価格発見のプロセスが続き、ビットコイン(BTC)をはじめとする暗号資産(仮想通貨)のトレーダーたちが、市場がどこで底を打つのかを見極めようとする中、なぜ暗号資産投資を続けているのか自問することには、時間をとる価値があるだろう。
テラ崩壊
テラ(Terra)ブロックチェーンのTerraUSD(UST)とLUNAをめぐる状況が、金融の歴史に刻まれることはほぼ間違いないだろう。USTは、アルゴリズム型ステーブルコインだ。
アルゴリズム型ステーブルコインとは、分散化の原則や暗号資産テクノロジーの活用は維持しつつ、米ドル基盤の経済への架け橋を提供するタイプのトークンだ。USTは大ブレークしたが、派手につまずいた。
テラネットワークの台頭に貢献した要素は多くある。大物の支援者や、説得力のあるリーダー、そして広範な暗号資産の上げ相場。しかし、最も大きかったのは、中心となっていた約束だろう。
USTを手がけるテラフォーム・ラボ(Terraform Labs)の創業者ドー・クォン(Do Kwon)氏は、伝統的金融と分散型金融のどちらの世界からもアイディアを採用して、USTを中心とした金融アプリケーションの銀河を築いていたのだ。
そこには、すべてが揃っていた。「ステーブル(安定した)」資産、貸付や預金テクノロジーの一群、そして証券取引所まで。すべてとは言わずとも、これらの活動の大半は、合法かどうかギリギリの、リスクの高いものであった。
しかし、そのような危険も、クォン氏にとっては価値があった。彼は、法律やブロックチェーンテクノロジーの限界に抵抗し、金融を自由にアクセスできるものにすることを望んでいた。
現状を見て、暗号資産を象徴するものだと考えてしまうのも無理はない。USTの危機は、回復したとしても、歴史に汚点を残すことになるだろう。さらには、もっと広範な疑問を持つ人もいるかもしれない。例えば、これらの実験は結局、どこに向かうのか?荷物をまとめて、退散した方が良いだろうか?と。
テラ破綻の経緯については、まだ解き明かされている最中だ。ネットワークの既知の問題につけ込み、仕組まれた攻撃であったかもしれない。また、少しの圧力を受けて、コミュニティへの信頼が崩壊したのかもしれない。しかし、テラがこのような状態になるのなら、他の分散型ネットワークも同じような事態に陥る可能性があるのは、はっきりとしている。
インターネットが抱える矛盾
分散型ネットワークには生まれつきの限界があり、つけ込まれる可能性があるとしたら、リスクを負う価値はあるのだろうか?
インターネット関連の話題について語るブロガーのライアン・ブロデリック(Ryan Broderick)氏も先日、ウェブ2について同様の疑問を呈した。同氏はウェブに潜む矛盾を指摘したのだ。
インターネットが素晴らしいのは、開かれていて無料だからだ。しかし、インターネットにはアーキテクチャの構築と維持も必要である。これまでのところ、そのような行為の資金を安定的に賄う唯一の方法は、インターネットの開放性や無料さを損なうアプリケーションを通じたものだと、ブロデリック氏は主張する。
つまり、グーグル、フェイスブック、アマゾンなど、私たちが最も使うツールを生み出すウェブ大手企業のことを、ブロデリック氏は指しているのだ。もちろん、値札は必ずしもついていないかもしれないが、これらのアプリケーションは無料ではない。私たちはデータマイニングや社会的対立など、隠された代償という形で、堅固なインターネットサービスに対して支払いを行なっているのだ。
ブロデリック氏は、ウェブ2の成功の一部は、多くの人々がプラットフォームを誤用したり、本来の意図とは違う用途を見つけることに由来すると主張。TikTokやYouTubeのことを、ソーシャルメディアサービスと呼ぶ代わりに、それぞれ「スマートフォン向けの無料のアドビ・プレミア」、「インターネット上の文化批評のメインハブ」と呼んでいる。
「ウェブ2のアプリはしばしば、実際に何に使われているのかを自覚できていない」と、ブロデリック氏。これは、インターネットの価値に関する力強い考察だ。インターネットは代償を伴うとしても、開放されていて無料、そして実験するのも自由なのだから。
監視資本主義と意図しないデザインの融合とでも言うべきこのモデルは、持続不可能なものだと、ブロデリック氏は考えている。はっきりと書くことはないが、他にも同氏を不安にさせている要因があるようだ。
ウェブ3は、ウェブの搾取的なモデルへの代替オプション提供を約束している。ユーザーが、自分たちが利用するプラットフォームを開発し、破壊しないでいてくれる資金潤沢な企業の恩寵に依存しなくても良くなる、と言うのだ。「コミュニティ所有」のはずなのだから。
ウェブ3開発者や資金提供者たちの言葉を信じるなら、ウェブ3のメリットは、インターネットの開放性を維持できる点にある。「無料」ではないかもしれないが、そのコストははっきりと目に見えるものになるだろう。そもそも、破綻しなければ、の話だが。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
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|原文:Terra, Web 3 and Acceptable Risk in Innovation