3万ドル付近で揉み合い続くビットコイン──「底入れ」と言い切れない微妙な状況【bitbankレポート】

5月のビットコイン(BTC)相場は16.62%安と2カ月続落し、490万円から400万円周辺まで下落。月初の米雇用統計で賃金が高止まりしたことを切っ掛けに米株が急落を演じると、BTCも連れ安となり500万円を割り込んだ。

そこに追い討ちをかけるようにTerraUSD(UST)のディペッグ騒動が勃発しLUNA主導で仮想通貨市場は暴落すると、ステーブルコインへの信認が揺らぎ、ドルテザー(USDT)も一時ディペッグする羽目となり、BTCは一気に350万円近辺まで安値を広げた。

一方、対ドルで前年安値を割り込むと相場は反発。戻りは鈍く上値の重い状態が続いた一方、オプション建玉が集中する3万ドル(約398万円)水準で相場は膠着し、底堅い推移が続いた。

5月下旬には、 人気アプリSTEPNが中国で禁止されるとの発表を受け、ガバナンストークンのGMTが暴落。BTCや主要アルトコインも巻き込まれ、一時は市場全体で安値を模索するムードが広がったが、米小売業の好決算を受けた米株の反発に救われる格好でリスクオフムードが巻き戻し、BTCはショートカバーを伴って反転上昇し400万円台を回復した。

ただ、その後はSolanaのネットワーク停止によるSOL相場急落や、複数の米中銀当局者からタカ派的な発言が相次ぎ反落。外国為替市場でドル円相場が調整を終え反転上昇したことで、円建てのBTC相場は半値押しにとどまったが、ドル建てではほぼ全値押しとなった。

6月に入るとBTC相場は再び上値をトライしたものの、米証券取引委員会(SEC)がバイナンスのBNBトークンが証券である可能性を調査し始めたとの報道や、米国でDAOの法人登録を義務化する法案が浮上し3万ドル水準を割り込む展開となっている。

(第1図:BTC対円チャート 1分足/出所:bitbank.ccより作成)

5月初旬の相場急落でBTCはセリングクライマックスを迎えた可能性も指摘されたが、今一つ「派手さ」に欠けた。先物の資金調達率(FR)は大きくマイナスに触れることなく、基本的にプラス圏での推移が続き、市場の買い持ち高が売り持ち高を上回っている状態だ。相場が大底を打つ際は売りが出尽くしFRが極端に低下するのがこれまでのパターンとなっている。

また、今年のハッシュレートとディフィカルティ、加えて相場の動きは需給バランスを悪化させるパターンとなっている。2022年のBTC相場は下落しているが、一方でハッシュレートは4月まで上昇基調を保ち採掘難易度を引き上げてきた。つまり、マイナーにとっては時間の経過とともに収益性が潰れていく構図だ。こうした状況が続いたことで、ついに5月にはハッシュレートが頭打ちとなり、採掘難易度が4%超低下した。

これにより競争率は低下し、ハッシュレートも横ばいとなっているが、BTC相場が何かしらの要因で上昇基調を保たなければ、イタチごっこが続き需給関係は改善しにくい。実際に、マイナーから取引所に送られるBTCは直近で増加傾向にあり、実需筋の売り圧力が相場にのしかかっている可能性が指摘される(第2図)。

(第2図:BTC対円、マイナーから取引所へのBTC送金量チャート 日次/出社:bitbank.cc、Glassnodeより作成)

これまでにこうした需給関係の悪化が起きた際は、ある意味で需給の「リセット」が起きていた(第3図)。要は、マイナーが赤字覚悟でハッシュレートを引き下げ採掘難易度を極端に押し下げ、競争率を下げて収益性を改善するということだ。

勿論、これには相場の暴落が伴うが、売りが出尽くすことで相場が自律反発し、マイニングの収益性は短期間で回復する。

(第3図:BTC対円、ハッシュレートとディフィカルティチャート 日次/出所:bitbank.cc、Glassnodeより作成)

ビットコインには半減期を軸とした約4年のサイクルがあるが、2020年3月のコロナショックを例外として暴落にも4年のサイクルがある(第3図内白円)。最後の暴落は2018年11月となっており、今年はちょうどそれから4年が経つ。

マクロ経済動向から言っても、今年は金融引き締めサイクルが始まっており、米国のインフレ動向次第で年末までの引き締めペースを巡り市場にショックが走る可能性は大いにある。4月のインフレ指標は頭打ちとなったが、5月は原油価格が再び急騰し始めた。

5月の50bp利上げの効果がどれだけ需要の抑制に繋がったかはこれから判明するが、その効果が確認されなければ年末時点で米政策金利が3.5%以上で着地するシナリオを市場は織り込み始めるだろう。

これだけ聞けばBTC相場も「お先真っ暗」と聞こえるかもしれないが、現状では反対に悪材料が出尽くしてBTCの買い持ちが焼き払われた方がテクニカルやファンダの面でも相場が大底を突いて反転するきっかけになると見ている。

夏までに米国のインフレが抑制されるサインが出て、チャートの側面でもセリングクライマックスが確認されれば、ようやくBTC相場も大底を突いたと判断できそうだ。


長谷川友哉:ビットバンク(bitbank)マーケット・アナリスト──英大学院修了後、金融機関出身者からなるベンチャーでFinTech業界と仮想通貨市場のアナリストとして従事。2019年よりビットバンク株式会社にてマーケットアナリスト。国内主要金融メディアへのコメント提供、海外メディアへの寄稿実績多数。


|編集・構成:菊池友信
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