平将明議員:GPIFはWeb3戦略のカギ──人材の国外流出を止められるか

北米と欧州は民間企業によるディスラプティブなテクノロジーの開発を促し、Web3の土壌作りを行ってきているが、日本は周回遅れと言わざるを得ない。米国のGAFAにWeb2市場を占拠された苦い経験を経て、政府自民党内では日本のWeb3成長戦略をしかけようとする動きが見える。

ブロックチェーンはWeb3の基盤となるテクノロジーだ。アメリカは、民間企業がブロックチェーン上で流れる暗号資産(仮想通貨)や、米ドルに連動するステーブルコイン、DeFi(分散型金融)の取引を拡大させる企業活動に対して、ある程度許容しながら、若い市場の成長を進めてきた。

一方、日本では、例えばガバナンストークンなどの発行に対する課税の問題に加え、為替に近い類型となるステーブルコインの取り扱いを規制し、広い意味での暗号資産市場の規模感で、アメリカとの差が広がっている。

パラダイムシフトを起こすとも言われるWeb3で、日本が大どんでん返しを実現できる特効薬はあるのか?

3月、Web3に関する提言を盛り込んだ「NFTホワイトペーパー(案)」が公表された。作成した自民党デジタル社会推進本部NFT政策検討プロジェクトチーム(PT)で、座長を務める平将明議員に聞いた。

Web3:Web3.0とも呼ばれ、ブロックチェーンなどのピアツーピア技術に基づく新しいインターネット構想で、Web2.0におけるデータの独占や改ざんの問題を解決する可能性があるとして注目されている。
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NFT(ノン・ファンジブル・トークン=非代替性トークン):ブロックチェーン上で発行される代替不可能なデジタルトークンで、アートやイラスト、写真、アニメ、ゲーム、動画などのコンテンツの固有性を証明することができる。NFTを利用した事業は世界的に拡大している。

GAFA:アメリカに本拠を置くテクノロジー企業群で、Google、Apple、Facebook、Amazonの頭文字をとった言葉。4社の時価総額合計は約6.4兆ドル(約817兆円)で、日本の上場企業の時価総額の総計730兆円(日本取引所グループの市場別時価総額、3月末時点)を上回る。

ガバナンストークン:分散型システムにおける投票権を表す暗号資産。トークン保有者は、コミュニティの意思決定に関与できる。中央集権的なシステムと対比的に、ユーザーが運営に関与できることが特徴。

GPIFで1兆円ファンド構想

──ホワイトペーパーでは、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)による投資の可能性を言及している。

平議員:シンガポール政府系ファンドのTemasek(テマセク)は、暗号資産そのものに積極的に投資している。これから、伝統的な巨大ファンドもこういった投資をやり始めるだろう。

GPIFには現在、概ね200兆円の運用資産がある。そこから、0.5%にあたる1兆円を切り出し、スタートアップ支援ファンドを作るのも良い。税制やレギュレーションの整備、特区、ファンドなどを活用すれば、一気にWeb3の世界のトップに立てると思っている。環境さえ整えば、日本に来たい人はいっぱいいる。

20歳代の方々が年金をちゃんともらえるようにするためには、年金財政を良くしなくてはいけない。ただ、GPIFがどれだけ頑張っても限界がある。人口減少のなかでも、GDPを増やす政策をやるしかない。

私は、GPIFがポートフォリオ多様化をし、リスク管理しながらイノベーションにしっかりお金を出すべきだと思っている。日本のためにもなるし、若い世代の応援にもなる。

──マネックスグループのコインチェックがナスダック上場を目指すことを明らかにした。日本の規制の厳しさも影響したという憶測もあるが。

平議員:役所は、過去にマウントゴックスやコインチェックの暗号資産の流出問題があり、保守的になっている。だからこそ、政治が「Web3にコミットする。日本がリーダーシップを取っていく」と言えば、マインドが変わる。

アメリカの暗号資産大統領令のように、総理が各大臣に指示することが重要だ。サポート体制を整えるため、Web3担当大臣を作ることや、内閣府かデジタル庁に事務局を置く必要がある。

また、スタートアップの方々がやろうとしていることが適法かどうか迷ったときに、どの省庁に相談しにいってよいのか分からない環境にある。ワンストップ相談窓口も作るべきだろう。

税制が人材流失の主要因

──企業が保有するトークンが期末評価で課税されることが、Web3に関わる起業家の海外流出につながっているが。

平議員:税制を変えるには時間と手間がかかる。最も力を持っているのは自民党の税制調査会で、最終的にはここが決める。年に一度、年末に開かれる税制改正の場までに、賛同者や理解者を増やしていく必要がある。

まず、Web3を国家戦略にしっかり定める必要がある。自民党の中でも、コンセンサス(合意)を得て、年末の税制調査会の議論に臨むというステップを踏まないといけない。

税制議論を実のあるものにするには、ホワイトペーパーの内容を自民党の成長戦略に入れ込み、政府の成長戦略や骨太方針に反映させ、政府の政策にするようなストーリーが考えられる。また、参議院選挙を控えているため、公約に入れるようなケースもあるだろう。

新しい資本主義の文脈のなかで、岸田総理に「Web3は一つの柱だ」と言ってもらえればそれに越したことはない。私は成長戦略としても、分配戦略としても、Web3は重要だと考えている。

──暗号資産の個人投資家からは証券と同様の分離課税を求める声も多い。

平議員:「証券税制と横並びで良いのではないか」という理屈は分かる。ただ、政府は証券などへの投資を勧めている。横並びにする場合は、政府が暗号資産も含めて国民に勧めるということと同義になる。大議論になるだろう。国民の理解と支持が不可欠だ。

また、ガバナンストークンやDAO(自律分散型組織)が法律的にどう定義されるかを整理しなければいけない。定義されていないものを租税特別措置の対象にすることはできない。税金の仕組みを変えるということは、民主主義の根幹に関わることだ。

戦略特区でクリプトビザ構想

──起業家からは、税制改正に時間がかかることを鑑み、規制緩和を目的とした特区の活用を求める声もある。

平議員:国家戦略特区は一つの手法だ。私もありだと思っており、ホワイトペーパー内でも記している。以前、ドローン特区や近未来技術実証特区を発案したこともあり、国会議員のなかで国家戦略特区に一番詳しいという自負がある。

ただ、難しい面もある。国家戦略特区は、一国二制度のような性格があり、所管省庁やいわゆる「族議員」の抵抗が半端ではない。進めるためには、総理のフルコミットが必須だ。

ブロックチェーンや暗号資産に強い技術者やスタートアップの起業家が日本に入ってくるようなクリプトビザを出したらどうかという構想がある。地方創生という文脈で、DAOを導入するのも面白いアイデアだろう。

──なぜNFTホワイトペーパーを作成することになったのか。

平議員:自民党の平井卓也デジタル本部長から、年初の会議で「どうもNFTが大変なことになっているらしい。平さんは前から興味を持っていたから担当ね」と、言われたことがきっかけだった。

取り組みについてツイートしたところ、安宅和人さんや伊藤穰一さん、落合陽一さんをはじめ、日本のデジタル化を引っ張ってきた人や世界のブロックチェーンで戦おうとしている人たちから、最新の知見を得られた。

とてもこれは一人ではできないと思い、翌週には平井さんにPTを立ち上げることを伝えた。非常に政策立案能力が高いメンバーを集め、立ち上げから2カ月でホワイトペーパーを公表した。

通常、このようなホワイトペーパーは、政府が一緒になって作ることが多い。つまり、実際に書いてるのは役所だということもある。今回、役所は一行も書いていない。外部の弁護士の方々にも、非常に献身的に協力してもらった。

──タイトルはNFTとなっているが、内容にはトークンの規制緩和や税制の見直しまで含まれている。

平議員:NFT担当だと言われたためにそうなっている。そもそも、私の問題意識はNFTだけではない。暗号資産やトークン、ブロックチェーン、DAO、DeFi(分散型金融)、メタバースなどがある。全体の生態系として、回らなければ意味がない。NFTだけにフォーカスして制度を作ると、部分最適になってしまい、全体最適にならない。

私としては、NFTというお題を頂いたのでこれ幸いと、全体を俯瞰した政策を出そうと考えた。今では、Web3のことはNFT政策検討PTに聞いてみようという雰囲気になっている。

大陸法が遅れの原因に

──欧米などと比べて、政府当局の動きの遅さが指摘されているが。

平議員:日本は、構造的な問題を抱えている。法律の話になってしまうが、英米法と大陸法の違いはある。英米法は、法律にやってはいけないと書いていなければやる。一方で、大陸法はポジティブリストといわれるように、やって良いことが書いてある。

新しい技術やイノベーションを社会実装しようと思うと、昔できた法律には、そのものをやって良いかどうかは書いていない。つまり、グレーゾーンになる。イノベーションを実装する際、大企業はコンプライアンスで立ち止まってしまう。ベンチャーも頑張るが、グレーゾーンのままでは資金集めもままならない。

国会における議論としては、野党から「立法事実はあるのか」と問われる。「実際にどこで、どういう問題が起きているのか」といわれる。しかし、今は流れが早い。

立法事実を待っていたら、できるのは何年か先になる。さらに、大陸法の国で法律を作ろうとすると、そこから2年がかかる。そうなると、英米法の国と比べて、3~5年遅れる。大陸法の国の政治家は、英米法の国の政治家よりも時代の先を見て手を打っていかなければいけない。

自動車業界など、ものづくりで世界を席巻した日本と同じく大陸法であるドイツがWeb2でもWeb3でもほとんど存在感がない。日本は、大陸法というOS(基本ソフト)で国家が動いてるが、OS自体を入れ替えることはできない。私は、国家戦略特区という英米法アプリを入れることを政策的にやってきた。

──世界では、ステーブルコインの進展が速い。日本にはこうした基盤がなく、世界から置いていかれるまで時間との勝負になっているようにも見える。与党として、危機感を持っているか。

平議員:残念ながら多くの日本の政治家は、「なぜ日本からイノベーションが生まれないのか」という本質的な問題に気づいていない。「最近の若者は、ハングリー精神が足りない」という方もいるが、精神論ではない。

新しい資本主義のなかでスタートアップ支援を謳っている。そこをしっかり応援するべきだ。私は今、スタートアップ支援で最もバリューを出せるのは、Web3界隈だと思っている。日本のポテンシャルは高い。政治が素早く対応できれば、日本は勝てる。

ステーブルコイン:米サークルが発行するUSDコイン(USDC)と、テザー社のUSDTは、米ドルに連動する代表的なステーブルコイン。2つのステーブルコインの流通量は1267.8億ドル(約16兆円)に達した。

世界の暗号資産市場では、USDCとUSDTが決済通貨としての機能を果たしており、クリプトマーケットを支えている。両コイン共に、発行する際は、米国債やコマーシャルペーパーなどの資産をリザーブすることで、コインが米ドルと同等の価値を維持できるよう設計されている。

|インタビュー・編集:佐藤茂、菊池友信
|フォトグラファー:多田圭佑