ステーブルコインの存在感が大きくなっている。JPYCは、5月10日に総発行額が10億円を突破。2021年1月に発行を開始し、2021年8月に1億円に到達。その後、9カ月間で総発行額は10倍まで拡大した。
規模で先行するアメリカでは、流通額が爆発的に増えている。テザー(USDT)とUSDコイン(USDC)を合計した供給額は1253.5億ドル(CoinDeskデータより、5月9日時点)にのぼり、日本円に換算すると16兆円以上だ。
国内では改正資金決済法が3月に提出され、法改正を見越した国内事業者の動きが出始めている。NFTやDeFi(分散型金融)、メタバースの経済圏が拡大していくなか、クリプトネイティブな決済手段は必須となりつつある。JPYCの岡部典孝代表に、日本市場の環境と成長戦略を聞いた。
NFT(ノン・ファンジブル・トークン=非代替性トークン):ブロックチェーン上で発行される代替不可能なデジタルトークンで、アートやイラスト、写真、アニメ、ゲーム、動画などのコンテンツの固有性を証明することができる。NFTを利用した事業は世界的に拡大している。
拡大するステーブルコイン
──アメリカでは、伝統的な金融機関がステーブルコインに参入している。
岡部代表:USDC発行を手掛けるサークル(Circle Internet Financial)は、デファクトスタンダードを作ろうとしている。銀行がカストディとなり、ステーブルコイン発行会社の資産を運用会社が運用する構図だ。機関投資家が入る潮流が顕著だ。
サークルの事業戦略: 4月12日、ブラックロック(BlackRock)と戦略的パートナーシップを締結した。3月には、BNYメロンが準備資産のカストディアンとなると発表されている。
業界の動きとしては、想定通りだった。バイデン大統領の大統領令をはじめ、アメリカは暗号資産を推進する動きに舵を切っている。プレイヤーの顔ぶれも固まってきたように思われる。
──JPYCは2021年11月、サークルから出資を受けている。
岡部代表:約1億円の出資を受けた。サークルが海外のステーブルコインに出資した初めての案件だった。出資意図として、世界的にステーブルコインのプロトコルが統一されたほうが便利ではないかという考えがある。例えば、ドルや円、ユーロなどのステーブルコインで相互運用できれば、為替の両替も非常に楽になる可能性がある。
日米の環境差
──日本では、プレイヤーの顔ぶれが固まるどころか、直近で増加しているという認識だが。
岡部代表:国内では、ステーブルコインの定義が定まっていない。日本ではこれまで、為替取引タイプのステーブルコインが発行できなかった。現状は、前払式支払手段というプリペイド型のステーブルコインが先行し、弊社以外にもプレイヤーが出てきている。
3月、改正資金決済法が国会提出された。日本円との交換が可能なもので、3メガバンクなどが加盟するデジタル通貨フォーラムの「DCJPY(仮称)」など、いくつか大手の動きが見られる。
技術面では、パブリックチェーンかコンソーシアムチェーンのどちらを選ぶのかが分かれ目になるだろう。提出されている法案が成立すれば、両方できる形で社会実装していくことになるだろう。
スタートアップは、ライセンスが緩やかなプリペイド型を担い、大手はライセンス厳しいものの、現金に交換しやすい電子決済手段等取引業者になると見込んでいる。
──前払式支払手段と電子決済手段等取引業者の違いは。
岡部代表:それぞれビジネスモデルが異なる。大きく分けて、プリペイド型である前払式支払手段は、商品やサービスに交換できる商品券のようなイメージだ。先にキャッシュインする(現金が手に入る)ことで仕入れができるモデルになっている。
大企業の参入が明らかになっている電子決済手段型は、銀行などの機関投資家が取り扱うような巨大な資産を管理することになる。発行額に対して銀行保証を受ければ、資産を運用できる。
この他に、プログラムで価格の安定を図る暗号資産型がある。米ドルに連動するものでは、DAIが挙げられる。このタイプでは、暗号資産取引所などが発行することが想定される。ビットコインに交換する際の両替手数料のような、手数料ビジネスが考えられるだろう。
今後の成長見込み
──日本におけるステーブルコイン業者は増えていくのか、もしくは集約していくのか。
岡部代表:今、参入しているステーブルコイン業者はチェーンが群雄割拠になることを想定しているのだと思う。
例えばJPYCは、アバランチ(AVAX)やAstar(ASTR)などに対応している。一方で、バイナンススマートチェーンなどには対応していない。セキュリティーや工数の面で、対応できるチェーンは限られる。
今後もチェーンが増えていくことが予想され、連携先が伸びれば、収益が見込める。ステーブルコインのニーズがあることは分かっている。Web3は非常に速いスピードで拡大している。新規参入者を、弊社の競合という認識はしておらず、妥当な競争環境を作っていく協力先だという感覚で捉えている。
──どのような成長を見込んでいるか。
岡部代表:自民党デジタル社会推進本部NFT政策検討PTから「NFTホワイトペーパー(案)」が公開されるなど、今後、国家戦略になっていくことが予想される。NFT市場の拡大とともに、ステーブルコインの利用シーンが増えていくことに期待している。
暗号資産長者のような富裕層によるインバウンドにも期待している。2021年12月から、松屋銀座でJPYCを使った代理購入ができるようになった。ビットコインなどをJPYCに替えて買い物したほうが、日本円に両替するよりも低廉な手数料を実現できる可能性もある。
|取材・テキスト・撮影:菊池友信
|編集:佐藤茂