フロリダ州パームビーチで開かれた金融メディア「ブロックワークス(Blockworks)」主催のDeFiカンファレンス「パーミッションレス(Permissionless)」は、ある話題で持ちきりだった。テラの破綻だ。
USTとLUNAのデス・スパイラルで、400億ドルもの資金が宙に消えたのだ。カンファレンス参加者の多くは当然ながら、その影響がどこまで広がるのか、誰が壊滅的なダメージを被ったのかで、頭がいっぱいだった。
「もう手遅れの状況だと思う」と、暗号資産(仮想通貨)ベンチャーキャピタル企業シチズンX(Citizen X)の共同創業者マイケル・タント(Michael Tant)氏は語り、「多くの人がひどいダメージを受けているが、その範囲はまだ分かっていない。これから数カ月かけて、ゆっくりと明らかになって来るだろう」と続けた。
CoinDeskでは、ベンチャーキャピタリストからプロジェクト創業者、開発者まで、様々な参加者に話を聞いた。そのほとんどが、テラの破綻について、そして市場、規制、一般の人たちの意見など、業界に与える広範な影響についての懸念を表明した。
「この先、ヨットでのパーティーはもっと控えめなものになるだろう」と、暗号資産ベンチャーキャピタル企業フレームワーク・ベンチャーズ(Framework Ventures)の共同創業者ヴァンス・スペンサー(Vance Spencer)氏は指摘。
「私が初めてカンファレンスで講演したのは2018年中頃。先日、その時の講演者のリストを見返してみたんだ。その中の75%は、もう暗号資産界にはいない。多くの人が業界を去っていくことになるだろう」とスペンサー氏は語った。
しかし、パーミッションレスの場では、暗号資産関連の盛り上がりはいまだに健在だった。
Markets may be down but you can’t stop the builders.
— Yano 🟪 (@JasonYanowitz) 2022年5月17日
7,000+ at @Permissionless, kicking it off with @cdixon. pic.twitter.com/GO4SKF4GOy
「Yano:
市場は低迷しているかもしれないが、開発者達を止めることはできない。
パーミッションレスには7000人以上が集結。@cdxionからスタート」
テラの不在
カンファレンスの開始が近づくにつれ、多くのチケットを買った人の多くが、主要スポンサーのテラがどのような役割を果たすのかについて思いを巡らせていた。
CoinDesk取材班が参加した3日間では、テラの創業者ドー・クォン(Do Kwon)氏や、それ以外のテラチームは見当たらなかった。
「驚きではない」と、ある投資家は語り、「ドー・クォン氏がアメリカの地に足を踏み入れることはないと思う。前回何があったかを考えてみれば分かる」と続けた。
彼が指しているのは、昨年9月、データ企業メッサーリ(Messari)がニューヨークで開催したカンファレンス「メインネット(Mainnet)」のこと。その場でクォン氏は、登壇前に米証券取引委員会(SEC)から召喚状を受け取ったのだ。
今回のカンファレンスで、クォン氏がトップバッターで話をするはずだったステーブルコインについてのパネルディスカッションは、メイカーダオの主任開発者サム・マクファーソン(Sam MacPherson)氏を代役に立てて行われた。メイカーダオは、USTの競合であった分散型ステーブルコイン、ダイ(DAI)を手がけている。
「長年にわたって、2つのコミュニティ間では議論が白熱していた」と、メイカーダオのルカ・プロスペリ(Luca Prosperi)氏は語り、「最終的には、メイカーダオの仕組みの方がレジリエンスが高いことが証明された。しかし、そのことが私たちに喜びをもたらすことはない。多くの人が多くのお金を失ったのだから」と続けた。
さらに、本来はテラが主催する予定だった初日のパーティーは、先月テラとパートナーシップを結んだブロックチェーンのアバランチが代わりに主催した。
「テラのチームは、記念品をすでに会場に送っていた。ブースを開設する予定だった」と、カンファレンス関係者は語る。「カンファレンスが始まる前にやって来て、すべて撤収していった。ミームのネタになるのはご免だろうからね」
LMAOOOOOOO https://t.co/jV6Ynu9SPu pic.twitter.com/Kd4FWSd96o
— Andrew T (@Blockanalia) 2022年5月17日
主催者の部分がテラからアバランチに変更されていることを示す写真
次なる展開
CoinDeskは、テラのロゴがプリントされたシャツを着た参加者を見つけた。テラ開発者のイバン・ズンデル(Ivan Zundel)氏だった。シカゴで開催されていたテラの開発者イベントから、このカンファレンスのために飛んできたのだ。
「テラの未来についてはよく分からない」と、ズンデル氏。「しかし、エコシステムや開発者達は優れていたと思う。誰もテラを使わないのに、誰がテラを基盤に開発したがるかという点が問題だ」
CoinDeskでは、ブロックチェーン「ウェーブス(Waves)」のアルゴリズム型ステーブルコインプロジェクト「USDN」の関係者にも取材した
「Neutrino USD(USDN)は、UST/LUNAのようにデス・スパイラルに陥ることはない」と、USDNを手がけるウェーブス・ラボ(Waves Labs)のコールマン・マーヘル(Coleman Maher)氏は述べた。「LUNAはハイパーインフレ的になったのに対して、WAVESには(発行)上限が設定されている」
マーヘル氏は、USDNはトークンのWAVESのみで裏付けられていると語り、自らのプロジェクトへの自信は揺るがないと続けた。WAVESは今年、300%以上値上がりし、3月には史上最高値の62ドルを記録。その後は値下がりし、24日現在では5.46ドルになっている。
メイカーダオのプロスペリ氏は、ステーブルコインは忍耐の必要なプロジェクトだと語った。
「外から見ると、メイカーは常にゆっくり動く巨人のように思われてきた」とプロスペリ氏は語る。「イノベーションには時間がかかるが、ステーブルコイン発行元には、用心深さが非常に大切だと考えている。イノベーションを行う時に、非常に慎重になることには価値がある」
気を引き締める
LUNAの暴落に直接影響を受けていない暗号資産関係者にとっても、弱気相場によって、暗号資産界における「お金が簡単に手に入る」環境はしぼんでしまったようだ。
「1〜2億ドル規模のシリーズA資金調達ラウンドが多く行われており、非常にフレンドリーな環境がかつてはあった」と、スペンサー氏は振り返り、「そんな時代はもう終わってしまったのだと思う。今は、プロジェクトがシードラウンド後に勢いをつけられなければ、再び資金を受け取れることはない」と指摘した。
ベンチャーキャピタルからの関心が低下するという予測が的中すれば、創業者達はこの先、資本の引き締めに直面するかもしれない。
「無責任なバーンレートを支えてくれるような資金調達ラウンドを期待して、資金がなくなるまでの猶予が9カ月もない状態で、企業は2022年を迎えた。今そのような企業は、厳しい決断を迫られている」と、トークン分配プラットフォーム、マグナ(Magna)の共同創業者ブルーノ・ファビエロ(Bruno Faviero)氏は語った。
ベンチャーキャピタル企業ハッシュド(Hashed)との資金調達ラウンドを進めていたプロジェクトからカンファレンスに参加していたある人物は、ラウンドを主導する新しい企業を探していると述べる。CoinDeskでは以前、テラの大口投資家であったハッシュドが、今回の騒動で35億ドルの損失を出したと報じた。
「巨額の損失を被り、今売却を迫られているベンチャーキャピタルのことを心配している。壊滅的な被害を受けたファンドは、ポートフォリオにある他のプロジェクトで利益を上げたり、流動性を得ようとするはずだ」と、シチズンXのタント氏は話す。
現在の弱気相場は、2018年後期から2020年初頭までの「暗号資産の冬」よりもマシだとして、回復についてより楽観的な関係者もいる。
「機関投資家が本腰を入れて暗号資産を買うようになったのは、ここ24カ月のことだ」と、暗号資産投資会社ハートマン・キャピタル(Hartmann Capital)の創業者フェリックス・ハートマン(Felix Hartman)氏は語り、「興味深いのは、彼らがその動きを止めていない、ということだ。2018年の時のように『危ない、ぎりぎりで被害を免れた』とは言っていないのだ」と指摘した。
ハートマン氏によれば、機関投資家はテラ騒動にもめげず、暗号資産への関心を持ち続けている。さらに、株式市場もあまり芳しくないようだ。これも、暗号資産への機関投資家の関心を高める要因となっている。
「(米小売大手)ターゲットの株価が1日に25%も値下がりするなら、暗号資産もそれほど悪くはないのかもしれない」と、ハートマン氏は語った。
暗号資産の減速
暗号資産業界の健全性を測るもう1つの重要な指標は、開発者人材の流入だ。少なくともパーミッションレスで聞かれた話では、こちらも市場の低迷に影響を受けているようだ。
暗号資産ブローカーのフローティング・ポイント・グループ(Floating Point Group)の共同創業者ケビン・マーチ(Kevin March)氏によれば、同社は昨年、採用の申し出が100%受け入れられていた。
しかし、5月7日以降、同社は何件か採用の申し出を断られている。面接後のフィードバックによれば、候補者達はその理由を「暗号資産の世界に進出するのには良い時期ではない」と説明しているそうだ。
「ほぼ2年間、完璧な成果をあげていた。我が社の創業は2018年の暗号資産の冬の頃だったから、私たちにはやり方は分かっている。今は開発の時なのだ」と、マーチ氏は言う。
暗号資産界における開発はすべて同じではないので、より「皆が利益を得られる非ゼロサムゲーム」に重点を置くべきだと、暗号資産助成金組織ギットコイン(Gitcoin)の創設者ケビン・オウォッキ(Kevin Owocki)氏は主張。
「関心と資本を、最新の分散型カジノから、世界に対してプラスの副次的影響をもたらす(自律分散型組織や)プロジェクトへとシフトすることが私たちの義務だ」と、オウォッキ氏は語った。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:イメージ画像(Anton Gvozdikov / Shutterstock.com)
|原文:LUNA’s Ghost Haunts ‘Permissionless’ Crypto Conference