米西海岸のカニ漁に追跡デバイスを使う:消える捕獲カゴを追う

サンフランシスコ在住のテック企業幹部ジェイムソン・バフマイアー(Jameson Buffmire)氏は、アメリカ西海岸で趣味のカニ漁を楽しんでいる。厄介なのは、年間10個ほどのカニ捕獲用のカゴを紛失すること。

カゴは1つ、300ドル以上する高価なもの。撤去されているのか、盗まれているのか見極めるために、彼は追跡する方法を編み出そうとしてきた。

「何千ドルにもなる道具とカニを失うのは、本当にいら立たしい」と、バフマイアー氏は語る。

太平洋は、モノを追跡するにはかなり厳しい場所だ。「アップルがAirTagでやっているように、近くの携帯電話に頼ることはできないし、携帯電話通信を使ったGPSトラッカーも、2マイル(約3.2km)以上の範囲をカバーすることはできない」と、バフマイアー氏は説明した。

そこでバッフマイアー氏は、独創的な方法を生み出した。ヘリウム(Helium)ネットワークを活用することにしたのだ。ヘリウムは、HNTという独自トークンを持つブロックチェーンが支えるワイヤレスノードのシステム。

Browan社の業務用トラッカーと、ヘリウムのLong Range Wireless Network(LoRaWAN:長距離ワイヤレスネットワーク)を活用して、トラッキングを行うバフマイアー氏。「間違いなく、大変革をもたらしてくれた」と絶賛している。

バフマイアー氏は、ヘリウムを活用したトラッカーを使うことで、1000ドル以上はゆうに超える価値のある3個のカニ捕獲用カゴの回収に成功した。「スマートフォンを開いて、はるか彼方のまったく異なる環境にあるものの場所をチェックすることができるなんて、魔法のようだ」と、バフマイアー氏は語った。

ヘリウムに馴染みのある大半の暗号資産投資家は、インターネットホットスポットの分散型グローバルネットワークを活用したブロックチェーンネットワークとして、ヘリウムのことを知っているはずだ。

このプロジェクトの開発には、多額の資金が投資されている。ヘリウムを手がけるノバ・ラボ(Nova Labs)は先月、タイガー・グローバル(Tiger Global)が主導する2億ドル規模のシリーズD資金調達ラウンドを完了。このラウンドには、アンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz)、ドイツテレコムなどが参加した。これによってカリフォルニアに拠点を置くノバ・ラボの評価額は、12億ドルとなった。

ヘリウム・ホットスポットの活用

ヘリウムのウェブサイトによると、現在世界中にあるホットスポットは74万6296。ホットスポットは、ネットワークマイナーと、ワイヤレスのアクセスポイントとしての二役をこなす。

まずは、「モノのインターネット(IoT)」デバイスへの長距離無線通信を提供するため。そして長期的には、5Gなどの分散型ワイヤレスネットワークを通じて、あらゆるものをインターネットに接続するためのものだ。

しかし、センサーやトラッキングデバイスなどの製品と組み合わせてヘリウムネットワークを利用しているユーザーもいる。このようなユースケースは、コールドブリューコーヒーが少なくなってきた時に通知を受けるカフェでの利用や、客足を追跡する店舗での利用、洪水や、水や空気の質を測るためのセンサーとしての利用など、幅広い。ヘリウムネットワークとLoRaWANセンサーを組み合わせることで、このようなことが可能になるのだ。

バフマイアー氏の本職は、IoTネットワークを支える製品の流通を手がけるカルチップ・コネクト(CalChip Connect)の副社長だ。(マイナーなど)ヘリウムネットワークや、その他のIoTソリューションに対応する製品も取り扱っている。

バフマイアー氏はさらに、グローバルモバイルネットワークを手がけるオレンジ社の幹部としての前職では、ヘリウムチームと共同で、開発者プロジェクトに関わったこともある。しかし、これはヘリウムが暗号資産志向の戦略を立ち上げるずっと前のことだ。

ヘリウムが分散型ネットワークを発表した時、バフマイアー氏はより深く知りたいと思い、ホットスポットを購入した。

カニ捕獲用カゴ追跡のためにBrowan社のトラッカーを選んだのは、ブイの内側に隠すのが簡単で、最大で7日間海に放り出しても平気なくらい丈夫だったからだ。Browanのトラッカーは、多目的かつ耐水性能を持つトラッカーで、自転車、車、ペットなど、様々な用途でのGPSトラッキングのために作られている。

「たくさんの強力接着剤を使って、黄色いブイの中に、5つのトラッカーを隠すことができた」と、バフマイアー氏は振り返った。

ヘリウムを使ったトラッキングの顛末

トラッカーには、ヘリウムのホットスポットによるLoRaWN接続が必要だ。ヘリウムのホットスポットは、普通のコンセントに差し込む小型のデバイスで、既存のインターネットサービスを利用し、IoTデバイスに長距離無線通信を提供する。

トラッカーを設置したブイ
出典:Jameson Buffmire

TrackingForLessと呼ばれるマッピングアプリを使い、バフマイアー氏は少しのコストでGPSトラッカーをレンダリングすることができた。バフマイアー氏はまず、カニ捕獲用カゴを設置する前に、受信区域を確認するために、ネットワークテスターをボートに乗せて試してみた。

受信区域は驚異的で、海上からでも6を超える異なる地上のホットスポットに接続可能だったと、バフマイアー氏は語った。これは距離にすると、約40kmに相当する。

バフマイアー氏は12月、カニ捕獲用カゴを海に持って行ったが、それから12時間以内には、そのうちの1つが非常に速く移動していることに気がついた。

TrackingForLessアプリで確認されたカニ捕獲用カゴ
出典:Jameson Buffmire

「アプリを開いて、私の大切なカニ捕獲用カゴの半分が誰かに盗られて、バークレー・マリーナへと移動されるのを目撃した」と、バフマイアー氏は振り返る。そこで彼は警察に通報。盗難は海上で発生したため、サンフランシスコ警察は管轄域ではないと主張した。

そこで、バークレー警察がバフマイアー氏とマリーナまで行き、何が起こったかを追跡した。

トラッキングアプリを利用して、バフマイアー氏は盗まれたカニ捕獲用カゴが載っているボートを特定することができたのだ。

「警察がそのボートの所有者に対して、私が失くなったカゴを探していることを伝えた。その後、カリフォルニア州魚類野生生物局の職員から、とても丁寧な電話を受けた」と、バフマイアー氏は語る。

その職員は、バフマイアー氏はトラッカーでしっかりと追跡したにも関わらず、ブイに漁業ライセンス番号を適切に表記しなかった、そして回遊性の鯨を保護するための旗禁止という新しいルールにも違反していたと伝えた。

ライセンス番号記載の不備で出頭命令を出す代わりに、職員はそもそもバフマイアー氏がどのようにカゴを見つけたかに興味を示した。そこでバフマイアー氏は、トラッキングデバイスだと、答えたのだ。

結局、押収されたカゴの受け渡しのために、職員とバフマイアー氏はサンフランシスコで落ち合うことになった。

職員が約束の時間に遅れていたため、バフマイアー氏はどこにいるかを確認するために、電話をかけた。「ボイスメールを残している時に、どこにいるかチェックすればいいことに気がついた」と、バフマイアー氏は振り返る。

すると、職員と同僚はファラロン諸島近く、サンフランシスコから約45km離れた海上にいることが分かった。

「トラッカーが完璧に機能していたのは明らかだった」と、バフマイアー氏は語る。

最終的に彼らは会うことができ、職員はバフマイアー氏に、ヘリウムネットワークを使ったカニ捕獲用カゴトラッカーを製品化するよう勧めた。

「それはまだ実現していないが、大量のカニを楽しんでいるよ」と、バフマイアー氏は語る。

結局バフマイアー氏は、出頭命令を受け取ることはなかった。

「本当に素敵な経験だった」と、バフマイアー氏は振り返り、次のように続けた。「出頭命令も無しで、フレンドリーな職員はテクノロジーに興味を示してくれた。とても真摯な対応をしてもらった。カゴを私の車まで運ぶのを手伝って、彼らの素敵なボートまで見せてくれたんだ」

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Jameson Buffmire
|原文:A Use Case You Can Eat: California Crabs Tracked by Helium Network