テラ崩壊までの一部始終──業界最大の教訓【コラム】

まず、ここ1週間ほどの暗号資産(仮想通貨)市場の暴落によって、多くの勤勉な一般市民が多くのお金を失った、ということをはっきりと伝えておきたい。全財産を失った人もいるだろう。

お金がすべてではないが、多くのお金を失うと、すべてを失ったように感じられる。LUNA/UST暴落によってお金を失ったとしても、人生は生きる価値があるということを、忘れないようにしよう。

1ドルの価値を保つはずであった暗号資産(仮想通貨)のTerraUSD(UST)は、今や1ドルの価値を持たない。1ドルのはずのものが1ドルでなくなったら、それは大抵の場合、由々しき事態だ。

さらに、USTを支えるトークンLUNAも、その価値をほとんど完全に失った。この暴落は幅広く報じられており、あなたはこの記事の前にも、いくつもUSTについての記事を読んでいるだろう。

しかし、それでも私はUSTについて語らなければならない。なぜなら私は、(USTとLUNAを発行する)テラエコシステムを宣伝し、安定させるための NPO「ルナ・ファンデーション・ガード(Luna Foundation Guard:LFG)」が、USTを支えるために、100億ドル相当のビットコイン(BTC)を購入することを発表したのを伝える記事を書いたからだ。

釈明させてもらえるならば、私はおおむね、コンピューター科学者ハル・フィニー(Hal Finney)氏が、有名な掲示板「Bitcoin Talk Forum」に投稿したメッセージについて伝える記事を書けることに喜んでいたのだ。しかし、本当のことを言うならば、ビットコインが裏付けとなるステーブルコインの可能性にワクワクしていたことも間違いない。

それでも、平凡にならず、たたみかけることもなく、テラについてなるべく多くを伝えるよう努力したい。

ステーブルコイン「UST」

暗号資産の世界には、ステーブルコインというものが存在する。ステーブルコインは多くの場合、1ドルの価値を持つことになっている。時には1ユーロや1人民元のこともあるが、それはまれだ。恨むなら、米ドル覇権を恨んで欲しい。

ステーブルコインは、暗号資産ネイティブが銀行による承認なしで簡単にドルと暗号資産の取引をできるようにするために存在している。ステーブルコインは暗号資産トレーディングの大半を支えており、分散型金融(DeFi)という、決して止まることのない暗号資産回転木馬も動かしている。さらに、スーパーインフレと全体主義政権に悩まされる市民にも使われているのだ。

ステーブルコインにも、色々な種類がある、有名どころでは、テザー(USDT)、USDコイン(USDC)、バイナンスUSD(BUSD)、ダイ(DAI)。そして、TerraUSD(UST)だ。

これらが、トップ5のステーブルコインで、合わせると約1600億ドルの価値がある。そのうち3つ(USDT、USDC、BUSD)は、中央集権型組織が発行する担保されたステーブルコインで、これらの組織は、各コインを裏付けるための資産を保有しており、保有者は発行者に、1コインを1ドルに引き換えてもらうことができる。

DAIは様々な暗号資産のポートフォリオによって担保、裏付けされているという点で異なっている。中央集権型組織によって発行されるのではなく、メイカーDAOという自律分散型組織(DAO)がDAIを運用。そしてドルではなく、暗号資産で担保されているが、超過担保されているという点が重要だ。

USTはさらに異なる。まったく担保されていないのだ。テラプロトコルが支える、アルゴリズム型ステーブルコインであるUSTは、LUNAと呼ばれるトークンで裏付けられている。

つまり、UST価格が高過ぎる(1ドル超え)場合は、LUNAを焼却し、USTを発行するように、プロトコルがユーザーに対してインセンティブを与える。逆にUST価格が低すぎる(1ドル未満)場合には、USTを焼却し、LUNAを発行するように、プロトコルがユーザーに対しインセンティブを与える。

表面的には、賢い仕組みに見えるし、シンプルだ。USTに対する需要が高く、1.01ドルになってしまう時には、LUNAを取り除いて、USTを発行する、という具合である。問題は、完璧に機能していたのに、上手く機能しなくなることがある点だ。そして先週、機能しなくなったのだ。

UST価格の推移
出典:TradingView

1ドルのはずだったのだ。11セントではなく。LUNAのチャートは、さらにひどいことになっている。

LUNA価格の推移
出典:TradingView

メカニズムが故障してしまったか何かだろう、と思って当然だ。しかし、故障した訳ではない。意図された通りに動いていたし、そのことは、テラプロトコルがアルゴリズムによってUST価格を1ドルに回復させようとする中、LUNA価格が急落していった時の、発行されていたLUNAの数を見れば分かる。

LUNA供給量の推移
出典:CoinDesk Reseach、Terrascope

そうなのだ。流通しているLUNAの合計数は、5月5日の約7億2500万から、5月13日には7兆近くまでに急増。一方、LUNAの価値は、99.9%下がった。ハイパーインフレの様相を呈したのだ。

前述の通り、テラを手がけるテラフォーム・ラボ(Terraform Labs)は、このような事態に備え、LFGを通じて100億ドル相当のビットコインやその他の暗号資産を購入する計画を立てた。

しかし、問題は残ったままだった。USTは、ステーブルコイントップ5の他のコインのようには、担保されていなかったのだ。暴落前、USTの時価総額は180億ドル。LFGが保有していた約40億ドルの準備金の規模を、はるかに超えていた。

それでも幸運だった

何が起こったかを簡単にまとめると、こうだ。UST価格は1ドルを割り、テラプロトコルのアルゴリズムや、LFGの準備金をトレーディング企業に貸し付けるといったあらゆる試みが、USTの価値を1ドルに回復させることはできなかった。USTとLUNAで、400億ドル以上の価値が失われたのだ。

しかし、実際に何が起こったのかは、それほど重要ではない。大切なのは、悪い事態が発生した時に、テラが対処できなかった、という点である。担保が不十分ではないアルゴリズム型ステーブルコインは、どれほど長期間成功しても、失敗するということなのだ。

システムは失敗に終わった。しかし正直に言うならば、失敗する直前まで、USTは大成功を収めていた。2027年頃に、USTの模倣コインが登場してくれば、歴史が教訓となってくれるだろう。

あらゆる市場をまたいで集団ヒステリーを引き起こすほどに、USTとLUNAが大物でもなければ、他と密接に結びついていなかったという点で、私たちは驚くほど幸運でもあった。率直に言って、このような事態が2030年ではなく、2022年に起こったことも、幸運だったと、私は考えている。

ブルームバーグのマット・レバイン(Matt Levine)氏が、その点を次のように巧みにまとめている。

5年後、暗号資産のすべての価値がゼロになったとしたらどうだろう…この先の5年で何が起こるかは分からないが、(少なくとも先週の時点では)暗号資産が実体経済へとますます組み込まれ続けるというのは、十分に有り得る話だった。より多くの暗号資産企業が大きく、重要なものとなり、他の企業とつながっていく。

そのような企業の株式がインデックスの一部となり、事業資金のために、銀行からローンを借りたり、手持ちの資産を使う。(中略)暗号資産プラットフォームは、実体経済での活動のために使われる。普通の人たちが、手持ちの資産を暗号資産プラットフォームに投資し、その投資が非暗号資産系の実体のある事業活動の資金に使われる。

その通りだ。あなたが私のように、いつの日かたった1つの暗号資産しかなくなることを願うビットコインマキシマリストだとしても、短中期的には、より多くの業界でより多くの暗号資産を見ることになると、認めざるを得ないだろう。

ただし、担保の不十分なアルゴリズム型ステーブルコインが次に失敗したら、失われる価値は、400億ドルでは済まないだろう。4000億ドルかもしれない。そうなれば、壊滅的だ。そのようなシナリオは、何としてでも回避しなければならない。

教訓

明るい側面を見るならば、ビットコインは、完全に崩壊することはなかった。UST価格を1ドルに回復させようと、準備金であった約40億ドル相当のビットコインのうち8万BTCが、売られた可能性がある。(実際に売却されたかは、まだ確認できていないが、取引所に送られた)

そのために、ビットコイン価格にも反応が出たが、巨大暗号資産プロジェクト(LUNAはかつて、時価総額トップ10の暗号資産だった)が災難に見舞われていたために、広範な暗号資産市場で急落が見られたのだ。

さらに、厳しいマクロ経済状況と、市場での全面的なリスクオフセンチメントを加えれば、ビットコインがいまだに、時価総額5000億ドル以上を保っていることは、ほとんど奇跡に思える。

BTC価格の推移
出典:TradingView

ここ13年間の、前例のないほどの強気相場によって、大きな数字に対する感覚が麻痺しまっているようなので、繰り返しておこう。ビットコインは、2009年に匿名の誰かが生み出した、まったく価値のない、ピアツーピア版の電子マネーだったのだ。

巨大企業や政府がマーケティングやリサーチ、法務関連で資金を提供することもなかったのに、今や政治や投資の世界の重鎮たちが、コメントする必要を感じるほどに重大なマクロ資産となっている。

膨大な取引高にも負けない、本格的なマクロ資産となったビットコインは、定着していくだろう。暗号資産も同様だ。今回のテラ暴落は、私たちはそこから学ぶことができるのならば、良い教訓となってくれるはずだ。

しかし、歴史を参考にするならば、テラを率いたクォン氏のような自信過剰な態度が、「未来の私たち」を打ち負かすことがないように気を引き締める必要はある。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:The Collapse of UST and LUNA Was Devastating, but There Is Still Hope for Crypto