?
米山 たとえばNFT事業は1〜2年前とは違って計画段階ではなく「実際にやる」というフェーズになっている。アイデアもすでに企業側で持っていることが多く、そこで実現手法を検討した結果、LINEにたどり着いていただいたというケースが多い。
VRやメタバースなどのサービスにNFTを組み込みたいが、どの基盤を使ってやるべきか迷って相談に来た……というようなケースが典型的だ。
NFT事業の未来は?
――NFTをめぐっては、毎日のように新プロジェクトが発表されている。LINE NFTが始まったばかりだが、今後はどんな展開があるのか?
米山 NFTは集めて楽しむ「画像」というだけの存在ではなく、ゲームでの活用や、コミュニケーション手段など、さまざまな使い道が考えられる。しかし、使い方が複雑になるほど、システムを作り込むには開発時間が必要になる。
世界的にも、NFTは最初「画像」「アート」から始まったが、次第に何らかの形で「使える」NFTが増加してきている。日本はちょっと遅れてはいるが、同じ流れで進んでいる。今後、どんどん新しい動きが表面化してくるだろう。
――NFTゲームもLINEでは推進していく?
林 そこはゲーム会社の考え方次第だ。我々はプラットフォームであり、それを使って何をするかは、あくまでもブロックチェーンサービス(dApps※)を提供する側の意思になる。ただ、我々はプラットフォームを作るだけでうまくいくとは思っていない。そういう方向性に興味を持っている事業者と、一緒に事例を作っていきたいと思っている。
※「Decentralized Applications」の略で、ブロックチェーン技術を用いた分散型・分権的なアプリケーション
国内ユーザー9200万人「LINE」アプリの存在感
――「LINE Blockchainの強み」はどこにあるのか?
林 最大のポイントは国内9200万人に利用されているコミュニケーションアプリ「LINEアプリ」の存在だ。我々としては、馴染みがあって使い勝手もわかっている「LINE」を使って、ユーザーにアプローチできるのは何よりの強みだと考えている。
LINEのIDがあれば、すぐにサービスを利用できることも、ユーザーにとって大きなメリットだ。いちいち登録やEメール認証なども必要ない。ウォレットもすでに組み込まれているので、ウォレット連携も考えずに済む。
NFTマーケットは外部ウォレットとの連携を前提としているものが多いが、LINE NFTのマーケットではウォレット連携を意識しなくていい。NFTを買う場合もECサイトと比べて、あまり変わらない使い勝手になっている。ユーザー同士でNFTのやり取りも簡単にできる。
米山 大前提として暗号資産「LINK」の存在がある。LINKは暗号資産取引サービス「LINE BITMAX」で売買できるし、LINE NFTの決済手段として使える。LINE Payが利用可能な約6000の店舗で「LINK 支払い」も始まった。こうした世界観でサービスを展開できるのはメリットだろう。
また、「所有」と法律とは切り離せない。「LINE NFT」のように、所有という概念と結びついたサービスを日本国内で展開するとなると、法律的な位置づけもきっちりとする必要がある。国内法の権利保護をしっかりと受けてサービス展開したいコンテンツ事業者や、国内法の裏付けがほしいユーザーにとって、「LINE NFT」を選ぶ理由の一つになる。
「分譲マンション」が一般的になったのは、1962年にできた「区分所有法」で所有者の権利義務が明確化されて以降だ。NFTについては、「コピペできるJPG画像にお金を払うの?」といった疑問の声を聞くことがあるが、法律が整備されていけば、みなさんの意識も変わってくるだろう。
――グローバル市場をどう攻略する?
林 海外向けに日本のコンテンツを売りたいというニーズはある。それをどう展開していくかは、我々の大事な課題の一つだ。
米山 ただ、日本と海外では好まれるコンテンツやUX / UIなどが少しずつ異なっている。同じアニメ作品でも好まれるシーン、消費のされ方、人気となるポイントが国内外で違っている。
単に同じものを配信するのではなく、調整も必要となってくるだろう。今回、LINEグループがグローバルでNFTマーケット事業を展開する「LINE NEXT」を立ち上げているのは、そういう狙いだ。
成長戦略は?
――NFTに触れたことのあるユーザーはまだ少ない。今後、ユーザーをどう増やしていく?
米山 そこは「誰一人、取り残さない」という戦略に尽きる。ブロックチェーンサービスを利用したことがあるユーザーなら、誰でも「IDパスワードがわからなくなった」「鍵をなくした」といった経験をしていると思う。私も恥ずかしながら外部ウォレットの鍵をなくした経験がある。しかし、日常的に使っているLINEなら、そういった危険性は減らせる。
林 まずは馴染みのあるコンテンツ、馴染みのある使い方というところから、切り開いていきたい。
これまでのNFTには「自分にはわからないアートが、高額で取引されている」というような、自分とは縁遠いイメージもあったと思う。私たちが目指しているのは、ユーザーにNFTの価値を体感してもらうこと。そのためにはユーザーの好みに合致するような多様なコンテンツを用意し、LINEのプロフィール画像(PFP)などとして使ってもらえるようにしたい。
日常の中で友達が使っていれば、自分もプロフィール画像に設定してみようとか、友達にプレゼントしてみようといった感覚が自然に生まれてくるだろう。まずは、より良いサービスを開発し、ユーザーに使ってもらうことでサービスを成長させていきたい。
LINE NFTは、新たな「文化」を創るのか?
――LINEの「クリエイターズマーケット」では多様なスタンプが販売されている。LINEがユーザーと共に作り上げた「スタンプ文化」で、日本社会のコミュニケーションは大きく変わったと思う。
林 確かに、もし急にスタンプがなくなったら、会話に区切りを付けるとき、どう言うか困るかもしれない(笑)
――スタンプのおかげで感謝や謝罪、楽しさ、寂しさといった気持ちを、相手に伝えやすくなった。それと同じように、LINE NFTも人々の暮らしを変える可能性がある。
米山 LINE NFTの記者会見で17シリーズのコンテンツを発表したとき、すごく嬉しかったのは、ユーザーが反応しているコンテンツが人によって本当にバラバラだったことだ。
投機的な視点で他人が欲しがりそうなものを探すというのではなく、欲しいと思ったものを見つけていただいたのだと思う。元々のクリエイター・コンテンツのファンたちにも支持される形で、多様な選択肢を用意する重要性を改めて感じた。
――LINEには、さまざまなコンテンツを扱ってきた実績がある。そこはNFT事業を展開する上で強みになる?
林 社内には、金融畑の人間だけでなく、エンタメ畑の人間もいる。たとえば私はゲームやエンタメ畑で、米山は金融畑だ。社内にはZ Entertainmentから異動してきた人間もいる。「LINE」を通じて友だちに様々なプレゼントを贈ることができるサービス「LINEギフト」や、動画プラットフォーム「LINE VOOM」などのサービスをやっていたメンバーもいる。
経営陣はもちろん、現場の人間もさまざまな現場で得た多様な経験を持ち寄っている。LINEのノウハウや知見を活用したサービスを展開できると思う。
――メタバースへの展開は?
林 メタバース上で使う「アイテム」は、NFTとの相性も良い。新しいサービスが次々と発表されており、期待感は持っている。ただゲーム業界出身で、MMORPG(多人数参加型オンライン・ロールプレイングゲーム)の運営に携わっていた経験からすると、メタバース運営はかなり難しいものだと感じている。
単に技術的な難しさだけではなく、適切なコミュニティを設計し運営していくという点で、ノウハウを持っている会社はかなり少ない。コミュニティは人の想い、心を読み取って設計しなければいけない。そこが成功するための大事なポイントとなるだろう。
米山 メタバース事業を加速していくためには、ウォレットなどの基盤整備も不可欠だ。まずはそこからだと思う。
あっという間に広まった「NFT」という言葉
――Web3社会の実現へ向け、ハードルはあるのか?
米山 具体的なところでいうと、これまで多くのNFTマーケットでは、実際にNFTを購入するために複数のサービスを理解し、使いこなす必要があった。リアルな買い物で例えるなら、店の場所を探し、目当ての商品を探しあて、レジの場所を探して会計し、持ち帰る方法も考えないといけないような状態だ。
LINE NFTは「使いやすさ」を重視して設計されている。ウォレットなどを意識しなくても使えるため、一定程度のハードルを越えたと思っている。
ただ、システム面だけではなく、心理的なハードルもある。NFTを体験し、その価値を実感してもらうためには、さまざまなハードルを撤去していかなければならない。
林 NFTはよくわからないし、難しそうだし、怪しいかもしれない……という漠然としたイメージ。そうしたイメージと向き合って解決することで、NFTの未来を広げていきたい。
――漠然としたイメージと戦うのは難しいのでは?
米山 インターネットの普及期にあったのと同じような話で、一定の時間は必要かもしれない。たとえば「ブログ」も「なぜ日記を公開するのか」などと言われていたが、今では当たり前の存在となった。
林 我々が2020年8月にウォレットを提供したときには、あえて専門用語のNFTという単語は使わず、「アイテム」と言っていた。しかし、今はNFTという単語を大勢の人が使うようになった。
米山 そこは、私がこだわったポイントだったのだが、まさかこんなに早く「このアイテムというのは、NFTのことですか」という問い合わせが来る時代になるとは……。NFTという単語は、想定よりも早く一般化した。その価値も意外と早く伝わっていくかもしれない。
「個人」が大きく再評価されるWeb3の世界だが、その果実を受け取るのが、ごく一部の人だけではつまらない。ユーザーと共に成長してきたLINEの持つ「誰一人、取り残さない」という価値観は、この大転換の時代にあって、見過ごすことのできない重要な視点なのかもしれない。
|文・編集:coindesk JAPAN編集部広告制作チーム
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