ダボス会議と暗号資産

スイスのダボスで開かれた世界経済フォーラム(WEF)の年次総会、いわゆる「ダボス会議」の会場。イングランド銀行元総裁のマーク・カーニー(Mark Carney)氏が、ブリッジウォーター・アソシエーツ(Bridgewater Associates)創業者のレイ・ダリオ(Ray Dalio)と歓談し、その横を、欧州中央銀行総裁のクリスティーヌ・ラガルド(Christine Lagarde)氏が通り過ぎていく。

これはなんと、先週私に起こった最も現実離れした出来事の2番目に過ぎなかった。ビル・ゲイツ氏とすれ違ってしまったのだから。

ダボス会議

基礎情報

ダボスで私が出会った素敵な紳士が、今年のWEFには約2500人の公式代表が参加し、会場外のメインストリート「プロムナーデ」には、暗号資産(仮想通貨)業界から約3500人が集まっていると教えてくれた。

重要性

会議とサイドイベントに暗号資産業界からの参加があったことは、メッセージとなるはずだ。暗号資産は業界として、真面目に捉えられるべきなのだ。

しかし、ダボスの名高いプロムナーデに場所を確保することの主眼は、自社の名前を示すこと、本当のブランドだと誇示することにある。投資に対する手軽なリターンを確保するためではない。

暗号資産市場の弱気相場が続く中、見返りはどんなものになるかという疑問が浮かんでくる。

暗号資産の存在感

暗号資産はその地位を確立しつつある。

WEFから宿泊先に帰る電車の中、2日間連続で、私は暗号資産業界関連者に出会った。メインの会議が行われていたコングレス・センターの外に足を踏み出した参加者は、様々な暗号資産企業のポスターや広告を目にすることとなった。

様々な討論会のセッションにおいて、討論者たちは自ら暗号資産の話題を持ち出した。私は暗号資産と関係のない組織主催のディナーに参加して、何年も前に暗号資産に投資した人物にも会った。

明らかに人々は、暗号資産業界のことを気にかけている。暗号資産業界としては、参加に価値があったのかという疑問が浮かぶ。

参加者たちは、様々な建物に広告を貼り出すために、巨額の費用を支払っている。具体的な数字を明らかにしてくれた人はいないが、何と言ってもダボスなのだ。

普通の年なら、金融業界の巨大企業や潤沢な資金を持つテック企業と競い合うことになる。今年は、アクセンチュア、セールスフォース、メタ、データ分析のパランティアが、施設を設営していた。

ダボス会議が5月に延期されたことで、大いに歯車が狂ってしまったようだ。今年のイベントは、例年に比べて随分と規模が小さいと多くの人が語ってくれた。

終わり方もかなり唐突だった。26日の午後、実質的にはまだイベントが進行中なのに、コングレス・センターに続くセキュリティゲートが突然撤去されたのだ。

つまり、暗号資産業界は、通常のスポンサー企業の不在につけ込んで、うまく足を踏み入れることができた、という可能性が大いにある。通常のWEFで同じようなことを繰り返すことができるのか見極めるのは時期尚早だ。(次回は2023年1月15日〜20日の予定)

WEFで金融・通貨システムの未来担当の責任者を務めるマシュー・ブレイク(Matthew Blake)氏は、複数の組織からの関心がなければ、年次総会で暗号資産関連の討論会が開かれることはないと語った。

「テーマから研究に至るまで、私たちがすることのすべてには、複数の利害関係者が関わることになる」とブレイク氏は説明し、次のように続けた。

「それが、私たちの運営方針の中核となるものだ。世界中の中央銀行から大きな関心が寄せられている主要分野の1つが、(中央銀行デジタル通貨の)分野だ。(中略)世界中の議員、中央銀行関係者、財務相などから話を聞いている。この分野の進化を理解し、後れを取らないようにという雰囲気が感じられる」

中央銀行や金融規制当局は、心から喜んで暗号資産を歓迎している訳ではないが、少なくとも許容している。

IMF(国際通貨基金)の専務理事クリスタリナ・ゲオルギエバ(Kristalina Georgieva)氏は、中央銀行デジタル通貨について議論する討論会において、暗号資産セクターから「手を引く」ことの無いように語り、「オレンジとバナナからリンゴを区別する(区別するべきものはしっかりと区別する)こと」が大切だ、と加えた。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:CoinDesk
|原文:Thoughts From Davos