暗号資産(仮想通貨)市場がここ数週間で急落するなか、アラメダ・リサーチ(Alameda Research)やスリー・アローズ・キャピタル(Three Arrows Capital)などの大口機関投資家は、分散型金融(DeFi)プロトコルのカーブ(Curve)を使って、保有するステークド・イーサ(staked ether:stETH)を減らしている。この緊急事態ともいえる状況は、stETHがイーサリアム(ETH)のペッグから予想外に逸脱したためだ(通常、stETHはETHを1対1の価値を保つ)。
だが現在、大口投資家がstETHを処分するために利用したカーブの、いわゆる「流動性プール」は急速に枯渇しており、今後の売り手は、ディスカウントがさらに大きくなる可能性がある店頭(OTC)市場を使わざるを得ないかもしれない。
問題となっているプールを使えば、投資家はstETHをETHに交換できる。5月上旬以降、このプールのTVL(Total Value Looked)は、46億ドルから6億2100万ドルまで減少。さらにきわめてアンバランスな状態になっている。つまり、プールにはETHの約5倍のstETHがあり、大量のstETHを交換することは高くつくか、あるいは不可能だ。
「カーブのプールが唯一の取引手段だった個人投資家に対しては申し訳なく思っている。機関投資家はまだ店頭(OTC)取引を行うことができた。ただ、カーブのプールよりディスカウントがはるかに大きく、損害が大きかった」とVC投資会社Frameworksの共同創業者ヴァンス・スペンサー(Vance Spencer)氏は語った。
stETHのディスカウント
stETHのディスカウントは、最近の暗号資産市場の流動性危機を表しているとして、アナリストの注目を集めている。stETHは「ビーコンチェーン」と呼ばれるイーサリアムの新しいブロックチェーンにロック(ステーキング)されたETHを表す。
高インフレと積極的な利上げの時代には、投資家は簡単に売却できる「流動性の高い」資産を好む。今、問題となっているのは、ビーコンチェーンにロックされたトークン、つまりETHは、イーサリアムブロックチェーンが「The Merge」と呼ばれるPoS(プルーフ・オブ・ステーク)移行に成功した後、6~12カ月後まで引き出して、取り引きできないことだ。関係者の予測によると、The Mergeは早くても8月以降になる。
暗号資産リサーチ企業メッサーリ(Messari)のアナリスト、チェイス・デベンス(Chase Devens)氏は今週初め、レポートに「stETHは自然な価格発見の初期段階にあり」、ディスカウントは「ステーキングされたイーサリアムが、ビーコンチェーン上でロック解除されると解消するだろう」と記している。
逃げ出した大口保有者
先月のテラ(Terra)ブロックチェーンの崩壊まで、stETHはETHと1対1で取引されていた。しかしその後、2~3%のディスカウントが生じた。stETHの主要な保有者である暗号資産レンディング大手セルシウス(Celsius)とヘッジファンドのスリー・アローズ・キャピタルの財政難をきっかけに、ディスカウントは6月初旬までに5~6%まで拡大した。
「セルシウスとスリー・アローズ・キャピタルのポジションの透明性は、両社にはデメリットとなった。特定の資産を攻撃し、清算を引き起こすためにはいくら必要かを空売りを狙うショートセラーが把握できるからだ」とイーサリアムに特化した開発会社コンセンシス(ConsenSys)のレックス・ソコリン(Lex Sokolin)はコメントした。
結果的に一部の大口保有者はstETHをETHと交換するために、主にカーブのプールを利用した。データサイトのカイコ(Kaiko)によると、ここ数カ月、stETHの分散型取引所(DEX)における取引高の98.5%はカーブが占めた。一方、中央集権型取引所での取引高はごくわずかだった。
機関投資家向けに暗号資産事業を展開するアンバー(Amber)はカイコのレポートによると、6月上旬の数日で1億6000万ドルを引き出した。アラメダ・リサーチは8800万ドルのstETHを売却。債務超過の可能性に直面しているスリー・アローズ・キャピタルも同様の動きを示した。
「流動性供給者がいなくなった理由は、ペッグが壊れた途端、ETHを安く売りすぎたというひどい目に会ったからだ」と自動マーケットメーカー、マーベリック・プロトコル(Maverick Protocol)の最高技術責任者ボブ・バックスレイ(Bob Baxley)氏は述べた。
最終的にカーブの流動性プールは85%縮小し、現在、約11万1000ETHと49万2000stETHを保有。多くの投資家がstETHを売って、ETHを入手したいと考えている現状を表している。
動きが取れない投資家
セルシウスは「極端な市場状況」を理由に顧客資産の引き出しを停止して以来、市場の鋭い目にさらされている。そして保有するstETHで動きが取れない状況に陥るかもしれない。
ブロックチェーン分析会社ナンセン(Nansen)のポートフォリオ追跡ツール、Ape Boardのデータによると、セルシウスはまだ少なくとも約40万9000stETH(約4億1300万ドル、約550億円)を保有している。
カーブのstETH-ETHプールには約11万ETHしかなく、stETHを交換するためのETHは不足している。
「セルシウスは、中央集権型あるいは分散型取引所でstETHをすべて売却することはできず、支払能力を維持するために店頭(OTC)取引に頼らざるを得なかったか、そうなる可能性が高い」とカイコは記した。
平均的な投資家は通常、店頭市場を利用することができないため、stETHを売却するための選択肢はさらに少なくなる可能性がある。
カイコのレポートを見ると、中央集権型取引所には、stETHを取引するだけの十分な厚みがない。
個人投資家に唯一残されている方法はカーブの流動性プールだが、今週は1日あたり1万〜1万5000ETHのペースで急速に縮小していった。このペースが続けば、プールは2週間以内に完全に空になってしまう。
|翻訳:coindesk JAPAN
|編集:増田隆幸
|画像:Kaiko
|原文:Biggest ‘stETH’ Pool Almost Empty, Complicating Exit for Would-Be Sellers