米有力VCアンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)は17日、初の「State of Crypto(暗号資産の現状)」レポートを発表した。このレポートは、ウェブ3の世界がテーマとなっており、同社はインターネットの未来に向けたビジョンを語っている。
大手VCと暗号資産
全体的に非常に前向きなレポートだ。a16zという略称を持つアンドリーセン・ホロウィッツは56ページのレポートの中で、革命は始まったばかりだとの主張を展開。暗号資産(仮想通貨)が今、弱気相場を迎えていたとしてもだ。
ウェブ3という言葉は、もうすでに何年も使われているが、最近ではその定義が明確ではないとして、批判も聞かれる。この言葉は、イーサリアムブロックチェーンの共同創業者の1人であるギャビン・ウッド(Gavin Wood)氏が、暗号資産を基盤としたウェブを形容する言葉として作り上げたと言われることが多い。
a16zにとってこの言葉は、NFTからDAO(自律分散型組織)、暗号資産ゲームからイーサリアムやソラナなどのブロックチェーン、そしてそれらのスケーリングツールまで、あらゆるものを指すものだ。
a16zと暗号資産業界との関係は複雑である。暗号資産界に最初に進出したベンチャーキャピタルの1社であるa16zは、少し前までの強気相場で、投資を2倍以上に増やしていた。
昨年には22億ドル規模の暗号資産ファンドを立ち上げ、馴染みのあるプロジェクトにも、あまり聞き覚えのないようなプロジェクトにも、投資を行なってきた。各種トークンを保有する大企業であり、特定のブロックチェーンにとらわれている訳ではない。
市場が低迷する中、ベンチャーキャピタルを暗号資産の生命線と考えている人たちもいる。しかし、筋金入りの暗号資産ネイティブたちは、a16zのような存在が、暗号資産の反体制的な目標と矛盾する、と考える。ウェブ3はあらゆる人に開かれているかもしれないが、a16zが流動性を引き上げてしまえば、そんなことはあまり意味をなさなくなってしまうだろう。
a16zの今回のレポートには、新しいところはほとんどない。例えば、イーサリアムユーザー数や、どれほど多くのDAOガバナンス票が投じられたかなど、最新データを提供してはいるが、おおむねこれまでにも良く語られてきたナラティブの範囲内に留まっている。
暗号資産が優れているのは、世界中で17億人もを除外する現状の銀行システムに取って代わる金融システムだからだと、a16zは主張。レポートの概要セクションの中でその点に触れ、「暗号資産は実世界に対する影響力を持つ」とまとめている。
ウェブ3はターニングポイントであり、「書き込みのみ」から「読み込みと書き込み」ウェブサイトへと進化してきたウェブの、自然な次なる成り行きであると、a16zは考えている。
言い換えるならば、原始的な「ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)」は人々がオンラインで情報を読むことを可能にし、ウェブ2は人々がコンテンツを作成することを可能にし、ウェブ3は人々が「インターネットの一部を所有する」ことを可能にするのだと、レポートでは説明している。
デジタル資産はボラティリティが高いかもしれないが、それはプラスの性質だと、a16zは述べる。価格がテクノロジー普及の「主要な指標」となるような、「基盤となる論理」が暗号資産市場には存在しているのだ。
価格で惹きつける
「価格が人々を惹きつける。数字が関心を高め、関心の高まりがアイディアとアクティビティを盛んにし、それがイノベーションを活発にする」と、a16zは主張する。「価格イノベーションサイクル」と呼ばれるこのプロセスは、2020年に初めて紹介されたものだ。
ベンチャーキャピタルがそのようなことを言っているからといって、責めることはできないだろう。a16zはより良い世界を築く人たちに投資していると謳っているが、主眼は利益を上げることにあると言って良いはずだ。
レポートに提示されたデータは、暗号資産が安定した投資になり得ることを示している。分散型金融(DeFi)は登場からわずか2年で、「運用資産で31番目の銀行」になれるほどの規模にまで成長したと、a16zは指摘する。
NFTも同様の潜在力を秘めており、クラウドファンディングのモデル、ロイヤリティ、知的財産などをめぐるイノベーションを促進している。同じことが、ゲームやメタバースにも言えるだろう。「私たちは、その潜在能力を目の当たりにし始めたばかりなのだ」と、a16zは主張する。
それでも今回のレポートは、「投資、法務、税務などに関するアドバイスとして捉えたり、頼りにするべきではない」と、a16zは警告。表明される見解は「純粋に情報提供を目的」としているそうだ。
誰のためのレポート?
a16zは政治家や規制当局に対して、暗号資産市場に対する寛大なルールとでも言えるものを提示するよう求めている。しかし、レポートでは、そのような取り組みや、暗号資産をめぐる複雑な規制関連の問題には触れられていない。
さらに、元祖暗号資産のビットコイン(BTC)も言及されておらず、デジタル資産業界全体を扱ったものではないのだ。多くの投資家が、ビットコインは今でも良い投資先だと考えているが、利益を上げる確実な方法ではない。確かに一部のビットコイナーたちは、あらゆる資産は、供給量の上限の設定されたビットコインに対して価値を失っていくと信じているのだが。
ウェブ3の鍵となるイノベーションは、その要素に誰でもが投資できるようにする点だ。暗号資産市場は、インターネット接続さえあれば誰にでも、1日24時間いつでも開かれており、a16zが10年前に、フェイスブックなどのウェブ2大手を導き入れたプライベート資金調達ラウンドとは根本的に異なっている。
暗号資産業界は、持続可能な成長を続けているサインが見られる。a16zは、CoinMarketCap、GitHub、Pitchbook、ツイッターなどから例を挙げ、様々なブロックチェーンに何百万もの開発者や「アクティブユーザー」が存在することを示している。
「推測するのは非常に困難だが、トレンドがこのまま続けば、ウェブ3は2031年までに、ユーザー数10億人を達成するかもしれない」と、a16zは予測。10億人のユーザーを抱えた暗号資産業界がどのようなものになるか、私には想像できない。現行のデザインでは、暗号資産システムは非常にコストが高く、そのような圧力につぶれてしまうかもしれないと考えるのも、無理はない。
もちろん、暗号資産業界がどこに向かっているのか、誰にも分からない。金利の高まりとインフレによって、最もリスクの高い市場から資本が流出するようになれば、先行きの不透明感はさらに高まるだろう。
今回のレポートは、「暗号資産の現状」についての、予想通りだが興味深い見解である。しかし、投資アドバイスでないことは、間違いない。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:アンドリーセン・ホロウィッツ共同創業者のマーク・アンドリーセン氏(Wikimedia Commons)
|原文:What Web 3 Means to Andreessen Horowitz